
【この記事はこんな方に向けて書いています】
- ニュースで聞く「ハッキング」や「不正アクセス」に漠然とした不安を感じている方
- 「どうして自分のパスワードが盗まれるの?」という素朴な疑問を持っている方
- 難しい専門用語は苦手だけど、セキュリティの基本は知っておきたいと思っている方
- 自分のスマホやPCを守るために、今日から何をすればいいか知りたい方
- 「自分は大丈夫」と思っているが、実はセキュリティ対策に自信がない方
「ハッキング」と聞くと、あなたはどんなイメージを持ちますか?暗い部屋で、パーカーのフードを目深にかぶった天才が、高速でキーボードを叩き、どんな鉄壁のセキュリティも数分で突破してしまう…。まるで映画やアニメに出てくる魔法のような、自分とは無縁の世界の話だと思っていないでしょうか。
もし、そう思っているなら、その認識は今日で改める必要があります。
実際のハッキングの多くは、そんな魔法のようなものではありません。むしろ、もっと地味で、現実的な「空き巣」の手口によく似ています。そして、そのターゲットは、大企業や政府機関だけではありません。この記事を読んでいる、あなたのスマートフォンやパソコンも、常に狙われているのです。
この記事では、ハッキングという行為が、一体どのような仕組みで行われるのかを、身近な「空き巣」に例えながら、誰にでも分かるように解説していきます。
(※本記事は、不正アクセスを推奨するものでは断じてありません。自分の大切な情報を守るために、敵の手口を知る「防犯」を目的としています。)
この記事を読み終える頃には、ハッカーが決して魔法使いではないこと、そして、私たちが日頃からできる「戸締り」がいかに重要か、きっと理解できるはずです。
ハッキングは魔法じゃない!地道な「空き巣」の4ステップ
まず大前提として、ハッカーはあなたの家のドアを、いきなりダイナマイトで爆破するようなことはしません。そんなことをすれば、すぐに気づかれてしまいます。彼らはもっと静かに、慎重に、まるでプロの空き巣のように、いくつかのステップを踏んであなたの「家(=PCやアカウント)」に侵入してきます。
ステップ1:情報収集(どんな家か、誰が住んでいるかを入念に下見する)
プロの空き巣は、いきなり家に忍び込みません。まずは入念な「下見」をします。どんな家で、どんな家族構成で、いつ留守になるのか。郵便物やゴミ、窓から見える様子など、あらゆる情報を集めます。
ハッカーも同じです。彼らはまず、ターゲットに関する情報を徹底的に集めます。あなたのSNSの投稿から、誕生日、ペットの名前、出身校、趣味などを調べ上げます。過去に情報漏洩を起こしたサービスに、あなたが登録していないかどうかもチェックします。これらの情報は、後にパスワードを推測するための、重要な「ヒント」になるからです。
ステップ2:脆弱性を探す(鍵のかかっていないドアや窓を探す)
下見が終わると、空き巣は家の周りを歩き、侵入できそうな「弱点」を探します。鍵のかかっていない窓はないか、簡単に壊せそうなドアはないか、防犯カメラの死角はどこか。
ハッカーが探す弱点は、「脆弱性(ぜいじゃくせい)」と呼ばれます。これは、あなたが使っているパソコンのOS(WindowsやMacなど)や、スマートフォンアプリ、ソフトウェアに存在する「セキュリティ上の欠陥や穴」のことです。ソフトウェアを最新版にアップデートしていない状態は、まさに「窓に鍵をかけ忘れている」のと同じ。ハッカーにとっては、格好の侵入口になります。
ステップ3:侵入(ピッキングや、だまして鍵を手に入れる)
弱点を見つけたら、いよいよ侵入です。空き巣は、ピッキングで鍵を開けたり、窓を割ったりします。あるいは、もっと巧妙に、宅配業者になりすまして、住人にドアを開けさせるかもしれません。
ハッカーの侵入手口も様々です。ステップ2で見つけた「脆弱性」を突いてシステムに侵入したり、後述する「フィッシング詐GI」という手口で、あなた自身にIDとパスワード(家の鍵)を入力させて、まんまと盗み取ったりします。
ステップ4:内部での活動(家の中を物色し、金品を盗む)
一度家の中に侵入してしまえば、あとは空き巣の思うがままです。金品を盗んだり、次の犯行のための情報を探したりします。
ハッカーも同じです。あなたのPCやアカウントに侵入すると、個人情報やクレジットカード情報を盗み出します。あるいは、あなたのPCを踏み台にして、他のコンピューターを攻撃したり、友人や知人にウイルス付きのメールを送りつけたりもします。あなたが「被害者」であると同時に、気づかないうちに「加害者」にされてしまうことすらあるのです。
どうでしょう。ハッキングが、非常に地道で計画的な「犯罪」であることが、少しイメージできたでしょうか。
ハッカーがよく使う、代表的な「侵入テクニック」3選
では、具体的にハッカーはどんな手口で私たちの「家」に侵入してくるのでしょうか。ここでは、特に被害が多く、誰もが知っておくべき代表的なテクニックを3つ、これも「空き巣」に例えて解説します。
1. フィッシング詐欺(「合い鍵、作らせてください」とだまし取る手口)
これは、最も古典的でありながら、今なお最大の脅威であり続ける手口です。IPA(情報処理推進機構)が毎年発表している「情報セキュリティ10大脅威」では、2024年版でも個人部門で堂々の1位となっています。
これは、「なりすまし」によって、あなたに自らIDとパスワードを入力させる、非常に巧妙な詐欺です。
例えば、あなたの元に、Amazonや銀行、宅配業者などを装ったメールやSMSが届きます。「アカウントに異常なログインがありました」「お荷物のお届け先が不明です」といった、思わずクリックしたくなるような内容で、偽のウェブサイトに誘導します。
その偽サイトは、本物のサイトと見分けがつかないほどそっくりに作られています。あなたがそこで何の疑いもなくIDとパスワードを入力した瞬間、その情報はハッカーの元に筒抜けになります。これは、まるで偽物の鍵屋さんに、自分から「家の合い鍵を作ってください」とお願いしているようなものです。一番警戒すべき、身近な脅威と言えるでしょう。
2. 脆弱性攻撃(鍵のかかっていない窓から忍び込む手口)
先ほども少し触れましたが、ソフトウェアの「脆弱性」を狙った攻撃です。
あなたが毎日使っているスマホのOSやアプリは、人間が作っている以上、完璧ではありません。時々、セキュリティ上の「穴」が見つかります。開発者は、その穴が見つかるたびに、「アップデート」という形で穴を塞ぐための修正プログラムを配布します。
「アップデートのお知らせが来てるけど、面倒だから後でいいや」
この、多くの人がやりがちな行動こそが、ハッカーに「どうぞ、ここからお入りください」と、鍵のかかっていない窓を差し出しているのと同じなのです。アップデートを怠ることは、防犯意識が極めて低い行為だと自覚する必要があります。
3. 総当たり攻撃(ブルートフォースアタック)(片っ端から鍵を試す手口)
これは、非常に原始的ですが、今でも有効な手法の一つです。その名の通り、パスワードを「総当たり」で試していく攻撃です。
「123456」 「password」 「qwerty」
こういった、あまりにも単純なパスワードは、攻撃用のプログラムを使えば一瞬で破られてしまいます。また、「辞書攻撃(ディクショナリアタック)」といって、辞書に載っている単語や、それらを組み合わせたものを片っ端から試す手口もあります。あなたの名前や誕生日、ペットの名前などをパスワードにしている場合、これも非常に危険です。
なぜ、「長くて、複雑で、推測されにくいパスワード」が推奨されるのか。それは、この原始的な力業に対抗するためなのです。パスワードが1桁増えるだけで、解析に必要な時間は天文学的に増加します。
私たちはどうすればいい?今日からできる「最強の防犯対策」
さて、敵の手口が分かったところで、いよいよ私たちの「防犯対策」です。難しく考える必要はありません。空き巣対策と同じで、基本的なことを一つ一つ、着実に実行するだけです。
対策1:「鍵」を複雑にし、絶対に使い回さない
これは基本中の基本です。パスワードは、「大文字・小文字・数字・記号」を組み合わせ、最低でも12桁以上にしましょう。そして、最も重要なのが「サービスごとに違うパスワードを設定する」ことです。
もし、すべてのドアを同じ鍵で開け閉めしていたら、一つの鍵が盗まれただけで、家中の部屋がすべて危険に晒されますよね。パスワードも同じです。「覚えるのが大変…」という方は、信頼できる「パスワード管理ツール」を使うことを強くお勧めします。
対策2:「二つ目の鍵」を追加する(多要素認証)
これからの時代、最強の防犯対策と言っても過言ではないのが「多要素認証(MFA)」です。
これは、IDとパスワード(一つ目の鍵)に加えて、あなたのスマホに送られる確認コードや、指紋認証・顔認証など(二つ目の鍵)がないとログインできないようにする仕組みです。
万が一、パスワードが盗まれても、この二つ目の鍵がなければ、ハッカーは侵入できません。GoogleやAppleのアカウント、銀行や主要なSNSなど、重要なサービスでは必ず設定しておきましょう。これは、もはや「推奨」ではなく「必須」の対策です。
対策3:「家の戸締り」を徹底する(ソフトウェアのアップデート)
これも、今すぐできる重要な対策です。スマホやPC、アプリの「ソフトウェア・アップデート」の通知が来たら、絶対に後回しにせず、すぐに実行してください。可能であれば、「自動アップデート」をオンにしておきましょう。
面倒くさいかもしれませんが、これは開発者が「新しい鍵が見つかったので、交換してください!」と教えてくれているのと同じです。古い鍵を使い続ける理由はありませんよね。
まとめ:敵を知り、己の「隙」を知れば、ハッキングは怖くない
ハッキングは、決して遠い世界の話ではありません。その手口は巧妙化していますが、その多くは、私たちのちょっとした不注意や油断、面倒くさがる心といった「隙」を突いてきます。
しかし、その仕組みを知り、一つ一つの「戸締り」を習慣にすれば、被害に遭うリスクは劇的に減らすことができます。
- 複雑なパスワードを使い、使い回さない。
- 多要素認証を設定する。
- ソフトウェアは常に最新の状態に保つ。
- 怪しいメールやリンクは、まず疑う。
特別な知識は必要ありません。今日からできる、これらの基本的な対策こそが、あなたの情報という大切な財産を守る、最強の盾になるのです。
まずはこの記事を読んだ後、あなたのスマートフォンのGoogleやAppleアカウントで、多要素認証がオンになっているか、確認することから始めてみませんか?
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