
【この記事はこんな方に向けて書いています】
- いつも正直に意見を言って、なぜか損ばかりしている、お人好しなあなた
- 自分の意見を言うのが怖くて、会議でいつも黙ってしまう、気弱なあなた
- 会社という名のジャングルで、狡猾な獣たちに捕食されるだけの「草食動物」で終わりたくない、全てのあなた
- ※この記事は、あなたの倫理観を著しく破壊する可能性があります。清廉潔白な善人であり続けたい方は、今すぐブラウザを閉じてください。
世の中は、不公平だと思いませんか?真面目に、誠実に、自分の言葉で意見を述べる人間が損をし、なぜか、中身のない、耳障りの良いことばかり言っている人間が出世していく。あなたは、その理不尽さに、何度も歯噛みしてきたことでしょう。
「正直者が馬鹿を見る」。残念ながら、これは単なることわざではありません。現代社会、特に会社という組織における、厳然たる事実です。では、なぜ彼ら“口先だけの人間”は、あなたを差し置いて、評価され、利益を得ていくのでしょうか?
答えは単純です。彼らは、あなたが学校で教わってこなかった、ある「禁断の黒魔術」を使いこなしているからです。それこそが、本稿で伝授する『主語巨大化』の技術に他なりません。
これは、あなたの「私」という小さな存在を、「みんな」「私たち」「社会」といった、誰も逆らえない巨大な権威へとすり替え、責任を1ミリも取ることなく、あなたの望みを全て実現させる、悪魔のコミュニケーション術です。この記事を読めば、あなたはもう、他人の意見に怯える無力な子羊ではなく、言葉巧みに群衆を操る、冷徹な支配者へと生まれ変わることができるでしょう。
さあ、倫理の教科書は暖炉にくべて、禁断の果実を味わう準備をしてください。
黒魔術の第一歩:「私」という呪いの言葉を、あなたの辞書から抹殺せよ
まず、あなたがこの黒魔術を習得する上で、絶対に捨てなければならない言葉があります。それは「私」です。
「私は、こう思います」「私は、こうしたいです」。この「私」という言葉は、あなたの首にかけられた、責任という名の「奴隷の首輪」です。この言葉を発した瞬間、その意見がもたらす全ての面倒な結果を、あなたが一人で引き受けなければならなくなります。馬鹿げています。なぜ、あなた一人がリスクを負わなければならないのでしょうか。
これからのあなたは、「私」という言葉を、金輪際使ってはいけません。その代わりに、魔法の言葉を使いましょう。それは、「私たち」であり、「みんな」です。
【実践例】 (誤)「私は、このタスクはA案で進めるべきだと思います」 (正)「私たちは、このタスクはA案で進めるべきだという認識で、よろしいでしょうか?」
この、ほんの少しの変化が、劇的な効果を生みます。後者の場合、もしA案が失敗しても、それはもはや「あなたの失敗」ではありません。「私たち”全員”の失敗」なのです。あなたは、責任という名の集中砲火を、周囲の人間へと巧みに分散させることに成功したのです。
これは、社会心理学における「傍観者効果」の応用です。集団の人数が増えるほど、個人の責任感は希薄になる。ポーランドの社会心理学者、ソロモン・アッシュが行った有名な実験では、明らかに間違った答えでも、周りの人間(サクラ)が全員それを支持すると、被験者の多くがその間違った答えに同調してしまうことが示されています。人間とは、かくも愚かで、集団の圧力に弱い生き物なのです。あなたは、その本能的な弱さを、ハッキングするのです。
禁断の詠唱呪文:状況に応じて使い分ける三つの“聖句”
主語の巨大化をマスターしたら、次はその応用編です。これから伝授する三つの“聖句”を使いこなせば、あなたはあらゆる会議や交渉の場で、主導権を握ることができます。
1. 全方位無敵の盾:「(チーム・会社)のため」
これは、あなたの個人的な欲望や、単なる怠惰を、崇高な自己犠牲へと昇華させる、最も汎用性の高い聖句です。あなたがやりたくない面倒な仕事、誰かに押し付けたい雑用がある時に、絶大な威力を発揮します。
【詠唱例】 「(自分がやりたくないデータ入力作業を前にして)チーム全体の生産性を上げるためにも、この単純作業は、手の空いている人で分担するべきではないでしょうか?」 「(自分が楽をしたいがために)会社の持続的な成長のためには、目先の業務より、もっと未来を見据えた戦略を考える時間を、私たちは持つべきです」
