【初心者向け】SAP MMモジュールとは?調達・購買業務のコストを劇的に削減する仕組みを徹底解説

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【この記事はこんな方に向けて書いています】

  • 会社の調達・購買部門に配属されたばかりで、SAPという言葉を初めて聞いた方
  • これからSAPの導入プロジェクトに参加することになった、企画・情報システム部門の方
  • SAP MMコンサルタントを目指していて、モジュールの全体像を基礎から学びたい方
  • 現在Excelや手作業で購買管理をしており、非効率な業務に課題を感じている方
  • 難しそうなSAP MMの基本を、分かりやすく、体系的に理解したいと考えている方

企業の利益を大きく左右する、調達・購買業務。会社の「お金」と「モノ」の流れの、まさに源流とも言える重要な仕事です。しかし、多くの企業の現場では、いまだに電話やFAXでの発注、担当者ごとに異なるExcelフォーマットでの管理といった、属人的で非効率な方法がまかり通っているのが現実ではないでしょうか。その結果、発注ミスによる納期の遅れ、過剰在庫によるキャッシュフローの悪化、不正な請求の見逃しなど、様々な問題が日々発生しています。こうした、調達業務にまつわる根深い課題を根本から解決するために開発されたのが、SAP社の提供する「MM(エムエム)モジュール」です。この記事では、「SAPって何?」「MMって何の略?」というレベルの初心者の方でも安心して読み進められるように、専門用語を一つひとつかみ砕きながら、SAP MMの全体像と、それがもたらす驚くべき業務改善効果について、徹底的に解説していきます。


そもそもSAP MMモジュールって何者?

まず、基本中の基本から始めましょう。SAP(エスエイピー)とは、ドイツに本社を置くSAP社が開発した、企業の様々な業務を統合的に管理するためのソフトウェア(ERPパッケージ)の名称です。そして、その巨大なソフトウェアは、「モジュール」と呼ばれる機能ごとの塊に分かれています。会計を管理する「FIモジュール」、販売を管理する「SDモジュール」などがある中で、今回ご紹介する「MMモジュール」は、その名の通り「Material Management」、日本語では「在庫/購買管理」を担当するモジュールです。

少しイメージを膨らませてみましょう。あなたの会社が、巨大なスーパーマーケットだと想像してください。バックヤードでは、毎日膨大な数の商品が入荷し、倉庫に保管され、そして売り場へと運ばれていきます。この時、MMモジュールは、このバックヤード全体の動きを管理する、超優秀な司令塔の役割を果たします。

  • 「ポテトチップスの在庫が、あと100袋になったから、そろそろ発注しないと棚が空っぽになっちゃうぞ」(在庫管理と所要量計算)
  • 「A社とB社、どっちの業者から仕入れるのが一番安いんだっけ?過去の取引データを見てみよう」(見積と供給元決定)
  • 「よし、A社にポテトチップスを500袋、来週の火曜日までに納品するよう正式に注文しよう」(購買発注)
  • 「今日、A社からポテトチップスが届いたな。ちゃんと注文通りの500袋あるか、検品して受け入れよう」(入庫処理)
  • 「A社から請求書が来た。ちゃんと500袋分の金額になっているか、注文書と照合しよう」(請求書照合)

このように、MMモジュールは、企業活動に必要な「モノ(品物やサービス)」を、適切なタイミングで、適切な取引先から、適切な価格で、適切な数量だけ調達するための一連のプロセスを、デジタルデータで一元管理するための仕組みなのです。企業のモノとお金の流れにおいて、まさに「入り口」を司る、極めて重要な役割を担っていると言えるでしょう。実際に、米国の調査会社Aberdeen Groupのレポートによれば、SAPのようなシステムを導入し、戦略的な調達プロセスを確立した企業は、そうでない企業に比べて、購買コストを平均で10%から20%も削減できているというデータもあります。MMモジュールは、単なる業務効率化ツールではなく、企業の収益性を直接的に向上させるための強力な武器なのです。


これがMMの真骨頂!調達プロセス5つのステップ

では、具体的にSAP MMモジュールは、日々の調達業務をどのように変えてくれるのでしょうか。ここでは、調達の一連の流れを5つのステップに分けて、それぞれの機能を見ていきましょう。この流れを理解することで、あなたの普段の業務が、全体のどの部分に位置するのかが明確になるはずです。

ステップ1:購買依頼 (Purchase Requisition) 全ての調達は、現場からの「これが欲しい!」という要求から始まります。例えば、製造部門が「製品Aを作るための部品Xが100個足りない」と感じた時、その要求をシステム上に登録するのが「購買依頼」です。電話やメール、口頭での依頼と違い、システムにデータとして登録されるため、「言った、言わない」のトラブルを防ぐことができます。また、「この依頼は、部長の承認がないと次に進めない」といった承認ワークフローを設定することも可能です。これにより、不要な購買や、権限のない担当者による勝手な発注を防ぎ、内部統制を強化することができます。

ステップ2:見積・供給元決定 (Quotation / Source Determination)
「部品Xが100個欲しい」という要求に対し、購買部門は「では、どこから買うのが最適か?」を判断する必要があります。MMモジュールでは、複数の仕入先(ベンダー)に対して見積依頼をシステムから発行し、各社から提出された価格や納期といった条件を、システム上で一覧比較することができます。さらに、過去の取引実績や価格情報を「購買情報」や「ソースリスト」としてマスタデータに登録しておくことで、「この部品は、いつもA社から買うのが一番安い」といった情報をシステムが自動で提案してくれます。これにより、担当者の経験則だけに頼らない、データに基づいた最適な仕入先選定が可能になります。

