【聖域なきコスト削減】費用対効果が低い”赤字施策”、どうやめる?上司と組織を動かす戦略的5ステップ

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【この記事はこんな方に向けて書いています】

  • 「この施策、本当に意味あるのかな…」と疑問を感じながらも、何もできずにいる方
  • 担当している施策の成果(ROI)が悪く、上司への報告に頭を悩ませているマーケターや企画担当者
  • データに基づいて、チームのリソースを最適化し、生産性を上げたいと考えているリーダー
  • 「昔からやっているから」という理由だけで続いている仕事の「やめ方」が分からない方
  • 感情論や政治的なしがらみを乗り越え、スマートに組織を動かしたいビジネスパーソン

「この広告、クリックはされるけど全然コンバージョンしないな…」 「毎月、膨大な時間をかけて作っているこの報告書、たぶん誰もちゃんと読んでないよな…」

あなたの職場にも、そんな風に感じている「費用対効果が低い施策」はありませんか?

それは、会社の利益やチームの士気を静かに、しかし確実に蝕んでいく「静かなる殺し屋」のような存在です。誰もが「おかしい」と薄々気づいているのに、誰も手をつけようとしない。

なぜなら、施策を「やめる」という決断は、「始める」ことの何倍もエネルギーと戦略を要するからです。「前任者から引き継いだだけだし…」「社長の肝いり案件だから…」といった見えない壁が、私たちの行動を鈍らせます。

しかし、もう見て見ぬふりをするのはやめにしましょう。この記事では、そうした聖域と化してしまった”赤字施策”に対して、ただ「やめるべきだ」と叫ぶのではなく、データと戦略を用いてスマートにメスを入れ、組織と上司を動かし、チームをより生産的な方向へ導くための、超具体的な「5つのステップ」を私の経験に基づいてお話しします。

ステップ1: まずは感情を封印。完全武装の「ファクト」を揃える

費用対効果が低い施策を前にした時、絶対にやってはいけないのが「この施策、なんとなくダメそうなんでやめませんか?」という、感情論や肌感覚で話を進めようとすることです。これは議論の土台にすら乗れません。

最初のステップは、あなたの感情や主観を完全に封印し、誰もがぐうの音も出ないほどの客観的な「ファト(事実)」、つまり「数字」で完全武装することです。

「費用」と「効果」を再定義する

まずは、その施策にかかっている「費用」を徹底的に洗い出します。多くの人が見落としがちなのが、広告費や外注費といった直接的な費用だけではなく、「人件費」という間接的な費用です。

例えば、「AさんとBさんが、この施策のために毎月合計30時間を使っている。彼らの時給を仮に3,000円とすると、月々90,000円の人件費がかかっている」というように、目に見えないコストをすべて数値化します。ツール利用料なども忘れてはいけません。これが、その施策の本当の「総コスト」です。

次に「効果」を定義します。これも、「なんとなく売上に貢献している気がする」ではダメです。その施策の目的に応じて、CPA(顧客獲得単価)、CPO(注文獲得単価)、LTV(顧客生涯価値)、あるいはリード獲得数やブランド指名検索数など、具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定し、実績を正確に計測します。

最強の武器は「比較データ」

そして、最も重要なのが「比較対象」を用意することです。ある施策単体のROI(投資対効果)が150%だと聞くと、一見悪くないように思えるかもしれません。しかし、他の施策のROIが軒並み400%を超えていたらどうでしょうか?その施策は「相対的に、著しく効果が低い」と言えます。

「問題の施策Xに月100万円を投下して、得られる利益は50万円です。一方で、絶好調の施策Yは、月50万円の投下で200万円の利益を生んでいます」

このように、複数の施策を並べて比較することで、リソースをどこに集中すべきかは火を見るより明らかになります。感情を挟む余地のない、冷徹なまでのファクト。これが、あなたが最初に手に入れるべき最強の武器です。

ステップ2: あなたは刑事。現場に残された「なぜ?」の痕跡を追う

さて、武器となる「ファクト」が揃いました。しかし、すぐに「中止だ!」と斬りかかるのはまだ早いです。優秀なビジネスパーソンは、ここで思考を止めません。

次のステップは、あなたが刑事になったつもりで、「なぜ、この施策は費用対効果が低くなってしまったのか?」という原因を徹底的に深掘りすることです。この「なぜ?」の解像度が高いほど、後の提案の説得力が劇的に増します。

