
【この記事はこんな方に向けて書いています】
- 世代が違う人との価値観の違いに、戸惑いや不満を感じている全ての方
- ネットやニュースで聞く「老害」や「若害」といった言葉が、なぜ生まれるのかその背景を知りたい方
- 年金問題や社会保障など、世代間の不公平感に関心がある方
- 職場や家庭で、異なる世代のメンバーと、より良い関係を築きたいと考えている方
- これからの日本の社会がどうあるべきか、世代を超えて考えていきたい方
「最近の若者は、常識も礼儀もなっていない」と嘆く高齢世代。 「今の高齢者は、既得権益にしがみついて若者の未来を奪っている」と批判する若者世代。
電車でのマナーから、働き方、政治や社会保障の問題に至るまで、私たちの周りでは、まるで「老人VS若者」とでも言うような、世代間の断絶や対立が、日々クローズアップされています。
しかし、この対立構造は、単なる個人の性格や、感情的な問題なのでしょうか?
いいえ、違います。その根底には、それぞれの世代が歩んできた「時代背景」の決定的な違いと、それによって生まれた社会構造の歪みが、深く横たわっているのです。
この記事では、なぜ世代間のすれ違いが起きてしまうのか、その背景をデータと共に冷静に分析し、不毛な対立を乗り越えて、私たちが共にこの社会で生きていくためのヒントを探っていきます。
対立から、対話へ。この記事が、世代間の相互理解を深める一助となれば幸いです。
「VS」の構図はなぜ生まれる?すれ違う“当たり前”の正体
世代間の対立が起きる最も根本的な原因は、それぞれの世代が経験してきた時代背景の違いによって、「常識」や「当たり前」が全く異なっていることにあります。
高齢者世代が歩んできた時代 多くは、戦後の復興から高度経済成長期という「右肩上がりの時代」を生きてきました。「頑張れば頑張っただけ豊かになれる」という成功体験を持ち、会社に尽くす終身雇用や年功序列が「当たり前」でした。そのため、若者の「会社への帰属意識の低さ」や「転職への抵抗のなさ」が、理解しがたいものに映ることがあります。
若者世代が歩んている時代 一方、若者世代は、バブル崩壊後の「失われた数十年」と呼ばれる、経済が停滞した時代に生まれ育ちました。非正規雇用の拡大や、社会のデジタル化といった大きな変化の中で、「頑張っても必ず報われるとは限らない」という現実を見ています。そのため、会社という組織への安定よりも、個人のスキルやワークライフバランス、自分らしい生き方を重視するのが「当たり前」になっています。
このように、善悪の問題ではなく、生きてきた時代の物差しが全く違うのです。お互いが、自分の物差しで相手を測ろうとするからこそ、「理解できない」という感情が生まれ、対立へと繋がってしまいます。
データで見る世代間の「不公平感」とは?
感情的なすれ違いに加えて、世代間の対立をより深刻にしているのが、社会保障制度における「不公平感」です。
日本の社会は、急激なスピードで少子高齢化が進行しています。総務省のデータによれば、1970年にわずか7.1%だった65歳以上の高齢化率は、2024年(令和6年)には29.1%に達し、国民の約3.4人に1人が高齢者という状況です。
これは、年金や医療といった社会保障制度において、現役世代(若者)の負担が、年々増大していることを意味します。
一人の高齢者を支える現役世代の人数は、1965年には9.1人(胴上げ型)でしたが、2015年には2.3人(騎馬戦型)となり、2065年には1.3人(肩車型)になると予測されています。
こうしたデータは、若者世代に「自分たちが払った年金は、将来ちゃんと返ってくるのだろうか」「自分たちは、高齢者世代に比べて明らかに損をしているのではないか」という、根深い不公平感と将来への不安を植え付けています。この経済的な構造問題が、世代間対立の火種を、さらに大きくしているのです。
「老害」「若害」というレッテル貼りの危険性
世代間の対立が深まると、「老害」や「若害」といった、相手を攻撃するための便利な言葉が生まれます。
しかし、こうしたレッテル貼りは、非常に危険な行為です。
なぜなら、相手を「老害」「若害」と一括りにしてしまうことで、私たちは相手を「理解する努力」を放棄し、思考停止に陥ってしまうからです。そうなると、もはや建設的な対話は生まれません。
どんな世代にも、尊敬できる素晴らしい人もいれば、少し困った行動をとる人もいます。それを「世代」という大きな主語で批判することは、本質的な問題の解決から目を背け、ただ感情的な対立を煽るだけの、不毛な行為なのです。
まとめ:対立から「対話」と「協働」へ。私たちができること
では、この根深い世代間の断絶を、私たちはどうすれば乗り越えていけるのでしょうか。必要なのは、相手を打ち負かす「対立」ではなく、お互いを理解しようとする「対話」と、共に未来を作る「協働」です。
そのために、明日から私たち一人ひとりができることが、3つあります。
1. 相手の時代背景を想像する 「なぜ、あの人はあんな考え方をするんだろう?」と批判する前に、一度立ち止まり、相手が生きてきた時代や文化に、少しだけ思いを馳せてみましょう。その一歩が、一方的な決めつけを防ぎ、理解の入り口となります。
2. 世代でなく「個人」として向き合う 「今の若者は…」「最近の年寄りは…」という大きな主語を、今日から使うのをやめてみませんか。目の前にいるのは、世代の代表ではなく、「佐藤さん」「鈴木くん」という、一人の個性を持った人間です。個人として向き合うことで、初めて本物の関係性が生まれます。
3. 世代を超えて「共通の目標」を持つ 職場や地域活動の中で、世代を超えて一緒に取り組める「共通の目標」を見つけることも有効です。例えば、「新しい商品の開発」や「地域の清掃活動」など、同じ目標に向かって協力し合う中で、世代という壁は自然と溶けていくはずです。
不毛な対立を乗り越え、高齢者世代の知恵や経験と、若者世代の新しい価値観や行動力を融合させることができた時、私たちの社会は、もっと強く、もっと豊かになれるはずです。
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