
【この記事はこんな方に向けて書いています】
- 転職したい気持ちはあるのに、「転職の軸」が分からず、キャリアの迷子になっているエンジニアの方
- 転職サイトを眺めては、年収や技術スタックといった目先の情報に心をかき乱されている方
- エージェントに言われるがまま、興味のない求人を紹介されて消耗している方
- 「やりたいこと」という言葉の呪縛から解放され、自分だけの揺るぎないキャリアの指針を見つけたい方
- 他人任せの転職活動を卒業し、自分の意思で未来を切り拓く覚悟を決めたい方
「あなたの、転職の軸は何ですか?」。面接官やエージェントから投げかけられる、このありきたりな質問。あなたはこの問いに、よどみなく、自信を持って答えられますか。もし、少しでも口ごもってしまうのなら、はっきり言って、あなたの転職活動は失敗します。転職サイトを漫然と眺め、エージェントが持ってくる求人に「まあ、悪くないかな…」と頷き、自分の人生の行き先を、完全に他人任せにしている。そんな状態ではありませんか。多くの人が、「自分探しの旅」と称して「やりたいこと」という名の青い鳥を探し求め、キャリアの迷子になっています。ですが、断言します。そんなものは、今すぐやめなさい。「やりたいこと」なんて、そう簡単に見つかるものではない。今日は、そんなフワフワした精神論ではなく、あなたのキャリアを冷徹に解剖し、後悔しないための「揺るぎない軸」を強制的にあぶり出す、劇薬のような思考整理術を授けます。
なぜあなたの「軸」はブレるのか?原因は“他人のモノサシ”で生きているからだ
そもそも、なぜあなたの「転職の軸」は、豆腐のようにぐにゃぐにゃと形を変えてしまうのでしょうか。その根本原因は、あなたが「自分のモノサシ」ではなく、「他人のモノサシ」でキャリアを測ろうとしているからです。あまりにも多くのエンジニアが、自分自身の内なる声に耳を傾けることなく、外部からもたらされる情報に、いとも簡単に振り回されているのです。
SNSを開けば、誰かが「これからはマイクロサービスの時代だ!」と叫び、同僚と飲めば、「〇〇社は給料が良くて、フルリモートらしい」と囁かれる。転職エージェントに相談すれば、「あなたのスキルなら、急成長中のこのSaaS企業がおすすめです」と、親切な顔で誘導される。そのたびに、あなたの心は「マイクロサービスか…」「フルリモートは魅力だな…」「SaaSもいいかもしれない…」と、木の葉のように揺れ動く。それは、あなたの意思決定ではありません。ただ、情報という風に吹かれて、無様に踊らされているだけのカカシと同じです。
リクルート社が実施した調査によれば、転職した人が後悔した理由の上位には、常に「社風が合わなかった」「想定していた仕事内容と違った」といった項目が並びます。これは何を意味するか。年収、技術スタック、会社の知名度といった、誰でも比較しやすい「外的要因」、つまり「他人のモノサシ」で測れる要素だけで転職先を決めた結果、自分自身の価値観や働きがいといった、目に見えない「内的要因」との間に、致命的なズレが生じてしまった悲劇の証明です。あなたのキャリアは、あなたのものです。他人の評価や流行りに委ねていいほど、安いものではないはずです。
「やりたいこと」という呪いを捨てよ。全ての答えは“不満”の中にある
「転職の軸を見つけるために、まずは自分のやりたいことを見つけましょう」。ああ、なんて無責任で、人を思考停止に陥らせる、美しい言葉でしょう。断言しますが、「やりたいこと」なんて、血眼になって探しても見つかりません。見つかったとしても、それは大抵、誰かが「これがいいよ」と言っていたことの受け売りです。
キャリアの軸を見つけるための、最も確実で、最も早いルート。それは、ポジティブな「やりたいこと(Want)」を探すことではありません。その真逆、ネガティブな「やりたくないこと(Un-Want)」、そして「現状に対する強烈な不満(Pain)」を、徹底的に言語化することです。あなたの心の奥底に澱のように溜まっているその不満こそが、あなたの本質的な価値観を映し出す、最高の鏡なのです。
さあ、今すぐ紙とペンを用意してください。そして、次の問いに、最低30個、どんな些細なことでもいいので正直に書き出してください。
「今の仕事の、何が、どう嫌なのか?」
- 「朝のデイリースクラムが、ただの進捗報告会になっていて無意味」
- 「上司が技術を全く理解しておらず、会話が成り立たない」
- 「コードレビューがただのtypo指摘で終わっており、設計の議論ができない」