「効果が低いからです」で終わらせてしまうと、「じゃあ、もっと頑張って効果を上げろ」という精神論で返されてしまうのがオチです。そうではなく、機能不全に陥っている根本原因を突き止めるのです。

多角的な視点で仮説を立てる

原因を探るためのフレームワークは色々ありますが、例えば以下のような視点で仮説を立ててみましょう。

  • 市場・競合の変化: 3年前に始めた時は有効だったが、今は強力な競合が現れたり、市場が成熟してCPAが高騰したりしていないか?
  • ターゲットのズレ: 当初想定していたターゲットと、実際に施策に反応しているユーザー層がズレていないか?そのズレが非効率を生んでいないか?
  • クリエイティブの劣化: 長期間同じ広告バナーやLPを使い続けて、ユーザーに飽きられていないか?(バナー疲労)
  • チャネルのミスマッチ: そもそも、その商品やサービスと、出稿しているメディア(チャネル)の相性が悪いのではないか?
  • カスタマージャーニー上の役割: その施策は、顧客が商品を知ってから購入するまでのどの段階を担うはずだったのか?その役割を本当に果たせているのか?

これらの仮説を立て、Google Analyticsなどのツールでデータを深掘りしたり、ユーザーアンケートを取ったりして、仮説の裏付けを取っていきます。

この地道な捜査活動が、「この施策はただダメなのではなく、〇〇という理由で機能不全に陥っている可能性が高い」という、一段深いインサイト(洞察)をもたらします。そして、このインサイトこそが、次のステップで紹介する「改善案」や「代替案」を生み出すための、貴重な種になるのです。

ステップ3: 「中止」というナイフを隠し、「改善」という名のギフトを差し出す

ここからが、いよいよ対人戦のフェーズです。あなたがどれだけ完璧なデータと分析を用意しても、それを伝える相手は、感情を持つ人間だということを忘れてはいけません。

特に、施策の中止を提案する時、最もやってはいけないのが、正論のナイフを振りかざして「この施策は無駄なので、即刻やめるべきです!」と相手を斬りつけることです。人は、たとえ正論であっても、自分の仕事や過去の決定を否定されると、反射的に心を閉ざし、自己防衛に走ります。

そこで重要になるのが、「中止(ネガティブ)」を単体で提案するのではなく、必ず「改善」や「代替案(ポジティブ)」とセットで差し出す、というアプローチです。

未来志向の「転換ストーリー」を語る

提案の基本的な型は、「課題の提示」→「原因の分析」→「解決策の提案」です。ステップ1と2で用意した材料を、この型に当てはめて、相手が「なるほど、それなら…」と前のめりになるようなストーリーを組み立てます。

ポイントは、解決策を複数用意し、相手に選択肢を与えることです。

  • プランA(改善案): 「ステップ2で分析した結果、ターゲットのズレが原因だと考えられます。そこで、この施策を一旦中止するのではなく、ターゲットをB層に切り替え、訴求内容をこのように変更するテストを2週間だけやらせていただけませんか?これでCPAが30%改善する見込みです」
  • プランB(代替案): 「一方で、この施策Xをやめて、浮いた月々9万円の人件費と100万円の広告費を、現在ROIが400%と好調な施策Yに集中投下するという選択肢もあります。シミュレーションでは、これによりチーム全体の売上が15%向上します」

分かりますか? これは単なる「中止勧告」ではありません。「現状の課題を乗り越え、より良い未来を手に入れるための、ポジティブなリソースの再配分」という、ギフトの提案なのです。

人は、「何かを失う」ことには強い抵抗を感じますが、「何かを新しく得る」ことには魅力を感じます。「中止」というナイフは鞘に収め、希望に満ちた「ギフト」を差し出す。それが、組織を動かす大人のコミュニケーションです。

ステップ4: 敵は作るな。関係者を「共犯者」に変える交渉術

どんな施策にも、それを始めた人、担当している人、思い入れのある人が必ず存在します。彼らのプライドやこれまでの努力を真っ向から否定し、敵に回してしまっては、どんなに正しい提案も通りません。