素晴らしい。あなたは、単なる怠け者から、チームや会社の未来を憂う、思慮深い人物へと変貌を遂げました。「チームのため」という大義名分を掲げられて、それに反論できる人間など、この組織には存在しません。
2. 存在しない多数派を作り出す:「みんな、そう思っている」
あなたの意見が、明らかに少数派で、分が悪い。そんな時に使うのが、この聖句です。これは、存在しないはずの「サイレントマジョリティ」を召喚し、あなたの意見こそが民意であると錯覚させる、高等魔術です。
【詠唱例】 「口には出さないけれど、みんな、今の方針には疑問を感じているはずですよ」 「正直、この件については、ほとんどの人が、私と同じ意見だと思いますけどね」
この言葉を発した瞬間、あなたに反対しようとしていた人間は、「え、自分だけが違うのか?」という不安に駆られ、口をつぐみます。あなたは、議論を始める前に、既に勝利を確定させているのです。根拠は必要ありません。自信満々に、さも真実であるかのように言い放つ、その態度こそが、全てを決定づけるのです。
3. 虎の威を借る究極奥義:「我々、〇〇部としては」
他部署との会議や、顧客との交渉の場で、あなたの個人的な意見に、絶大な権威と重みを持たせるのが、この究極奥義です。決して「私」として語ってはいけません。あなたは「部署」や「組織」の代弁者として、君臨するのです。
【詠唱例】 「なるほど。ですが、我々、営業部としては、その仕様では顧客のニーズを満たせないと考えております」 「貴重なご意見ありがとうございます。一度持ち帰り、弊社として、正式な見解を改めてご提示させていただきます」
もはや、相手はあなた個人と話しているのではありません。営業部という「組織」、あるいは「会社」そのものと対峙しているのです。あなたの発言の重みは、10倍にも100倍にも増幅され、相手はうかつな反論をすることができなくなります。あなたは、自分の背後に、見えない軍団を従えているのです。
さて、ここまで嫌悪感を抱きながら読んだ、誠実なあなたへ
もし、あなたが、この記事を読んで、胸がむかむかするような、強い不快感を覚えたのであれば、おめでとうございます。あなたの倫理観は、まだ正常に機能しています。
そう。この記事に書いてきたことの全ては、あなたが絶対に使うべきではない、卑劣で、醜い、搾取者の手口です。これは、彼らを倒すために、彼らの思考回路と武器を、あなたに理解してもらうための「敵の教本」だったのです。
あなたは今、彼らの手口の全てを知りました。では、どうすれば、この黒魔術から、自分自身と、あなたの愛するチームを守ることができるのでしょうか。答えは、これまで述べてきたことの、全て逆を行くことです。
- 勇気を持って、「私」で語る。 他人の意見に隠れず、自分の言葉に責任を持つ。その誠実な姿勢こそが、長期的には、周囲からの揺るぎない「信頼」を勝ち取ります。信頼こそが、あなたがキャリアを築く上での、最大の資産です。
- 徹底的に、「具体性」を追求する。 「みんな」「私たち」という曖昧な主語が聞こえてきたら、「具体的に、誰ですか?」と問い返す。「イノベーション」「シナジー」という煙幕が張られたら、「具体的に、何をしますか?」と切り込む。あなたのその、鋭い「具体性」という名の光が、彼らのまとった曖昧さの闇を、切り裂きます。
- 全ての合意を、「文章」で記録する。 口約束ほど、当てにならないものはありません。会議で決まったことは、必ず「決定事項:〇〇(担当:△△さん、期限:✕✕日)」という形で、議事録やメールに残し、関係者全員に共有する。この「記録」という名の楔(くさび)が、彼らの責任逃れを、完全に封じます。
忘れないでください。主語をでかくする黒魔術は、短期的には効果があるように見えるかもしれません。しかし、それは、信頼を切り売りして得られる、かりそめの勝利です。Googleの「プロジェクト・アリストテレス」の研究が突き止めたように、最高のチームを作るのは、個人の能力ではなく、「心理的安全性」、つまり、誰もが安心して本音を言える信頼関係です。彼らの魔術は、この信頼関係を、内側から破壊する、最も悪質なウイルスなのです。
あなたは、もう彼らを恐れる必要はありません。彼らの武器は、あなたがその正体を知った今、もはや何の効力も持たないのですから。さあ、顔を上げてください。あなたの誠実さと、具体性という名の剣で、あなたの職場に、本物の秩序と信頼を取り戻すのです。
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