【文系出身の新人さんへ】SAPとは何か?年収2000万のコンサルが使う「巨大なレゴ」で、ERPの全貌を解説します

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【この記事はこんな方に向けて書いています】

  • 配属された部署で、初めて「SAP」「ERP」という言葉を聞いて、宇宙語にしか聞こえない方
  • ITやシステムの話になると、急に会話から取り残されてしまう文系出身のビジネスパーソン
  • 難しい専門用語は苦手だけど、SAPが何なのか、ざっくりとイメージで理解したい方
  • 将来、企業の中心で活躍するために、経営の仕組みについて学んでおきたい意識の高い学生さん
  • とにかく、ITコンサルタントがドヤ顔で語る「エスエーピー」の正体を、こっそり知りたい方

あなたの会社には、こんな光景はありませんか?営業部のエース、鈴木さんが「先月のA商品の受注、過去最高でした!」と意気揚々と報告する。すると、経理部のベテラン、山田さんが渋い顔で「いや、まだ入金が確認できていない案件が半数以上ですよ。それに、在庫管理部からは、B部品の在庫が足りないと悲鳴が上がっていますが…」。同じ会社なのに、見ている数字がバラバラで、会話が噛み合わない。まるで、違う国の人同士が話しているかのようです。

実はこれ、多くの日本企業が抱える「病」でした。この、会社全体がバラバラになってしまう非効率な病を治すための特効薬、それが「ERP」という考え方。そして、その薬の中で、最も有名で、最も効果で、そして最も「お値段が高い」王様として君臨しているのが、何を隠そう「SAP」なのです。

この記事では、そんな難解なイメージのあるSAPとERPの世界を、専門用語を一切使わず、「巨大なレゴブロック」という、たった一つの比喩を使って、誰にでもわかるように解説していきます。読み終える頃には、あなたもきっと、会社の仕組みが、今までとは全く違って見えるはずです。

昔の会社は「伝言ゲーム」だらけ。ERPが生まれたワケ

SAPの話をする前に、少しだけ昔話にお付き合いください。なぜ、SAPのような巨大なシステムが必要になったのか。その理由を知ることが、理解への一番の近道だからです。

かつての会社組織は、まるで、クラスごとに独立した小学校のようでした。営業部は「受注ノート」、生産部は「生産計画ノート」、購買部は「発注ノート」、そして経理部は「会計ノート」と、それぞれの部署が、自分たちのノートにだけ、自分たちの都合で情報を書き込んでいたのです。

さて、ここで問題です。社長が「おい、今、うちの会社は儲かっているのか?A商品はあといくつ作れるんだ?」と質問したとき、一体誰が正確に答えられるでしょうか。

答えは、「誰も即答できない」です。

まず、経理部が営業部の受注ノートと、購買部の発注ノート、そして生産部の生産実績ノートを全部かき集めて、電卓を叩いて、ようやく「先月の売上と利益はこうです」と報告します。これには、数日かかります。その間に、状況は刻一刻と変わっているというのに。

営業部が大きな注文を取ってきても、その情報が生産部に伝わるのが遅れて、「部品がなくて作れません!」なんてことになったり。逆に、生産部が頑張ってたくさん作っても、営業部が売れなければ、大量の在庫を抱えて大赤字になったり。まさに、社内は非効率な「伝言ゲーム」だらけ。これでは、戦に勝てるはずもありません。

そこで、賢い人たちが考えました。「もう、部署ごとに別のノートを使うのはやめよう。全員で、一つの巨大な共有ノートを使えばいいじゃないか!」と。これが、「ERP(Enterprise Resource Planning)」という考え方の誕生です。日本語に訳すと「統合基幹業務システム」。なんだか難しそうですが、要は「会社の全部署の情報を、一つの場所で、リアルタイムに共有する仕組み」のことです。

SAPとは何か?世界標準の「経営レゴブロック」である

そして、この「巨大な共有ノート」を、世界で最も高性能で、最も多くの企業に使われている製品として提供しているのが、ドイツのSAP社なのです。

さて、ここからが本題です。SAPとは一体、何者なのか。私は、SAPのことを「世界標準の、経営レゴブロック」だと考えています。

皆さんも、レゴブロックで遊んだことがありますよね。いろんな形や色のブロックを組み合わせて、家を作ったり、車を作ったり。SAPも、考え方はこれと全く同じです。

SAPという製品は、実は一つのソフトウェアではありません。「財務会計(FI)」という名前のブロック、「販売管理(SD)」という名前のブロック、「在庫購買管理(MM)」という名前のブロック、「生産管理(PP)」という名前のブロック…といったように、会社の機能ごとに作られた、たくさんの「レゴブロック(モジュール)」の集合体なのです。

そして、企業は、自分たちの会社の形に合わせて、これらのブロックを自由に選び、組み合わせていきます。例えば、モノを作って売る製造業なら、「生産」「販売」「在庫」「会計」のブロックを組み合わせる。サービス業で在庫を持たないなら、「販売」と「会計」のブロックだけでいいかもしれない。このように、レゴブロックのように組み立てることで、どんな業種の会社にもフィットする、オリジナルの経営システムという「作品」を作り上げることができるのです。

なぜこの「レゴ」はこんなに高いのか?その価値の正体

ここで、鋭いあなたは気づくでしょう。「なるほど、レゴブロックか。でも、なぜこのレゴは、家が建つほど高いんだ?」と。その通り。SAPの導入には、数億円、大企業ともなれば数十億円という、とてつもない費用がかかります。その理由は、このレゴが、ただのプラスチックの塊ではないからです。

1. ブロックの品質が、そもそもケタ違い

このレゴブロックには、世界中の一流企業が、何十年もかけて培ってきた「最高の仕事のやり方(ベストプラクティス)」という、超一流の「設計図」が、あらかじめ内蔵されています。つまり、このレゴの設計図通りに組み立てていくだけで、自然と、世界標準の効率的な業務プロセスが、あなたの会社に導入できてしまうのです。これは、もはやブロックではなく、最高のコンサルティングサービスがセットになった、魔法のキットと言えるでしょう。

2. 組み立てる「職人さん」代が、とてつもなく高い

こんなに複雑で高機能なレゴブロック、素人が簡単に組み立てられると思いますか?無理ですよね。この特別なレゴを、企業の要望に合わせて正しく、そして美しく組み立てるためには、「SAPコンサルタント」と呼ばれる、高度な知識と経験を持った「専門の職人」が必要です。SAPの導入費用が高いと言われる理由の大部分は、実は、この職人さんたちに支払う人件費なのです。年収2000万円を超える職人さんもザラにいます。

3. 完成後も「メンテナンス」が必要

レゴで巨大なお城を作ったら、それが崩れないように、ホコリがかぶらないように、維持管理が必要ですよね。SAPも同じです。一度導入したら終わり、ではありません。法改正に対応したり、新しいビジネスに合わせてブロックを組み替えたりと、継続的なメンテナンスが必要です。この維持管理費用も、決して安くはありません。

つまり、SAPを導入するというのは、近所のオモチャ屋でレゴを買うのとはワケが違う。まさに、一生モノの家を、超一流の建築家に設計してもらい、建てるようなものなのです。

SAPで何が変わる?「経営コックピット」を手に入れた会社の未来

では、そんな莫大な投資をしてまで、企業が手に入れたいものは、一体何なのでしょうか。それは、飛行機のパイロットが座るような、「経営のコックピット」です。

SAPという巨大な共有ノート(ERP)が導入されると、会社のあらゆる情報が、リアルタイムで、一つの場所に集約されます。

営業担当がスマホで受注情報を入力した瞬間、その情報が工場の生産計画に反映され、同時に経理部の売上予測も更新される。部品の在庫が少なくなれば、自動的に購買部にアラートが飛ぶ。

経営者は、自分のデスクのパソコン画面を見るだけで、会社の売上、利益、在庫、生産状況、資金繰りといった、経営に必要な全ての計器を、一目で確認できるようになります。まるで、戦闘機のパイロットが、速度や高度、敵の位置を把握しながら操縦するように、会社の「今」を正確にデータで把握し、次の手を打つことができるのです。

「今、関西エリアでA商品の売上が急増している。すぐに在庫を西日本の倉庫に移動させ、増産体制に入れ!」 「このままでは、来月末の資金がショートする危険がある。すぐに銀行と交渉を開始しろ!」

このような、データに基づいた、迅速かつ的確な意思決定が可能になる。勘や経験だけに頼った、アナログな経営からの脱却。これこそが、企業が喉から手が出るほど欲しい、SAPの真の価値なのです。

初心者はどこから学ぶべき?賢い「レゴ入門」の3ステップ

ここまで読んで、あなたもSAPという巨大なレゴの魅力と、その恐ろしさを、少しは感じていただけたかと思います。では、最後に、初心者のあなたが、この世界にどう足を踏み入れていけばいいか、3つのステップでご紹介します。

ステップ1:まずは「完成品のカタログ」を眺めよう

いきなり、分厚い組み立て説明書(専門書)を読んではいけません。必ず挫折します。まずは、この記事のような「完成品のカタログ」を眺めて、「へえ、こんなすごいものが作れるんだ」と、全体像のイメージを掴むことが大切です。特に、「FI(会計)」「SD(販売)」「MM(在庫)」「PP(生産)」といった、主要なブロックの名前と、その役割だけでも、ぼんやりと覚えておきましょう。

ステップ2:一番身近な「ブロック」から触ってみよう

あなたがもし経理部にいるなら、まずは「FI(会計)」のブロックについて、少しだけ詳しくなってみましょう。営業部にいるなら「SD(販売)」です。全てのブロックを一度に理解しようとする必要は、全くありません。まずは、自分の仕事に一番関係の深いブロックを一つ選び、その専門家になることを目指すのです。それが、巨大なレゴワールドを探検する、最も賢い第一歩です。

ステップ3:「伝説のビルダー」の話を聞きに行こう

最高の学びは、人から得られます。あなたの会社で、実際にSAPの導入プロジェクトに関わったことのある先輩や、その道のプロであるITコンサルタント(伝説のレゴビルダー)を見つけて、話を聞きに行きましょう。「どんな目的で、どんな作品を作ったのか」「組み立てる上で、どんな苦労があったのか」。その生きた物語は、どんな教科書よりも、あなたの血肉となるはずです。

SAPは、単なるITシステムではありません。それは、会社のビジネスプロセスそのものを映し出す鏡であり、経営のあり方を根本から変革する、強力な武器です。この巨大なレゴの仕組みを理解することは、あなたのビジネスパーソンとしての解像度を、間違いなく、何段も引き上げてくれるでしょう。

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