- 「頑張っても頑張らなくても、評価や給料に全く反映されない」
- 「使っている技術が古すぎて、自分の市場価値が下がる一方だ」
- 「ユーザーの顔が見えず、自分の仕事が誰の役に立っているのか分からない」
書き出せましたか?それでは次に、その不満を「人間関係」「技術環境」「評価・文化」「事業内容」といったカテゴリに分類し、一つひとつをポジティブな言葉に「裏返し」てみてください。
- 「意味のない会議が多い」→「アウトプットを重視し、コミュニケーションが効率的な環境で働きたい」
- 「上司が技術を理解していない」→「エンジニアリングに敬意があり、技術的な議論ができる組織に身を置きたい」
- 「評価制度が不透明」→「成果やプロセスが正当に評価され、成長が実感できる制度がある会社がいい」
どうでしょうか。あなたの漠然とした「嫌だ」という感情が、具体的で、切実な「こうありたい」という願望に変換されたはずです。これが、誰にも真似できない、あなただけの「転職の軸」の原石なのです。「やりたいこと」という幻想を追いかけるのは、もうやめにしましょう。あなたの未来を照らす光は、あなたの中の「不満」という名の闇の中からしか生まれないのです。
最強のフレームワーク「Will-Can-Must」でキャリアを解剖する
現状への不満を言語化し、裏返すことで、あなたはキャリアの軸の「原石」を手にしました。次のステップは、その原石を磨き上げ、誰が見ても納得する、強固で揺るぎない「軸」へと昇華させることです。そのために、リクルート社が提唱した、キャリアプランニングの最強のフレームワーク「Will-Can-Must」を使います。
これは、あなたの「理想」と「現実」と「市場」を客観的に見つめ、その最適なバランスポイントを見つけ出すための、思考の羅針盤です。
1. Will (やりたいこと・ありたい姿)
これは、先ほどのステップであぶり出した「裏返した不満」、つまり「あなたが実現したい理想の環境や働き方」です。できるだけ具体的に書き出してください。「モダンな技術を使いたい」というレベルではなく、「マイクロサービスアーキテクチャの設計・実装に携わり、スケーラビリティの高いサービス開発をリードしたい」というように、解像度を高く保つことが重要です。「何を」だけでなく、「誰と」「どのように」働きたいかという観点も忘れないでください。
2. Can (できること・強み)
これは、あなたがこれまでのキャリアで培ってきた、客観的な事実としてのスキルや実績です。プログラミング言語やフレームワークといった技術スキルはもちろんのこと、「5人チームのプロジェクトリーダーとして、納期遵守率100%を達成した」といったマネジメントスキル、「後輩3人のメンターとして、独り立ちまでをサポートした」といった育成スキルなど、あなたの価値を証明する事実を洗いざらいリストアップしてください。ここを謙虚に書く必要は一切ありません。
3. Must (やらなければならないこと・市場の需要)
WillとCanが、あなた個人の内なる声だとしたら、Mustは、あなたを取り巻く「外部環境」、つまり市場からの要求です。企業は、あなたのWillやCanに対して、いくらの給料を払ってくれるでしょうか。あなたの理想を実現するためには、どんな役割や責任を「果たさなければならない」でしょうか。ここは、転職サイトで、あなたのWillとCanが交差する領域の求人を片っ端から見て、自分の市場価値と、企業が求めている役割を冷徹に分析するフェーズです。ここを無視したキャリアプランは、ただの夢物語で終わります。
この3つの円を描き、その3つが重なり合う、甘美なスイートスポット。それこそが、あなたが次に目指すべきキャリアの具体的な方向性であり、面接で自信を持って語るべき、あなたの「転職の軸」なのです。
転職の軸とは、どこか遠くにある宝物を探しに行くような冒険ではありません。それは、自分自身の内側を深く、深く掘り下げていく、自己との対話の旅です。他人や情報に振り回されるのは、もう今日で終わりにしましょう。「不満の裏返し」であなたの本音をあぶり出し、「Will-Can-Must」で戦略を練る。この思考の武器さえあれば、あなたはもう、キャリアの迷子になることはありません。あなたの人生の舵は、あなたが握るのです。さあ、紙とペンは用意できましたか。あなたのキャリアの、そして人生の解剖を、今すぐ始めましょう。
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