
【この記事はこんな方に向けて書いています】
- 「Z世代向け」「タイパ重視」を謳う、キラキラしたIT研修に違和感を覚えているZ世代のあなた
- 若手社員に良かれと思って「Z世代向けIT講座」を受けさせているが、一向に成果が出ずに頭を抱えている人事・教育担当者の方
- 世代論という名の“思考停止”から脱却し、本当に価値のある人材育成とは何かを考えたい、全てのビジネスパーソン
「Z世代はデジタルネイティブだから、ITリテラシーが高い」。この言葉、あなたも一度は聞いたことがあるでしょう。そして、この言葉を錦の御旗のように掲げ、「Z世代向け」と銘打った、小洒落たIT講座が世の中に溢れています。短い動画、ポップなイラスト、ゲーム感覚で学べる「ゲーミフィケーション」。一見すると、若者の特性に寄り添った、最新の教育手法のように見えます。
しかし、はっきりと言いましょう。そのほとんどは、時間と金の壮大な無駄遣いです。それどころか、あなたの、あるいはあなたの会社の若手社員の、貴重な才能の芽を摘み取り、成長を阻害する「毒」にすらなり得ます。
なぜ、Z世代に特化したはずのIT講座が、全く意味をなさないのか。それは、講座の設計思想そのものが、「Z世代」という存在を、根本的に見下し、舐めきっているからです。この記事では、その欺瞞に満ちたカラクリを暴き、あなたの貴重な時間を守り、真の成長へと繋がる道筋を、一切の忖度なく示します。世代論という名の甘えから目を覚ます覚悟がある方だけ、この先へお進みください。
スマホが使える=仕事ができる、ではない。“デジタルネイティブ神話”の崩壊
「Z世代向けIT講座」が犯している、最も根源的で、最も罪深い過ち。それは、「デジタルネイティブ」という言葉の、致命的な誤解です。
総務省の調査(令和5年版情報通信白書)によれば、10代・20代のスマートフォンの利用率は実に**98%**を超えています。彼らがSNSを使いこなし、動画を編集し、情報を検索する能力に長けていることは、疑いようのない事実です。
しかし、その能力と、ビジネスで求められるITスキルとの間には、天と地ほどの隔たりがあります。
- TikTokでバズる動画を作れる能力と、会社の共有サーバーの複雑なフォルダ階層を理解し、適切な場所にファイルを保存する能力は、全くの別物です。
- フリック入力で高速にチャットを打てる能力と、顧客に送るメールで、正しい敬語とビジネスマナーに基づいた文章を作成する能力は、全くの別物です。
- ゲームアプリを直感的に使いこなす能力と、基幹システムで発生したエラーの原因を、ログを読んで特定する能力は、全くの別物です。
Z世代が使いこなしているのは、消費者として、徹底的に「分かりやすく」デザインされたアプリケーションの世界です。しかし、ビジネスの現場は、そんなに甘くありません。そこにあるのは、過去のしがらみで作られたレガシーシステム、統一感のないExcelフォーマット、そして、そもそも誰も正確な仕様を把握していない「秘伝のタレ」のようなツール群です。
にもかかわらず、「Z世代向けIT講座」は、「パソコンの起動方法」「ファイルの保存場所」といった、彼らの知性を侮辱するようなレベルから始めるか、あるいは、「最新SNS活用術」「バズる動画編集講座」といった、ビジネスの本質からかけ離れた“意識高い系”の遊びに終始します。彼らが本当に学ぶべき、「消費者としてのIT利用」から「生産者としてのIT活用」へと頭を切り替えるための、泥臭い訓練を、完全にすっ飛ばしているのです。
ゲーミフィケーションという名の“思考停止訓練”。仕事はゲームじゃない
「Z世代は集中力がない」「タイパを重視する」。こうした短絡的なステレオタイプに基づき、多くの研修が「ゲーミフィケーション」という名の媚薬を投入します。ポイント、バッジ、ランキング。学習は、まるでスマホゲームのように、短く、楽しく、刺激的でなければならない、と。
この考え方そのものが、彼らを「仕事ができない人間」へと飼い慣らすための、巧妙な罠です。
断言しますが、仕事とは、ゲームではありません。
現実のビジネスで直面する問題は、決してゲームのように、分かりやすい選択肢や、明確な攻略法が用意されているわけではありません。むしろ、終わりが見えない資料の読み込み、原因不明のエラーとの何時間にもわたる格闘、利害関係者との精神をすり減らすような交渉といった、地味で、苦痛で、忍耐力を要するタスクの連続です。
この現実から目を背けさせ、インスタントな達成感という麻薬を与え続ける。それが、ゲーミフィケーション研修の本質です。バッジをいくつか集めたところで、複雑なシステムの仕様書を100ページ読み解く読解力は、1ミリも身につきません。クイズに正解してポイントを稼いでも、本番環境で起きた障害を解決する論理的思考力と精神的な強靭さ(グリット)は、養われません。
