
【この記事はこんな方に向けて書いています】
- 渾身の思いで作った業務マニュアルを、全く読んでもらえず悩んでいる方
- 「〇〇ってどうやるんでしたっけ?」という同じ質問に、毎日うんざりしている方
- 社員のスキルが標準化されず、業務の属人化に頭を抱えている管理職の方
- 読まない部下や後輩に、イライラするのをもうやめたいと思っている全ての方
「この前作ったマニュアル、ちゃんと読んでおいてね」 「その質問、マニュアルの32ページに書いてありますよ」
そんなやり取りを、あなたは今日、何回繰り返しましたか? 渾身の力作マニュアルが、誰にも読まれず、ただサーバーの肥やしになっている。その現実に、あなたは「読まないアイツらが悪い」と、怒りや無力感を募らせているかもしれません。
でも、今日はっきり言います。 読まれないのは、読まない社員が100%悪いわけじゃない。読ませるための“仕組み”と“工夫”を怠っている、あなたの怠慢でもあるんです。 「マニュアルを読め」と感情的に怒鳴るのは、マネジメントの“敗北宣言”に他なりません。 今日は、精神論を一切排除し、読まない社員を“読まざるを得ない状況”に追い込む、少し悪魔的なアプローチについてお話しします。
大前提:人は「読まない」「信じない」「行動しない」生き物である
まず、この残酷な事実を受け入れてください。 人間とは、本質的に「面倒くさがり」な生き物です。これは、マーケティングの世界では「3つのNOT」として知られる大原則。顧客は「広告を読まない、信じない、行動しない」。これを、そっくりそのまま社内の人間に当てはめてみてください。
そうです。社員は、そもそも「マニュアルを読まない」のがデフォルトなんです。 なぜなら、「詳しい人に直接聞いた方が早い」「どこに何が書いてあるか探すのが面倒」「読んでもどうせ専門用語ばかりで分からない」と、心のどこかで思っているから。
この心理を無視して、ただ「読め!」と命令するのは、全くの無意味。経済産業省が警鐘を鳴らす「技術的負債」の問題も、元をたどれば、こうした業務の属人化、つまり「マニュアルが機能していない」という点に行き着きます。読まない彼らを責める前に、まず「なぜ読まないのか」という原因を冷静に分析すべきなんです。
「読め」と命令するな。“読まざるを得ない状況”を設計しろ
では、どうすればいいのか。 答えは、彼らの「意識」を変えようとするのではなく、「行動」を変える“仕組み”を設計することです。
仕組み1:質問されたら「答え」ではなく「マニュアルの該当箇所」を返す これは、最も即効性があり、かつ重要なルールです。「〇〇のやり方を教えてください」と聞かれたら、絶対に、口頭で答えを教えてはいけません。 やるべきは、マニュアルの該当ページのURLやスクリーンショットを、無言でチャットに貼り付け、「こちらをご確認ください」とだけ返すこと。 これを、感情を無にして、徹底的に繰り返す。数回も続ければ、相手は「この人に聞いても無駄だ。マニュアルを読んだ方が早い」と学習します。
仕組み2:マニュアルを読むことを“業務指示”にする 新しい業務を教えるときや、新人が入社した際には、「このマニュアルを読んで、明日の15時までに、この作業を完了させてください」と、マニュアルを読むこと自体をタスクとして明確に指示します。そして、その成果物を確認することで、マニュアルを正しく理解できたかをテストするんです。
仕組み3:質問の前に「マニュアルを読んだか」のチェックを強制する 問い合わせの窓口を特定のチャットツールなどに一本化し、質問を投稿する際のテンプレートを用意します。そして、そのテンプレートに「マニュアルの〇ページまで読みましたが、△△という点が理解できませんでした」という項目を“必須”にする。これだけで、「とりあえず聞く」という甘えは、劇的に減ります。
それでも読まれないなら、それは“マニュアルの欠陥”を疑え
これらの仕組みを導入しても、まだ質問が減らない。 そうなった時、初めてあなたは、マニュアルそのものの“品質”を疑うべきです。
読まれないマニュアルには、共通する欠陥があります。
・文字だらけの“お経”マニュアル: スクリーンショットや図が絶望的に少なく、読む気を失わせる。
・検索できない“秘伝の書”マニュアル: 目次も索引もなく、どこに何が書いてあるか探せない。
・更新されない“化石”マニュアル: 情報が古すぎて、現状の業務内容と合っていない。
優れたマニュアルとは、「5秒で探せて、30秒で理解できる」ものです。必要であれば、操作手順を動画で撮影した「動画マニュアル」を用意するのも、極めて有効な手段。 マニュアルは、一度作って終わり、ではありません。社員からの質問は「マニュアルが分かりにくい場所」を教えてくれる、貴重なフィードバック。その声をもとに、常に改善し続ける「生き物」なんです。
「マニュアルを読まない社員」に嘆く前に、マネジメント側がやるべきことは、山ほどあります。
「人は読まない」という現実を割り切り、「読まざるを得ない仕組み」を冷徹に設計し、そして「誰でも理解できるマニュアル」へと、血の滲むような改善を続けること。
社員の意識を変えようとするな。 変えるべきは、あなたの“アプローチ”と、その“マニュアル”そのものです。 嘆くのは、それらを全てやり尽くしてからにしませんか?
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