ステップ4で最も重要な心構えは、「対立構造」を避け、「協調構造」を作り出すことです。関係者を「説得すべき相手」と捉えるのではなく、「一緒に問題を解決するパートナー(共犯者)」として巻き込んでいくのです。

敬意と共感で心の扉を開く

まず、相手への敬意を言葉にして伝えます。「〇〇さんがこの施策を長年続けてこられたお陰で、弊社には△△という貴重なデータと知見が蓄積されました。本当にありがとうございます」と、まずは相手の功績を認め、感謝を伝えるのです。

その上で、「その素晴らしい知見を活かして、次のステージに進むために、ぜひ〇〇さんのお力をお借りしたいのですが…」と切り出します。

そして、議論の目線を「個人 vs 個人」から「チーム vs 課題」へと引き上げます。 「私たちの部署の今期の目標は『売上3億円達成』ですよね。正直なところ、ステップ1でお見せしたデータを見ると、現状の施策のままでは、この目標達成はかなり厳しいと感じています。どうすれば、この『目標未達』という共通の敵を、チーム一丸となって倒せるでしょうか?」

このように、相手を「問題の一部」として扱うのではなく、「解決策を見つけるための重要なパートナー」として扱うことで、相手はあなたの提案を「自分への攻撃」ではなく、「チームの未来のための議論」として受け止めてくれるようになります。

特に、社長や役員など、立場が上の人が始めた「聖域」のような施策に切り込む場合は、この「敬意」と「共通のゴール設定」が、交渉の成否を分ける生命線となります。

ステップ5: 一気に崖から飛び降りるな。小さな滑り台から試す

あなたは完璧なデータとロジック、そして巧みな交渉術を用意しました。それでもなお、長年の慣習や組織のしがらみによって、いきなり「全面停止」の合意を取り付けるのが難しい場合があります。相手も、変化に対する不安やリスクを感じているからです。

そんな時に有効なのが、この最後のステップ。「一気に変えようとせず、小さく試して、成果を見せて、徐々に動かす」という段階的アプローチです。

いきなり崖から飛び降りるよう求めるのではなく、まずは安全な小さな滑り台から滑ってもらうのです。

スモールウィンを積み重ねて、信頼を勝ち取る

例えば、こんな風に提案します。 「承知いたしました。では、いきなり施策をゼロにするのではなく、まずは来月、予算を今の半分にしてみるのはいかがでしょうか。そして、その影響がどれくらい出るかを一緒に見させてください。もし売上がほとんど変わらないのであれば、次のステップとして…」

この「予算半減テスト」で、もし「売上は5%しか下がらなかったが、コストが50%削減されたため、利益率が大幅に改善した」という結果が出たとします。これこそが、あなたの正しさを証明する「スモールウィン(小さな成功)」です。

さらに、このテストで浮いたリソース(予算や工数)を、プランBで提案していた新しい施策に投下し、そこでも成果が出たとします。 「先月、施策Xの予算を半減させたことで浮いた50万円でテストした施策Zが、既に30件のリードを獲得しています!」

ここまでくれば、もう誰も反対はできません。あなたは、机上の空論ではなく、実際の結果をもって、自分の提案の有効性を証明したのですから。この小さな成功体験の積み重ねが、周囲の信頼を勝ち取り、やがては大きな組織改革へと繋がる、強力な追い風となるのです。

まとめ:その見直しは、未来への「投資」である

費用対効果が低い施策にメスを入れる。 この一連のプロセスは、単なる「コストカット」というネガティブな作業ではありません。それは、限りある貴重なリソース(カネ、ヒト、時間)を、非効率な活動から解放し、より大きな成果を生み出す未来の活動へと再投資するための、極めてポジティブでクリエイティブな仕事です。

今回紹介した5つのステップを、ぜひあなたの武器にしてください。

  1. ファクトで武装する
  2. 原因を刑事のように追う
  3. 改善案というギフトを渡す
  4. 関係者を共犯者にする
  5. 小さな滑り台から試す

必要なのは、少しの勇気と、周到な戦略です。あなたのその行動が、淀んだ空気を入れ替え、チームを、そして会社を、より力強く、成長できる組織へと変えていくきっかけになるはずです。

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