世界経済フォーラムの「仕事の未来レポート」では、2025年以降に重要となるスキルのトップに、「分析的思考」「複雑な問題解決能力」が挙げられています。「ゲームをクリアする能力」など、どこにも書かれていません。Z世代の若者を、困難な課題から逃避させ、安易な達成感に依存する人間に育てたいのであれば、ゲーミフィケーションは最高のツールでしょう。しかし、本物のプロフェッショナルを育てたいのであれば、それがいかに有害であるかは、火を見るより明らかです。
最悪の“タイパ”。「ツールの使い方」を教えることの虚しさ
Z世代向けIT講座で、最も頻繁に行われ、そして最も無意味なのが、「特定のツールの操作方法」を教えることです。「Excel応用講座」「PowerPoint実践テクニック」「Slack活用術」。
なぜ、これが無意味なのでしょうか?答えは単純です。あなたがた教育担当者が、何時間もかけてパワポ資料を準備して教えようとしているその内容は、彼らZ世代が、YouTubeで5分間の解説動画を見れば、一瞬で理解できるからです。
彼らは、分からないツールの使い方があれば、まず公式のヘルプを読み、次に有志が作った解説動画を探し、それでも分からなければコミュニティに質問を投げる、という自己解決能力に、上の世代とは比較にならないほど長けています。その彼らに、わざわざ集合研修の形で、ツールの「What(何ができるか)」や「How(どうやるか)」を教える。これほど「タイパ」の悪い教育が、他にあるでしょうか。
企業が、研修という貴重な時間とコストをかけて、本当に教えるべきこと。それは、ツールの操作方法ではありません。それは、「Why(なぜ、そのツールを使うのか)」という、ビジネスの文脈です。
- なぜ、この膨大なデータの中から、ピボットテーブルを使って特定の数値を抽出しなければならないのか?(→その数字が、どの事業課題に結びついているのか)
- なぜ、このプロジェクトのコミュニケーションに、Slackを使い、特定のチャンネルルールを設けなければならないのか?(→情報統制と合意形成の重要性)
- なぜ、このプレゼンテーションで、PowerPointのこのグラフを使い、このメッセージを伝えなければならないのか?(→聞き手は誰で、何を意思決定させたいのか)
ツールは、あくまで課題解決のための「手段」です。目的を理解しないまま、手段の使い方だけを覚えても、それはただの「ツールオペレーター」であり、AIに真っ先に代替される存在です。あなたの会社が育てたいのは、思考停止のオペレーターですか?それとも、ビジネスの課題を自ら発見し、最適なツールを選択して、解決策を創造できる、本物のプロフェッショナルですか?
では、どうすべきか?“世代”という名の呪いを解き放て
では、Z世代の才能を本当に開花させるために、企業や教育担当者は、何をすべきなのでしょうか。答えは、「Z世代向け」というレッテル貼りを、今すぐやめることです。
人の学習スタイルやスキルギャップは、世代という雑なくくりで決まるものではなく、完全に「個人」に依存します。あなたが本当にやるべきは、一人ひとりのスキルレベルを正しく見極め、その人に合った課題と環境を与えることです。
具体的には、以下の3つを提案します。
- 徹底的な「問題解決型学習(PBL)」の導入: ツールの使い方を教える研修は、全て廃止してください。その代わりに、実際に現場で起きている、生々しいビジネス課題を、若手に丸ごと与えるのです。「来月の売上を5%向上させるための施策を、データ分析に基づいて立案し、役員に提案せよ」といった、正解のない課題です。彼らは、その課題を解決するために、必死で必要なツールを学び、データを読み解き、人と交渉するでしょう。これこそが、最も効果的な実践的教育です。
- 「リバースメンタリング」の制度化: Z世代に一方的に教えるのではなく、逆に彼らを「先生」にするのです。新しいSNSの活用法、最新の便利ツール、動画編集のコツ。彼らが持つ知見を、上の世代が謙虚に学ぶ。このプロセスを通じて、世代間の相互理解とリスペクトが生まれ、Z世代は「教える」という経験を通じて、自分の知識を体系化し、より深く理解することができます。
- 「ビジネスの原理原則」の叩き込み: 流行りのツールではなく、時代が変わっても色褪せない、普遍的なスキルを教えることに投資してください。それは、ロジカルシンキング、クリティカルシンキング、会計の基礎、契約書の読み方、そして、何よりも「プロフェッショナルとしてのコミュニケーション作法」です。これらは、彼らがキャリアを築く上での、強固な「OS」となります。
Z世代は、決して特殊な人種ではありません。彼らは、上の世代が想像もつかないほどの情報アクセス能力と、学習意欲のポテンシャルを秘めています。彼らを「Z世代」という檻に閉じ込め、子供騙しの研修を与えるのは、もうやめにしませんか。一人のプロフェッショナルとして彼らを信頼し、本物の課題を与え、そして共に悩み、考える。その覚悟こそが、次代を担う、真の才能を育てる唯一の道なのです。
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