【ただの”SaaS導入屋”で終わるな】コンサルが成果を出すためのSaaS導入支援、失敗しない5つのステップ

この記事は約9分で読めます。

【この記事はこんな方に向けて書いています】

  • クライアントから「SaaSを導入したい」という相談を受けている、すべてのコンサルタントの方
  • 自社のDX推進担当として、SaaS導入プロジェクトを成功に導く責任を負っている方
  • 情報システム部門で、日々、業務部門からのSaaS導入依頼に対応している方
  • クライアントのビジネスを本当に理解し、価値ある提案をしたいと考えているSaaSベンダーの方
  • SaaS導入プロジェクトのマネジメントを任されたが、進め方に不安を感じている方

「〇〇さん、うちもそろそろDXを進めたくてね。今流行りの『△△』というSaaSを導入したいんだけど、支援をお願いできないかな?」

クライアントから、こんな風に相談を持ちかけられた経験はありませんか? 一見すると、具体的で分かりやすく、魅力的なプロジェクトに聞こえるかもしれません。

しかし、この依頼に二つ返事で「分かりました!」と飛びつくのは非常に危険です。それは、コンサルタントとしてのあなたの価値を下げ、結果的にクライアントを不幸にしてしまう「罠」の始まりかもしれないからです。

富士キメラ総研の調査によると、2025年度のSaaS市場規模は2兆円を超えると予測されており、SaaS導入はもはや当たり前の経営判断です。しかしその一方で、高額なライセンス費用を払ったにもかかわらず、現場では全く使われずに塩漬けになる「SaaS貧乏」に陥る企業が後を絶ちません。

その差はどこにあるのか? それは、プロジェクトの目的が「ツールの導入」で終わっているか、その先にある「業務変革」と「ビジネス成果の創出」までを見据えているか、ただそれだけです。

この記事では、「ただのツール導入屋」で終わらず、クライアントのビジネスに真の価値をもたらすための、プロフェッショナルなSaaS導入支援の進め方を、具体的な5つのステップで徹底的に解説します。

STEP0: 安易に頷くな。「なぜ、そのSaaSなのですか?」という最初の問い

クライアントから特定のSaaSの名前を挙げられた時、プロのコンサルタントが最初にすべき仕事は、見積もりを作ることではありません。まず、にこやかに、しかし真剣に、こう問いかけるのです。

「ありがとうございます。素晴らしいですね。ちなみに、なぜ『△△』なのでしょうか? 今回の導入によって、3年後、会社はどのように変わっていてほしいとお考えですか?」

この「Why(なぜ)」の問いかけこそが、プロジェクトの成否を9割方決定づけます。なぜなら、多くのクライアントは「手段の目的化」という罠に陥っているからです。

  • 「社長が展示会で見て、気に入ったから」
  • 「競合のA社が導入して、成果を上げていると聞いたから」
  • 「とにかく、今のアナログなやり方をどうにかしたいから」

これらの理由は、SaaS導入の「きっかけ」にはなっても、「目的」にはなり得ません。

ここであなたが深掘りすべきは、「売上を10%向上させたい」「顧客満足度を20%上げたい」「従業員の残業時間を月平均10時間削減したい」といった、具体的で測定可能な「経営課題」です。その課題解決のために、本当にそのSaaSが最適解なのか? もしかしたら、もっと安価な別のツールで十分かもしれないし、そもそもツール導入ではなく、業務プロセスの見直しだけで解決できる問題かもしれません。

この最初の「Why」のすり合わせを曖昧にしたまま進むプロジェクトは、羅針盤のない船と同じです。必ずや、暗礁に乗り上げるでしょう。

STEP1: 現状業務という”ジャングル”に分け入る。徹底的な可視化と課題特定

プロジェクトの「Why(目的)」が固まったら、次にやるべきは「As-Is(現状)」の徹底的な把握です。新しい地図を描く前に、まずは今いる場所、つまり現状の業務プロセスという名の”ジャングル”に、コンパスとナタを持って分け入っていくのです。

業務フロー図で「公式ルート」を把握する まずは、関係部署の担当者を集め、現在の業務の流れをヒアリングし、フロー図に落とし込んでいきます。「誰が」「何をきっかけに」「どんな作業を行い」「誰に引き渡すのか」。この一連の流れを、スタートからゴールまで可視化します。

現場ヒアリングで「獣道」を発見する しかし、公式な業務フローだけを見ていては、本質を見誤ります。本当に重要な課題は、公式ルートから外れた「獣道」にこそ隠されています。

  • 長年の経験と勘で、特定のベテランだけが使いこなす「秘伝のExcelマクロ」
  • 稟議書を通す前に、根回しのために使われる「非公式な紙の帳票」
  • システム間のデータを、毎日手作業でコピペしている「見えない人海戦術」

これらの「現場のリアル」を、キーパーソンへの個別ヒアリングを通じて、一つひとつ丁寧に拾い上げていきます。「この作業、正直面倒じゃないですか?」「一番時間がかかっているのはどこですか?」と問いかけることで、現場の生々しい「ペイン(痛み)」が見えてきます。

そして、「この承認プロセスに平均3営業日かかっている」「この手作業による入力ミスが、月に5件発生し、その手戻りに2時間かかっている」というように、課題をできるだけ「数値」で表現することが、後の効果測定における重要なベースラインとなります。

STEP2: “あるべき姿”を描き、”Fit & Gap”で現実解を探る

ジャングルの地図が完成し、どこに沼地や崖があるのか(課題)が分かったら、いよいよ「To-Be(あるべき姿)」の業務プロセスを設計します。これは、STEP0で定義した「Why」を達成するための、理想のルートを描く作業です。