ステップ3:購買発注 (Purchase Order)
仕入先と価格、納期が決まったら、いよいよ正式な注文です。この注文書(PO:Purchase Order)を作成するのが「購買発注」のステップです。MMモジュールの素晴らしい点は、ステップ1の「購買依頼」やステップ2の「見積」の情報を、ボタン一つで購買発注伝票にコピー(転記)できることです。これにより、品目コードや数量、金額などを手で打ち直す必要がなくなり、入力ミスという、調達業務で最も起こりがちで、かつ致命的なヒューマンエラーを劇的に削減することができます。

ステップ4:入庫処理 (Goods Receipt)
発注した品物が、仕入先から自社の倉庫や工場に納品された際に、その受け入れ処理を行うのが「入庫処理」です。担当者は、納品された現物と、システム上の購買発注データを見比べ、「注文通りの品物が、注文通りの数量だけ、ちゃんと届いたか」を確認します。そして、システムで入庫処理を行った瞬間に、その品物の在庫データがリアルタイムで更新されます。このリアルタイム性が非常に重要で、後続の生産計画を立てる部門や、販売計画を立てる部門は、常に最新の在庫状況を正確に把握することができるようになるのです。

ステップ5:請求書照合 (Invoice Verification)
品物を受け取ったら、最後はお金の支払いです。仕入先から届いた請求書の内容が正しいかどうかを検証するのが「請求書照行」です。MMモジュールでは、請求書に書かれた金額や数量を、システム上の「購買発注データ(いくらで買うと約束したか)」と「入庫データ(いくつ受け取ったか)」と自動で照合します。もし、発注した数量以上の請求が来ていたり、約束した単価と違う金額が記載されていたりすれば、システムがアラートを出して支払いをブロックしてくれます。これにより、請求書の二重払いや、不当な金額での支払いといった不正やミスを、システム的に防止することができるのです。


なぜMMを使うの?Excel管理を卒業すべき3つの理由

ここまでMMの機能を見てきて、「便利そうだけど、うちの会社はExcelでも何とかなっているし…」と感じた方もいるかもしれません。しかし、Excelによる管理には、企業経営の観点から見て、見過ごすことのできない3つの大きなリスクが潜んでいます。MMモジュールは、これらのリスクを根本から解消します。

理由1:業務の標準化と属人化の排除
Excelや紙による運用では、どうしても業務のやり方が個人に依存しがちです。「この発注業務は、ベテランの佐藤さんしか分からない」といった「属人化」が発生し、もし佐藤さんが急に退職でもしたら、業務が完全にストップしてしまうリスクを抱えることになります。SAP MMを導入するということは、全社で統一された業務プロセスをシステム的に強制するということです。誰が担当しても、同じルール、同じ手順で業務が流れるため、業務品質が安定し、特定の個人に依存しない、持続可能な業務体制を構築できます。

理由2:データのリアルタイム性と透明性の確保
Excel管理の最大の弱点は、データが「分断」され、「リアルタイム性」がないことです。購買担当者のPCにある発注リスト、倉庫担当者のPCにある在庫リスト、経理担当者のPCにある支払いリスト…。それぞれの情報がバラバラで、どれが最新の情報なのか誰にも分かりません。その結果、「まだ在庫があると思っていたのに、実は欠品していて生産が止まった」「発注した部品がいつ届くか分からず、無駄な催促の電話をかけ続けている」といった非効率が発生します。MMモジュールでは、調達に関する全てのデータが一つのデータベースで一元管理され、全ての処理がリアルタイムに反映されます。これにより、経営者から現場担当者まで、全ての関係者が「今、どうなっているのか」を正確に、瞬時に把握できる「透明性」が確保されるのです。実際に、ある製造業の事例では、MM導入による在庫管理の精度向上によって、年間の在庫保管コストを15%も削減できたという報告もあります。

理由3:コンプライアンス強化と戦略的なコスト削減
先のステップでも述べたように、MMモジュールは、承認ワークフローや請求書照合といった機能を通じて、不正やミスが起こりにくい仕組みを提供します。これは、企業のコンプライアンス(法令遵守)を強化する上で非常に重要です。さらに、MMに蓄積された膨大な購買データを分析することで、調達業務は新たなステージへと進化します。「どのサプライヤーから、どの品目を、年間でどれだけ購入しているか」といったデータを可視化することで、「A社からの購入額が大きいから、来期はボリュームディスカウントを交渉しよう」「B社とC社から同じような部品を買っているから、安い方のB社に集約しよう」といった、データに基づいた戦略的なコスト削減活動、いわゆる「戦略ソーシング」が可能になるのです。


SAP MMモジュールは、単に日々の購買業務を楽にするためのシステムではありません。それは、調達という企業の根幹をなす業務プロセス全体を、標準化・可視化・最適化し、コスト削減とガバナンス強化を通じて、企業の経営そのものを強くするための、強力なソリューションなのです。これからMMを学ぶ方、日々の業務でMMを使う方にとって、この記事がその奥深い世界の第一歩となり、あなたの業務をより良くするためのヒントとなれば、これほど嬉しいことはありません。

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