【挫折率99%】それでもあなたがSAPを学ぶべき理由。IT界のラスボスに挑むための(非公式)生存マニュアル

この記事は約9分で読めます。

【この記事はこんな方に向けて書いています】

  • ある日突然、上司から「来月からSAPのプロジェクトな」と無慈悲な宣告を受けた方
  • IT業界に足を踏み入れたばかりで、「サップ」という謎の呪文に怯えている若手社員の方
  • 転職サイトで「SAP経験者、年収1000万以上」の文字を見て、思わず二度見してしまった方
  • 難しすぎて何から手をつければいいかわからず、とりあえずGoogleで「SAP とは」と検索した方
  • この際、SAPの全てを理解するのは諦めて、せめて「知ったかぶり」できるレベルの知識が欲しい方

ようこそ、絶望の淵へ。もしあなたが、この記事にたどり着いたということは、おそらく、そのキャリアの道に「SAP」という名の、巨大で、不気味で、訳の分からない門番が立ちはだかったということでしょう。「サップ?ああ、あのスタンドアップパドルボードのことね」。そんな平和な日常は、もう終わりです。

IT業界、特に大企業のシステムを語る上で、決して避けては通れない存在。それがSAPです。それはまるで、倒し方が全くわからないRPGのラスボス。あるいは、ページ数が多すぎて読む気が失せる、分厚い魔導書。多くの初心者が、その入り口で心を折られ、屍となってきました。

ですが、安心してください。この記事は、そんなあなたを救うための、非公式な生存マニュアルです。SAPの全てを理解させようなんて、そんな無謀なことは言いません。ただ、この巨大な魔物が何者で、どう付き合っていけばいいのか。その地図の読み方と、最低限の護身術だけを、こっそりお教えします。

そもそもSAPって何?一言でいうと「会社の神経系」という名の怪物

「で、結局SAPって何なの?」という、あなたの心の声が聞こえてきます。専門書を開けば「企業の経営資源を統合的に管理し、経営の効率化を図るためのERPパッケージソフトウェア」なんて、眠気を誘う呪文が書いてあるだけです。

もっと分かりやすく、皮肉を込めて言いましょう。SAPとは、「会社のあらゆる活動を、隅から隅まで監視・管理したがる、超巨大で、お値段も超一流な、ドイツ生まれの幕の内弁当」です。

どういうことか。昔の会社は、部署ごとにバラバラのシステムを使っていました。経理部は会計ソフト、営業部は販売管理ソフト、工場は生産管理ソフト…といった具合に。これでは、会社全体の状況がどうなっているのか、社長ですら、各部署から報告書が上がってくるまで正確に把握できませんでした。

そこで、ドイツのSAP社が考えたのです。「もう、全部一つのシステムでやっちゃえばいいじゃん!」と。会計、販売、在庫、生産、人事…会社のあらゆる業務(資源)を、一つの巨大なソフトウェア(弁当箱)に統合(統合)してしまおう、というわけです。これが、ERP(Enterprise Resource Planning)という考え方。そして、そのERPソフトの、世界的なチャンピオン、それがSAPなのです。

世界のトップ企業、例えばフォーチュン500に名を連ねる企業の約99%が、何らかの形でSAPの顧客だと言われています。もはや、大企業のビジネスは、SAPという神経系なしでは一日たりとも動かない。まさに、IT界に君臨する怪物なのです。

なぜみんなSAPにひれ伏すのか?高くて面倒なのに選ばれる3つの理由

「そんなにすごいなら、さぞかし使いやすくてお安いんでしょうね」と思ったあなた。残念でした。SAPは、その逆です。導入には、平気で数億円、数十億円という、目玉が飛び出るようなコストがかかります。学習コストも高く、操作は複雑怪奇。まるで、IT界の高級腕時計か、スーパーカーのような存在です。

では、なぜ世界中の大企業は、そんな高くて面倒なシステムに、こぞってひれ伏すのでしょうか。そこには、ちゃんとした(そして、少々不純な)理由があります。

1. 業界標準という名の「思考停止」

SAPの中には、「ベストプラクティス」と呼ばれる、世界中の一流企業が長年培ってきた「仕事のやり方の正解例」が、山ほど詰まっています。「ウチの会社のやり方はこうだ!」と意地を張るよりも、「世界のトヨタやシーメンスがやってるやり方なら、まあ、間違いないだろ」と、SAPの流儀に自社の業務を合わせる方が、結果的に効率的だったりします。ある意味、コンサルタントに高い金を払わなくても、業務改革ができてしまう。経営者にとっては、なんとも魅力的な「思考停止」の選択肢なのです。

2. 止まったら死ぬ、という「絶対的信頼性」

会社の神経系である基幹システムは、絶対に止まってはなりません。もし止まれば、工場の生産はストップし、商品の出荷もできず、給料の支払いも滞る。会社は死にます。その点、SAPは、長年の稼働実績に裏打ちされた、圧倒的な堅牢性と信頼性を持っています。ベンチャー企業の作った安くてお洒落なシステムにはない、この「何があっても止まらない」という安心感。これに、企業は何億円も払う価値があると考えているのです。

3. グローバルという「逃れられない運命」

あなたの会社が、世界中に支社を持ち、様々な国でビジネスを展開しているなら、もはやSAP以外の選択肢は、ほぼありません。多言語、多通貨、各国のややこしい税法や商習慣に、きっちり対応している。グローバル企業にとって、SAPは、好き嫌いを超えた、いわば「逃れられない運命」なのです。