そして、この「To-Be」の地図と、具体的なSaaS製品(複数候補)を照らし合わせ、「どこが合致し(Fit)、どこにズレがあるのか(Gap)」を分析する、「Fit & Gap分析」を行います。

SaaSは「セミオーダーのスーツ」である ここで重要な心構えは、SaaSは「フルオーダーメイドのスーツ」ではなく、「高品質なセミオーダーのスーツ」だということです。あなたの会社の特殊な業務(体型)に、SaaS(スーツ)が100%完璧にフィットすることは、まずありません。

基本戦略は、「自分の体型(業務プロセス)を、スーツ(SaaSの標準機能)に合わせて変える」ことです。これが、SaaSのメリット(常に最新のベストプラクティスが提供される、アップデートが容易など)を最大限に享受する道です。

Gapをどう埋めるか?それが腕の見せ所 それでもなお、どうしても埋められない「Gap」は出てきます。その対処法は、大きく3つです。

  1. 業務プロセスを変更する(最優先): 「その業務、本当にそのやり方じゃないとダメですか?」と問いかけ、SaaSの作法に合わせる。
  2. 他のツールや手作業で補う: Gapの部分だけ、別の安価なツールや、やむを得ず手作業でカバーする。
  3. カスタマイズ・アドオン開発: どうしても必要な機能は、追加開発で補う。ただし、これはSaaSのバージョンアップ時に追随できなくなるなど、将来的な「技術的負債」になるリスクを伴うため、最後の手段と心得るべきです。

安易なカスタマイズの要求は、SaaS導入を失敗に導く「悪魔のささやき」です。そのリスクをクライアントにきちんと説明し、最適な現実解へと導くのが、コンサルタントの重要な役割です。

STEP3: ベンダーはパートナー。でも”鵜呑み”は厳禁。主導権を握る選定術

導入すべきSaaSの要件が固まったら、次はベンダー選定のフェーズです。ベンダーはプロジェクトを成功に導くための重要な「パートナー」ですが、彼らの営業トークを100%鵜呑みにしてはいけません。あなたは、あくまで「クライアントの代理人」として、冷静かつ客観的な視点で評価を下す必要があります。

RFP(提案依頼書)で、こちらの土俵に上げる 複数のベンダーを公平に比較するために、「RFP(提案依頼書)」を作成しましょう。これまでのステップで明確になった「プロジェクトの目的」「現状の課題」「To-Beプロセス」「機能要件」「非機能要件(セキュリティなど)」を明記し、ベンダーに対して、こちらの土俵の上で提案をしてもらうのです。

トライアルで「本当に使えるか」を徹底検証する ベンダーの営業担当者が見せる、美しく作り込まれたデモ画面に騙されてはいけません。必ず、無料トライアル期間を設け、実際にシステムを使うことになる現場のキーパーソンに、リアルな業務データを使って、徹底的に触ってもらいましょう。

「この機能、うちの複雑な承認フローに対応できる?」 「この画面、うちのパートさんでも直感的に使える?」

この「お試し期間」でのリアルな評価が、導入後の「こんなはずじゃなかった」を防ぐ、何よりの保険になります。

STEP4: プロジェクトの成否は”導入後”に決まる。定着化という最後の山場

契約を終え、システムの設定が完了し、無事に稼働開始のボタンが押される。多くのプロジェクトでは、ここで「導入完了!」と万歳三唱をしてしまいますが、それは大きな間違いです。

SaaS導入プロジェクトの本当の戦いは、ここから始まります。どんなに素晴らしいシステムも、現場で使われなければ、ただの「高価な置物」だからです。

チェンジマネジメントという名の「変革の伴走」 新しいツールの導入は、現場の従業員にとって、慣れ親しんだ仕事のやり方を変える「変化」であり、それは本能的な「抵抗」を生みます。「前のやり方の方が早かった」「新しいことは覚えるのが面倒だ」という声は、必ず出てくるものだと覚悟しておくべきです。

この抵抗を乗り越え、新しい業務プロセスを組織に根付かせる活動、それが「チェンジマネジメント」です。

  • 手厚いトレーニング: 全社向けの説明会だけでなく、部署ごと、役割ごとに、より実践的なトレーニングを何度も実施します。
  • 頼れるマニュアルと相談役: いつでも見返せる分かりやすいマニュアルやFAQを用意すると同時に、各部署にSaaS活用の「推進リーダー」を任命し、現場の小さな疑問をすぐに解決できる体制を築きます。
  • 効果の可視化と称賛: 導入前に設定したKPIを定期的に測定し、「〇〇部署では、このSaaSのお陰で残業時間が20%も削減されました!」といった成功事例を、全社に共有します。小さな成功を称賛し合う文化が、変革へのモチベーションを高めます。

この、地道で泥臭い「定着化」の活動をやりきれるかどうか。そこに、コンサルタントとしての真価が問われます。

まとめ:あなたは、クライアントの「変革の伴走者」である

SaaS導入支援。 それは、単にITツールを選んで、設定するだけの簡単な仕事ではありません。

それは、クライアントの業務プロセスというジャングルに分け入り、課題を特定し、あるべき姿を描き、その変革の道のりを、クライアントと手を取り合って進んでいく「変革の伴走者」になる、という、極めて知的で、人間臭い仕事です。

「手段」の導入で満足せず、その先にあるクライアントの「ビジネスの成功」という真のゴールまで、責任を持って伴走する。その覚悟とスキルがあって初めて、あなたは「ただのSaaS導入屋」ではない、クライアントから真に信頼されるプロフェッショナルになれるのです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました