
【この記事はこんな方に向けて書いています】
- 月の残業時間が100時間を超え、心身ともに限界を感じているIT部門の方
- 「IT部門はコストセンター」と公言する経営陣のもとで、疲弊している方
- 社内のIT担当者がいつも忙しそうで、その理由と構造を知りたいと思っている方
- 日本企業のIT部門が抱える、根深く、そして極めて危険な問題に関心のある全ての方
最後に太陽の光を浴びたのは、いつだったか。 会社のデスクで仮眠を取り、エナジードリンクで意識を覚醒させる。鳴りやまないアラート、深夜の障害対応、そして他部署からの無茶な要求…。気づけば、月の残業時間は200時間を超えていた。
これは、特別な誰かの話ではありません。日本の多くのIT部門で、今この瞬間も静かに行われている、魂のすり減らし作業です。 そして、はっきり言います。これは「頑張り」や「美徳」などでは断じてない。経営陣の無知と、IT部門への歪んだ期待が生み出した「やりがい搾取」という名の、静かな殺人です。
今日は、なぜIT部門だけが、これほどまでにブラックな構造に陥ってしまうのか。その根本原因を、僕自身の経験も踏まえ、容赦なく解剖していきます。
原因1:『コストセンター』という呪い。経営陣の無知が生む悲劇
全ての悲劇は、多くの場合、経営陣が放つこの一言から始まります。 「IT部門は、金を使うだけの“コストセンター”だからな」
この瞬間、IT部門は会社のお荷物であることが宣告されます。 利益を直接生み出さないという理由で、ITへの投資、特に「人」への投資は真っ先に削られる。経済産業省の調査では、2030年には最大で約79万人ものIT人材が不足すると予測されているにも関わらず、です。
世間ではIT人材の獲得競争が激化しているのに、社内では「コスト」として扱われ、人員は補充されない。結果、最小限の人数で、増え続ける社内システムと、老朽化していつ爆発してもおかしくないサーバー群の面倒を、全て見なければならなくなるんです。
経営陣は「ITって言えば、何でも安く、早く、簡単にできるんだろ?」という、20年前の幻想を抱いている。その裏で、エンジニアたちが、自らの時間と健康を犠牲にして、必死に会社のインフラを支えている。その現実を知ろうともせずに。
原因2:『なんでも屋』化するIT部門。便利屋とヒーローの境界線
コストセンターという呪いに加え、IT部門を蝕むもう一つの病。 それは、専門家集団であるはずのIT部門が、いつの間にか社内の「なんでも屋」に成り下がってしまうことです。
「ExcelのVLOOKUP関数が分からない」 「プロジェクターの繋ぎ方を教えて」 「PCの電源が入らないんだけど」
本来、自分で調べるべき、あまりにも初歩的な問い合わせ。これらに一つ一つ親切に対応しているうちに、社員の間に「困ったら、とりあえずIT部門に聞けばいい」という、危険な甘えが蔓延します。 あなたの貴重な時間は、戦略的なIT投資の検討ではなく、こうした“デジタル介護”に奪われていく。
そして、タチが悪いのは、大規模なシステム障害が起きたときです。 深夜休日を問わず対応し、なんとか復旧させると、その時だけは「ありがとう!」「助かった!」と、ヒーローのように扱われる。この一時的な達成感と称賛が、麻薬のように機能してしまう。これが「やりがい搾取」の正体です。普段は便利屋としてこき使い、いざという時だけヒーロー扱いして、異常な働き方を美談にすり替える。この構造に気づかない限り、あなたの魂はすり減り続けます。
この地獄から抜け出すために、IT部門が“捨てる”べき3つのこと
では、どうすればこの地獄から抜け出せるのか。 誰かが助けてくれるのを待っていても、何も変わりません。IT部門が、自らの手で、3つのものを“捨てる”覚悟を決めるしかないんです。
1.『技術の話』を捨てる 経営層に、最新技術の素晴らしさを語っても無駄です。彼らに通じるのは「金の話」だけ。「このままでは、セキュリティ事故で数億円の損失リスクがあります」「このシステム投資で、営業部門の人件費を年間500万円削減できます」と、ITを「コスト」ではなく「投資」として説明するスキルを、血反吐を吐いてでも身につけてください。
2.『過剰な親切心』を捨てる 「なんでも屋」を、今すぐやめる。社内ヘルプデスクの対応範囲と時間を明確に定め、「それは我々の仕事ではありません」と、断固として断る勇気を持つ。FAQを整備し、社員に自己解決させる。あなたの優しさは、会社を腐らせるだけです。
3.『自分たちだけで何とかする』というプライドを捨てる 手に負えない仕事量、古すぎる技術。それを、根性だけで何とかしようとするのは、ただの自己満足です。外部の専門家やベンダーをうまく使い、アウトソースするという選択肢を持つ。全てを自分たちで抱え込む時代は、とっくに終わっているんです。
(最後に、静かに、しかし力強く語りかける)
残業200時間。 これは、過労死ライン(月80時間)の2.5倍という、異常中の異常事態です。 個人の努力で解決できる問題ではありません。これは、経営の無理解と、IT部門自身の「断れない弱さ」が作り出した、根深い構造問題です。
IT部門は、もはや縁の下の力持ちではない。ビジネスの心臓部です。 自分たちの価値を正しく主張し、守るべき一線を断固として守り抜く。 戦わなければ、何も変わりません。あなたの命と、会社の未来を守るために。 今こそ、声を上げる時です。
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