
【この記事はこんな方に向けて書いています】
- 派遣の「中抜き」という言葉に、なんとなくモヤモヤしている方
- 派遣で働くことに少し不安を感じている方
- 派遣の仕組みを正しく理解して、賢くキャリアを築きたい方
- 「派遣って損な働き方なの?」と疑問に思っているご家族や友人がいる方
「派遣って、派遣会社に給料をたくさん中抜きされてるんでしょ?」
一度は耳にしたことがある、この言葉。なんだか自分が損しているような、不当にお金を取られているような、そんな気持ちになりますよね。
しかし、結論から言います。派遣は『中抜き』ビジネスではありません。
この言葉が広まっているのは、派遣の料金の仕組みが少し分かりにくいから。この記事では、なぜ派遣が「中抜き」ではないのか、その理由をデータや図解を使いながら、誰にでも分かるように徹底的に解説していきます。
読み終わる頃には、「なるほど、そういうことだったのか!」と、派遣に対するイメージが180度変わり、もっと前向きに派遣という働き方を捉えられるようになっているはずです。
結論:派遣は「中抜き」ではなく、価値を提供するビジネスモデル
まず、はっきりさせておきたいのは、派遣は違法な「搾取」や、単なる「紹介」とは全く違うということです。
派遣会社は、あなた(派遣スタッフ)と派遣先企業との間に立って、双方にメリットを提供し、その対価として正当な料金を受け取っている、れっきとしたビジネスモデルなんです。
よくある誤解は、「派遣先企業が払っているお金の多くを派遣会社が持っていき、残りが自分の給料になる」というもの。これは、お金の流れの一部分しか見ていないために起こる勘違いです。
例えるなら、農家さんが作った野菜が、スーパーに並ぶまでに色々なコストがかかるのと同じです。運送費や、お店のスタッフの人件費、店舗の家賃などが野菜の価格に含まれていますよね。これを「スーパーが中抜きしている!」とは言わないはずです。
派遣もこれと全く同じ構造。派遣会社は、あなたと企業を繋ぐだけでなく、あなたの雇用主として様々な責任を負い、多くのコストを負担しています。そのコストが「マージン」と呼ばれる部分に含まれているのです。
では、その「マージン」とは一体何なのか、詳しく見ていきましょう。
派遣会社の「マージン」の正体とは?給料から天引きされてるわけじゃない!
「マージン」と聞くと、なんだか不透明で、ごっそり取られているイメージがあるかもしれません。でも、その内訳を知れば、印象はガラリと変わります。
派遣先企業が派遣会社に支払う料金を100%とした場合、その内訳は以下のようになっています。これは、業界団体である一般社団法人日本人材派遣協会のデータに基づいた、信頼できる数字です。
【図解:派遣料金(100%)の使い道】
項目 | 割合(目安) | 内容 |
派遣スタッフの賃金 | 約70% | あなたに直接支払われる給料です。 |
社会保険料 | 約10.9% | 健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険など。派遣会社があなたの雇用主として、法律に基づき負担しています。 |
有給休暇費用 | 約4.2% | あなたが有給休暇を取得した際の賃金です。働いていない日の分も、派遣会社が費用を負担してくれています。 |
会社の諸経費 | 約13.7% | 教育研修費、福利厚生費、営業担当者の人件費、オフィスの家賃、募集広告費など、あなたをサポートするための様々な費用です。 |
営業利益 | 約1.2% | これが、派遣会社の純粋な利益となります。 |
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(出典:一般社団法人 日本人材派遣協会「派遣料金の仕組みについて」などを基に作成)
どうでしょうか?
