「全部できます」は「何もできません」の同義語。Z世代の“器用貧乏フルスタック”が市場価値を失うワケ

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【この記事はこんな方に向けて書いています】

  • フロント、バック、インフラを一通り触り「自分、フルスタックなんで」と言ってしまっている若手エンジニアの方
  • 自分のスキルが「広く浅く」なっており、このままでいいのか漠然と不安な方
  • 若手エンジニアの採用面接で「フルスタックです」という言葉の扱いに困っている採用担当者・マネージャーの方
  • これからエンジニアとして、本当の意味で市場価値の高い人材になりたいと考えている全ての方

最近、特にZ世代の若手エンジニアと話していると、驚くほど頻繁に耳にする言葉がある。

「僕、フルスタックなんで」

Reactも書けます。GoでAPIも作れます。AWSも基本的なサービスならわかります。

なるほど、素晴らしい。その好奇心と学習意欲は、心から尊敬する。

だが、ベテランと呼ばれる領域に足を突っ込んだ人間から、あえて厳しいことを言わせてもらう。

その「フルスタック」、君が思っている以上に、市場価値は低いかもしれない。

これは、年長者からの説教やマウンティングではない。変化の激しいこの業界で、君が「器用貧乏」という名の罠にハマり、キャリアを台無しにしてしまわないための、愛ある檄だ。

君の言う「できる」は、どのレベルの話だ?

まず、最も根本的な問いを突きつけたい。

君が言う「できる」とは、一体どのレベルの話だろうか?

チュートリアルをなぞって、TODOアプリを作ったことがあるレベルか? それとも、大規模なトラフィックを捌き、数ミリ秒のレスポンスタイムを追求する本番環境のコードを、自信を持って書けるレベルか?

はっきり言おう。この二つの間には、天と地ほどの、絶望的なまでの差がある。

「Reactが書ける」と君は言う。 では、仮想DOMの仕組みを説明できるか?再レンダリングの最適化、パフォーマンスチューニングについて、具体的な手法を3つ以上挙げられるか?

「AWSがわかる」と君は言う。 では、EC2インスタンスをただ立てるだけでなく、高可用性と耐障害性を担保したインフラをVPCから設計し、Terraformでコード化できるか?

現代のIT技術は、一つの領域を“本当に”極めるだけでも、5年、10年という時間が必要なほど、深く、そして複雑化している。

それぞれの領域には、膨大な知識の体系と、幾多の失敗から生まれた先人たちの知恵が蓄積されているのだ。

その深さを知らずして、各領域をほんの少し“触った”だけで「フルスタック」を名乗る行為は、ベテランの目から見れば、正直なところ、滑稽に映ってしまう。

なぜ「器用貧乏」が量産されるのか?

では、なぜこれほどまでに「自称フルスタック」が増殖しているのか。

そこには、現代特有の構造的な理由がある。

一つは、学習環境の圧倒的な充実だ。 YouTubeやUdemy、その他無数の学習プラットフォームのおかげで、今やどんな技術でも、安価に、そして手軽に“触れる”ことができるようになった。これは素晴らしいことだ。だが、その手軽さが、「触った=できる」という大きな勘違いを生み出す土壌にもなっている。

二つ目は、スタートアップ文化の影響だ。 少数精鋭のチームで、全員が何でもやる。そんな働き方がクールだとされ、「フルスタック」という言葉に、どこか魅力的な響きが与えられている。

三つ目は、技術トレンドの異常な速さだ。 一つの技術をじっくり深掘りする前に、次から次へと新しいフレームワークや言語が登場する。その結果、「広く浅く」キャッチアップし続けることが、あたかも正しい努力であるかのような錯覚に陥りやすい。

君の学習意欲は本物だ。だが、その意欲が、一つの技術と腰を据えて向き合う「深掘りからの逃げ」になってはいないだろうか。

耳の痛い真実だが、自分自身に問い直してみてほしい。

「T字型人材」という言葉の呪いを解け

「でも、これからの時代はT字型人材が求められるんじゃなかったのか?」

その通りだ。だが、多くの人が「T」の本当の意味を誤解している。

君がイメージする「T」の縦棒は、どれくらいの長さだろうか?

多くの「自称フルスタック」は、この縦棒、つまり「専門性」が、爪楊枝ほどにしかなく、横棒だけがやたらと長い。

それはもはや「T」ではなく、ただの「一(いち)」だ。専門性のない器用貧乏に他ならない。

本当の意味でのフルスタックエンジニア、市場価値の高い「T字型人材」とは、全く成り立ちが違う。

彼らはまず、フロントエンドならフロントエンド、データベースならデータベースという、一つの専門領域で、誰にも負けないと自負できるほどの、圧倒的に深い「縦棒」を何年もかけて打ち立てる。

その絶対的な自信と経験を拠り所に、隣接する領域へと、知識の「横棒」を慎重に、しかし着実に広げていく。

深い専門性という幹があるからこそ、他の領域の知識も、単なる点ではなく、幹と繋がった有機的な知識として吸収できるのだ。

まず、君が持つべきは、何でも屋の便利ツールセットじゃない。

どんな堅い壁でも打ち破れる、研ぎ澄まされた一本の「槍」だ。

その槍を磨き上げることだけに、君の貴重な20代を捧げるくらいの覚悟があっていい。

話は、それからだ。

#エンジニア #キャリア #フルスタック #Z世代 #プログラミング

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メタディスクリプション(120文字) 【Z世代に告ぐ】その「フルスタック」、ただの器用貧乏では?「全部できます」が「何もできません」と同義語になる理由と、本当の市場価値を持つエンジニアになるためのキャリア戦略を、ベテランの視点から厳しくも愛をもって解説します。

メタキーワード(10個) エンジニア, フルスタック, Z世代, キャリア, 転職, プログラミング, T字型人材, 市場価値, スキルアップ, 若手

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