ようこそ、モジュールの沼へ。最低限覚えたい「主要キャスト」たち

SAPの複雑さを象徴するのが、「モジュール」という概念です。これは、SAPという巨大な弁当箱の中に入っている、それぞれ専門分野を持った「おかず」のようなもの。あるいは、会社の中の「クセの強い部署」と考えてもいいでしょう。

初心者が、これら全てのモジュールを理解するのは、100%不可能です。断言します。なので、ここでは、主要なキャスト(おかず)だけを、キャラクター紹介風に見ていきましょう。まずは、自分が関わる部署のキャラクターだけでも覚えておけば、会議で置いてきぼりになることは、かろうじて避けられるはずです。

  • FI(財務会計): 金庫番の長老。会社の公式な決算書を作る、一番偉くてお堅い部署。全ての金の動きは、最終的にこの長老に報告されます。
  • CO(管理会計): ケチで細かい経理部長。会社の内部向けに、製品一個あたりの原価はいくらか、どの部署が儲かってて、どこが無駄遣いしてるかを、ネチネチと監視しています。
  • SD(販売管理): イケイケで声の大きい営業部長。顧客からの注文を受け(受注)、倉庫から商品を出荷し(出荷)、請求書を送る(請求)までの一連の流れを仕切っています。
  • MM(在庫購買管理): 堅実で心配性な購買部長。原材料や部品の調達、そして倉庫の在庫管理を担当。「在庫はありすぎてもダメ、なさすぎてもダメ」と、毎日在庫とにらめっこしています。
  • PP(生産計画/管理): 現場一筋の鬼軍曹。工場の生産ラインを仕切り、「いつ」「何を」「どれだけ作るか」を計画し、実行させる、まさに製造業の心臓部です。
  • HR(人事管理): 秘密を握る人事部の女帝。社員の採用から、給与計算、勤怠管理まで、人の情報すべてを管理しています。下手に逆らってはいけません。

まずは、この6人の主要キャストの名前と役割だけでも覚えておいてください。それだけで、あなたのSAPアレルギーは、少しだけ和らぐはずです。

「Tコード」と「ABAP」。初心者の心を折る二大暗号の解読法

SAPを学び始めると、ほぼ確実にあなたの心を折りにかかってくる、二つの巨大な壁があります。それが、「トランザクションコード(Tコード)」と「ABAP」です。

トランザクションコード(Tコード)という名の呪文

SAPの各画面や機能には、「VA01」や「MM01」といった、4桁の英数字からなる、謎のコードが割り振られています。これがTコードです。これを専用の入力欄に打ち込んでエンターキーを押さないと、目的の画面にたどり着くことすらできません。もはや、魔法の呪文です。初心者は、この呪文を覚えるだけで一苦労。ベテランは、この呪文を脳みそに数百個も記憶している、魔法使いのような人たちです。 対策は一つ。よく使うTコードは、アナログですが、付箋に書いてPCに貼っておきましょう。それが、一番確実な「魔法の書」になります。

ABAP(アバップ)という名の古代文字

SAPは、パッケージソフトでありながら、企業の個別要件に合わせて、機能を追加したり、変更したり(カスタマイズ)することができます。その開発に使われるのが、SAP独自のプログラミング言語、「ABAP」です。読み方は「アバップ」。 このABAPが、またクセモノで、他のモダンなプログラミング言語とは、まったく異なる独特の文法を持っています。まるで、古代文明の象形文字のよう。普通のプログラマーが読んでも、おそらく解読不能です。 しかし、この古代文字を読み書きできる「ABAPer(アバッパー)」と呼ばれるエンジニアは、非常に市場価値が高く、高収入を得ています。もしあなたがプログラマーなら、この古代文字の解読に挑戦してみるのも、面白いキャリアパスかもしれません。初心者のうちは、まず「ABAPという、ヤバい言語があるらしい」と知っておくだけで十分です。

で、どうやって勉強すりゃいいの?挫折しないための(たぶん)唯一の道

さて、ここまで読んで、絶望的な気分になっているかもしれませんね。最後に、そんな巨大な魔物と、どうやって戦っていけばいいのか。挫折しないための、現実的な学習法をお伝えします。

1. 分厚い本をいきなり読むな

書店に行けば、SAP関連の分厚い専門書がたくさん並んでいます。それを最初に手に取ったが最後、あなたは10ページも読まないうちに、深い眠りに落ちるでしょう。体系的な学習は、もっと後でいいのです。

2. 「触れる環境」に、何としてでも飛び込め

SAPは、理論ではなく、実践のシステムです。一番の勉強法は、とにかく「実機に触れる」こと。会社の研修や、プロジェクトの検証環境など、自由に操作できる環境があるなら、それは最高のチャンスです。いろんなTコードを叩いてみて、エラーを出して、迷子になってください。「これを押したらどうなるんだろう?」という好奇心と、「壊しても怒られない」という安心感が、あなたを育てます。

3. 最強の攻略本は「先輩」である

結局のところ、一番の近道は、知っている人に聞くことです。あなたの隣の席にいる、SAPの画面を涼しい顔で操作している先輩。その人こそが、あなたが探すべき、最高の攻略本です。ランチを奢る、コーヒーを差し入れる、飲み会で徹底的にヨイショするなど、あらゆる手段を使って、質問しやすい関係を築きましょう。「こんな初歩的なことを聞いたら馬鹿にされるかも」なんてプライドは、今すぐ捨ててください。そのプライドが、あなたの成長を邪魔します。

SAPという巨大な迷宮を、たった一人で踏破しようなどと考えてはいけません。まずは、この不条理で、面倒で、しかしあなたのキャリアにとって大きな武器になりうる怪物と、うまく付き合っていく術を身につけること。それこそが、初心者のための、唯一の生存戦略なのです。健闘を祈ります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました