【退職代行の利用は悪か?】サービス急増の裏に隠された「日本社会の本質的な問題」とは

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【この記事はこんな方に向けて書いています】

  • 退職の意向を会社に伝えられず、退職代行サービスの利用を少しでも考えたことがある方
  • 従業員に突然、退職代行を使われてしまい、戸惑いや憤りを感じている経営者や人事担当者の方
  • 「退職代行なんて無責任だ」と感じているが、なぜこれほど流行るのか疑問に思っている方
  • 現代の日本の労働問題や、企業と個人のコミュニケーションのあり方に関心がある方
  • これからの社会で、より良い働き方を実現するためのヒントを探している方

「ある日突然、見知らぬ業者から『貴社の〇〇様は、本日付けで退職します』という一本の電話が…」

近年、ニュースやSNSで頻繁に話題となる「退職代行サービス」。会社の上司や同僚と一切顔を合わせることなく、数万円でスムーズに退職できるその手軽さが注目される一方で、「社会人として無責任だ」「筋が通らない」といった厳しい批判の声も絶えません。

しかし、この現象を、単に「利用者の甘え」や「業者の巧妙なビジネス」として片付けてしまって、本当に良いのでしょうか?

この記事では、退職代行サービスがなぜこれほどまでに必要とされているのか、その背景にある「辞めたいけど、辞めさせてくれない」という労働者の苦悩や、企業が抱えるコミュニケーション不全といった、日本社会の「本質的な問題」に光を当てていきます。

退職代行の是非を問う前に、私たちが本当に向き合うべき課題が、きっと見えてくるはずです。

退職代行サービスは、なぜこれほどまでに急増したのか?

退職代行サービスの市場が、近年急速に拡大している背景には、大きく分けて2つの側面があります。

一つは、「働き手」の意識の変化です。終身雇用が当たり前ではなくなり、キャリアアップのための転職が一般化したことで、かつてのような「会社への絶対的な忠誠心」は希薄になりました。労働者として、退職は正当な権利であるという意識が高まったのです。

しかし、もう一方で、より根深い問題が存在します。それは、「辞めたい」という労働者の正当な権利の行使を、様々な形で妨害する「企業側」の体質です。

深刻な人手不足を背景に、「後任が見つかるまで辞めさせない」といった違法な引き止めを行う。あるいは、退職の意向を伝えた途端に、上司が高圧的な態度に出たり、嫌がらせをしたりする。こうした「引き止めハラスメント」や「パワーハラスメント」が、いまだに多くの職場で横行しているのが現実です。

このような板挟みの状況に追い詰められた労働者にとって、退職代行サービスは、心身の安全を守り、確実に退職という権利を実行するための「最後の駆け込み寺」としての役割を担っているのです。

問題は「利用者」か、それとも「利用させる企業」か

退職代行の話題になると、必ず「そんなものを使うのは無責任だ」という批判が起こります。確かに、お世話になった会社や同僚に対して、何の説明もなく一方的に関係を断ち切るやり方は、社会人としての仁義を欠いている、と言われても仕方がないケースもあるでしょう。

しかし、私たちは視点を変えてみる必要があります。

そもそも、なぜ従業員は、肉声で「辞めたい」と伝えられないのでしょうか。なぜ、数万円という決して安くはないお金を払ってまで、会社との関係を断ち切りたいと願うのでしょうか。

その根本原因は、従業員が安心して退職の相談すらできないような、風通しの悪い企業文化や、ハラスメントを容認するような職場環境にあるのではないでしょうか。

従業員からの退職代行の連絡は、その従業員個人の問題を責める前に、企業が自社の労働環境やマネジメントのあり方を見直すべき「危険信号(アラート)」として、真摯に受け止めるべきなのです。

退職代行が浮き彫りにする「コミュニケーション」の崩壊

この問題の本質をさらに深く掘り下げると、私たちは「コミュニケーションの崩壊」という、現代社会が抱える大きな課題に行き着きます。

厚生労働省の雇用動向調査などを見ても、常に退職理由の上位には「人間関係」がランクインしています。上司と部下が、日頃からキャリアや働き方についてオープンに話せる関係性が築けているか。困った時に、安心して相談できる心理的安全性が、職場に確保されているか。

こうした日々のコミュニケーションが不足していることで、従業員は孤立し、追い詰められ、最後の手段として「相談」ではなく「代行」という外部の力に頼らざるを得ない状況が生まれています。

退職代行の利用は、単なる退職手続きの問題ではなく、職場における人間関係の希薄化や、対話の不在を、象徴的に示している現象だと言えるでしょう。

まとめ:退職代行が「不要な社会」を目指して、私たちができること

退職代行サービスという現象を、ただ批判したり、嘆いたりしているだけでは、何も解決しません。

私たちが本当に目指すべきなのは、このようなサービスが「ビジネスとして成り立たなくなる社会」、つまり、全ての労働者が、安心して、そして円満に「辞める」という選択ができる社会です。

そのために、私たち一人ひとりができることは何でしょうか。

企業側は、日頃から従業員の声に真摯に耳を傾け、ハラスメントを絶対に許さない文化を醸成し、誰もが安心して働ける「心理的安全性」の高い職場を作ることが急務です。

そして、私たち労働者一人ひとりも、自分の権利を正しく知り、主張しつつも、できる限り円満な解決を目指す対話の努力を、最後まで諦めない姿勢が求められます。

この退職代行という社会現象を、他人事としてではなく、私たち一人ひとりが「自分ごと」として捉え、これからのより良い働き方や、人と人とのコミュニケーションのあり方を、真剣に考える。そのきっかけとすべきではないでしょうか。

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