
【この記事はこんな方に向けて書いています】
- 「データベースからデータを抽出して」と言われ、何をどうすればいいのか途方に暮れた方
- マーケターや営業企画として、データに基づいた「根拠のある提案」をしたいと思っている方
- Excelでのデータ集計に限界を感じ、次のステップに進みたいと考えている方
- プログラミングとSQLの違いが、いまいちピンときていない方
- データサイエンティストやデータアナリストという職業に、少しだけ憧れている方
前回の記事で、私たちは「データベース」が、膨大な量の情報を安全かつ高速に管理する「巨大な図書館」であり、その中には「凄腕の司書(DBMS)」がいることを学びました。
さあ、あなたの目の前には、世界中の知識が詰まった、壮大な図書館が広がっています。企業の売上データ、顧客の行動履歴、Webサイトのアクセスログ…まさに、ビジネスの未来を左右する「宝の山」です。 しかし、ここで一つ、大きな問題が立ちはだかります。
「この宝の山から、どうやって、自分が必要な情報だけを、ピンポイントで取り出せばいいんだ…?」
あなたは、図書館のカウンターに立つ、あの「凄腕の司書」に話しかけなければなりません。 しかし、この司書は、私たちが普段話す日本語や英語を理解してはくれません。彼は、彼専用の、非常に厳格で、論理的な「特殊な言語」で話しかけない限り、指一本動かしてはくれないのです。
その、巨大な図書館の司書と対話し、膨大な蔵書の中から望む一冊を、一瞬で探し出してもらうための、唯一無二の魔法の呪文。 それこそが、今回ご紹介する「SQL(エスキューエル)」なのです。
結論:SQLとは、巨大な図書館の「司書」と話すための専門言語
まず、結論からお伝えします。 SQLとは「Structured Query Language」の略です。日本語に訳すと「構造化された(Structured)問い合わせ(Query)言語(Language)」となります。
これを、私たちの「図書館」の例えに当てはめると、 SQL = 図書館の司書(DBMS)とコミュニケーションを取るための、専用の「リクエスト様式(言語)」 ということになります。
例えば、あなたが「最近人気の、夏目漱石の本を探してください」と、曖昧な口頭で司書にお願いしたとします。司書は困ってしまいますよね。「『人気』とは、貸出回数のことですか?」「『最近』とは、いつからいつまでの期間ですか?」と。
司書とスムーズに会話するためには、図書館が定めた正式なリクエスト様式に、正確に記入して提出する必要があります。
- 【書籍検索依頼書】
- 検索対象棚(テーブル名):文芸書
- 抽出項目(カラム名):書籍タイトル
- 検索条件(WHERE句):著者名が「夏目漱石」であること
- 並び順(ORDER BY句):貸出回数の多い順に
このように、「どの棚(テーブル)から」「どの項目(カラム)を」「どんな条件で」探し、「どんな順番で」並べて欲しいのかを、決められた書式(文法)に従って、正確に伝える。 このリクエスト様式そのものが、SQLなのです。 SQLは、データベースに行動を「命令」するための、世界共通のコミュニケーション言語なのです。
たった4つの呪文でOK!SQLの基本命令「CRUD」
「なんだか、やっぱり難しそう…」と感じましたか? 大丈夫です。SQLで行う操作の99%は、実はたった4種類の基本命令に集約されます。 その頭文字を取って「CRUD(クラッド)」と呼ばれており、これさえ理解すれば、あなたも今日から「司書」と基本的な会話ができるようになります。
1. CREATE(作る) → INSERT文
図書館に、新しい本を登録する作業です。 「この『新しい本』という名前で、『新しい著者』が書いた本を、書籍棚に登録(INSERT)してください」と、司書にお願いします。
SQL
INSERT INTO 書籍テーブル (書籍名, 著者名) VALUES ('こころ', '夏目漱石');
2. READ(読む) → SELECT文
これが、SQLの中で最もよく使われる、最重要の命令です。 図書館から、条件に合う本を探し出して、そのリストを見せてもらう作業です。 「書籍棚から(FROM)、著者が『夏目漱石』である本の(WHERE)、書籍名を選んで(SELECT)見せてください」と、司書にお願いします。
SQL
SELECT 書籍名 FROM 書籍テーブル WHERE 著者名 = '夏目漱石';
3. UPDATE(更新する) → UPDATE文
登録されている本の情報を、新しい情報に書き換える作業です。 「書籍棚にある、『書籍IDが123番』の本の、状態を『貸出中』に更新(UPDATE)してください」と、司書にお願いします。
SQL
UPDATE 書籍テーブル SET 状態 = '貸出中' WHERE 書籍ID = 123;
4. DELETE(削除する) → DELETE文
図書館から、不要になった本を廃棄する作業です。 「書籍棚から(FROM)、『書籍IDが456番』の本を削除(DELETE)してください」と、司書にお願いします。
SQL
DELETE FROM 書籍テーブル WHERE 書籍ID = 456;
どうでしょう? CREATE, READ, UPDATE, DELETE。 この4つの基本操作さえ理解すれば、データベースの基本的な操作はすべて可能になります。思ったよりも、ずっとシンプルだと思いませんか?