このデータを見ると、派遣先企業が支払う料金のうち、なんと約70%は、そのままあなたの給料として支払われています。
そして、残りの約30%(マージン率)のほとんどが、社会保険料や有給休暇費用、あなたをサポートするための経費として使われていることが分かります。派遣会社の純粋な利益は、わずか1.2%程度。これは、他の業界と比べても、決して高い数字ではありません。
つまり、「中抜き」されているのではなく、あなたの雇用を守り、快適に働くための環境を整えるために、マージンが使われているのです。これは、天引きではなく、あなたという人材を企業に提供するための「必要経費」なんですね。
実はこんなに手厚い!派遣会社があなたに提供している5つの価値
マージンの内訳が分かったところで、今度はもう少し具体的に、派遣会社があなたにどんな価値を提供してくれているのか、深掘りしていきましょう。普段あまり意識しないかもしれませんが、実はたくさんのメリットがあるんです。
1. 面倒な「仕事探し」と「条件交渉」を代行してくれる
もし派遣会社がなかったら、あなたは自分で求人を探し、何十社もの履歴書を書き、面接を受けなければなりません。これは、時間も労力も非常にかかります。
派遣会社は、あなたに代わって、あなたのスキルや希望に合った仕事を数多くの中から見つけ出してくれます。これは、派遣会社の営業担当者が、日々たくさんの企業を回って、「こんな人が欲しいんだけど、いませんか?」というニーズを集めてきてくれるおかげです。
さらに、給与や勤務時間といった、自分では少し言いにくい条件の交渉も代行してくれます。これは、個人では難しい、プロならではの価値と言えるでしょう。
2. フリーランスにはない「雇用の安定」を保証してくれる
派遣スタッフは、派遣会社に雇用されている「労働者」です。そのため、労働基準法によって守られています。
最も大きいのが、社会保険の存在です。個人で働くフリーランスの場合、国民健康保険や国民年金を全額自己負担で支払う必要がありますが、派遣であれば、派遣会社が半額を負担してくれます。これは、金銭的にも非常に大きなメリットです。
また、有給休暇も法律で定められた通りに取得できます。あなたが休んでいる間も給料が発生するのは、派遣会社がその費用を負担してくれているからに他なりません。
3. あなたの「キャリアアップ」を一緒に考えてくれる相談相手
多くの派遣会社では、専門のキャリアコンサルタントがいて、あなたのキャリアプランの相談に乗ってくれます。
「今のスキルで、将来どんな仕事ができるだろう?」 「もっと時給を上げるためには、どんな資格を取ればいい?」
こうした悩みをプロの視点からアドバイスしてくれるだけでなく、スキルアップのための研修制度(OAスキル、語学、ビジネスマナーなど)を無料で提供している会社も少なくありません。
これは、あなたの市場価値を高めるための「投資」であり、マージンの中から費用が賄われています。一人で悩むことなく、キャリアの専門家をパートナーにできるのは、派遣ならではの強みです。
4. 職場での「トラブル」の防波堤になってくれる
派遣先で働いていると、「契約にない仕事を頼まれた」「残業が多すぎる」「人間関係で悩んでいる」といった問題が出てくることもあります。
そんな時、直接派遣先の社員に言いにくいことでも、派遣会社の担当者に相談すれば、あなたと派遣先企業の間に入って、角が立たないように調整・交渉してくれます。
この「調整役」としての機能は、精神的な安心感に繋がります。あなたが仕事そのものに集中できる環境を守るための、重要な役割を担っているのです。
5. 給与の「未払いリスク」を肩代わりしてくれる
万が一、派遣先の会社の経営が悪化してしまったら…?
直接雇用であれば、給与の支払いが遅れたり、最悪の場合、支払われなかったりするリスクがあります。
しかし、派遣の場合は心配ありません。あなたの雇用主はあくまで派遣会社です。たとえ派遣先の経営が傾いたとしても、派遣会社があなたへの給与支払いの責任を負っているため、給料が支払われないという事態にはなりません。このセーフティーネットとしての役割も、派遣会社の大きな価値の一つです。
なぜ「中抜き」と誤解されやすいのか?その背景を考えてみた
これだけの価値を提供しているにもかかわらず、なぜ「中抜き」というネガティブな言葉が広まってしまったのでしょうか。それには、いくつかの理由が考えられます。
一つは、やはりお金の流れがブラックボックスに見えやすいこと。派遣スタッフは、派遣先企業がいくら派遣会社に支払っているのかを直接知る機会が少ないため、「自分の給料との差額が、すべて派遣会社の利益になっている」という誤解が生まれやすいのです。
また、商社や不動産仲介業など、同じように「間に立つ」ビジネスは他にもたくさんあります。例えば、海外から商品を輸入して国内で販売する商社は、仕入れ値に利益や経費を上乗せして販売します。家を借りる時には、不動産会社に仲介手数料を支払いますよね。
これらはすべて、専門的な知識やネットワーク、リスク負担といった「価値」を提供している対価です。派遣も構造的には全く同じなのですが、「人の労働」が介在するため、感情的に「搾取されている」と感じられやすいのかもしれません。
しかし、ここまで見てきたように、その内実は極めて合理的で、労働者を守るための仕組みに支えられたビジネスモデルなのです。
まとめ:派遣はあなたのキャリアを支える賢い選択肢
今回は、「派遣は中抜き」という意見に対して、データと仕組みの面から「そうではない」ということを解説してきました。
ポイントをもう一度おさらいしましょう。
- 派遣は「中抜き」ではなく、派遣会社が雇用主として様々なコストを負担し、価値を提供するビジネスモデルである。
- 派遣料金の約30%を占める「マージン」のほとんどは、社会保険料、有給休暇費用、あなたをサポートするための経費に使われている。
- 派遣会社は、仕事探し、雇用の安定、キャリア支援、トラブル対応など、個人では得難い多くのメリットを提供してくれる、頼れるパートナーである。
もちろん、派遣という働き方が誰にとっても完璧なわけではありません。しかし、「中抜き」という一面的な言葉だけで、その可能性を閉ざしてしまうのは、非常にもったいないことです。
派遣の仕組みを正しく理解すれば、それはあなたのキャリアを豊かにするための、非常に強力で賢い選択肢の一つになります。この記事が、あなたの派遣に対する見方を少しでも変えるきっかけになれば、とても嬉しいです。
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