なぜExcelのフィルター機能じゃダメなの?SQLが最強である理由
「待ってくれ。データを探すだけなら、Excelのフィルター機能でもできるじゃないか」 その通りです。しかし、SQLとデータベースの組み合わせは、Excelが束になっても敵わない、圧倒的なパワーを秘めています。
理由①:複数の表を組み合わせた、複雑な検索が超得意
Excelは、一枚のシート(テーブル)の中からデータを探すのは得意です。 しかし、SQLの真骨頂は「JOIN(ジョイン)」という、複数のテーブルを自由自在に連結して、そこからデータを取り出す能力にあります。
図書館の例で言えば、 「『顧客名簿』テーブルと、『貸出履歴』テーブルを連結(JOIN)して、『東京都在住で、かつ、過去一ヶ月間にSF小説を借りたことがある人』のリストをください」 といった、複数の条件を組み合わせた複雑なリクエストにも、SQLは一瞬で応えてくれます。これは、Excelでは非常に手間がかかる、あるいは不可能な芸当です。
理由②:数百万、数億件のデータでも、速度が落ちない
数万行のデータが入ったExcelファイルを開くだけで、パソコンが唸りを上げた経験はありませんか? データベースは、数百万、数億、数十億というレコードの中からでも、最適化された検索アルゴリズム(索引)を駆使して、驚くほどの速さで結果を返してくれます。これは、もはや次元の違うパフォーマンスです。
理由③:誰でも、いつでも、同じ結果を再現できる
あなたがExcelで複雑なフィルターやピボットテーブルを駆使して作り上げたレポート。その手順を、明日、もう一度ゼロから再現できますか? 他の人に、口頭で正確に伝えられますか?
SQLで書かれたリクエスト(クエリ)は、ただのテキストファイルです。 つまり、一度書いたSQL文は、保存して、共有して、誰が、いつ実行しても、全く同じ結果を100%再現できます。さらに、その実行を自動化(バッチ処理)することも簡単です。この「再現性」と「自動化」こそが、ビジネスの現場でSQLが絶対的に信頼されている理由なのです。
SQLはプログラマーだけの武器じゃない!データ時代の「共通言語」
SQLの活躍の場は、エンジニアの世界だけにとどまりません。 むしろ、これからのデータ時代においては、あらゆる職種のビジネスパーソンにとって、最強の武器となり得ます。 実際に、データ分析系の職種では、SQLのスキルはもはや「必須」と言っても過言ではありません。求人情報サイトで「データアナリスト」と検索すれば、そのほとんどでSQLが必須スキルとして挙げられていることがわかるでしょう。
- マーケターなら… 「先月、特定の広告キャンペーン経由で会員登録し、かつ、30日以内に商品を購入したユーザーのリストをください」という問いに、SQLは即座に答えてくれます。
- 営業企画なら… 「過去3年間で、関東エリアにおける、商品カテゴリー別の売上トップ10の推移を見せてください」という分析も、SQLを使えば数分で可能です。
- 経営企画なら… 「どの年代の顧客が、最もリピート購入率が高いのか?」といった、事業の根幹に関わる問いに対する、客観的なデータ(ファクト)を提供してくれます。
プログラミング言語のように複雑なロジックを組む必要はなく、比較的シンプルな文法で、データという「事実」に直接アクセスできる。SQLは、職種を問わず、すべてのビジネスパーソンが身につけるべき「データとの対話術」なのです。
まとめ:SQLを学べば、データという名の「宝の山」が見えてくる
今回は、データベースと会話するための魔法の呪文、「SQL」の世界を、巨大な図書館の「司書へのリクエスト様式」に例えて旅してきました。
- SQLは、データベース(図書館)にいる司書(DBMS)と対話するための、世界共通の専門言語。
- 基本は「CREATE, READ, UPDATE, DELETE」の4つの操作(CRUD)で成り立っている。
- Excelには真似できない、複雑な検索、圧倒的な速度、そして再現性を誇る。
- もはやエンジニアだけでなく、すべてのビジネスパーソンにとっての必須教養となりつつある。
データベースという図書館に、どれだけ貴重な蔵書(データ)が眠っていても、司書と会話する言葉(SQL)を知らなければ、それはあなたにとって存在しないのと同じです。 しかし、ひとたびSQLという魔法の呪文を覚えれば、あなたは、データという名の広大な宝の山に自由にアクセスし、ビジネスを勝利に導くための、価値ある洞察(インサイト)を、自らの手で掘り出すことができるようになります。
SQLを学ぶことは、新しい言語を習得することではありません。 それは、事実(ファクト)に基づいて考え、行動するための、新しい「思考のOS」を手に入れることなのです。
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