「とりあえず顔合わせで」が“できる人”に絶対通用しない理由

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【この記事はこんな方に向けて書いています】

  • 新規開拓の営業で、なかなかアポイントが取れずに悩んでいる若手営業の方
  • 「まずは会うことが大事」と教わってきたが、そのやり方に疑問を感じている方
  • 質の高い商談を増やし、トップセールスへと駆け上がりたいと考えている方
  • 相手の時間を奪うだけの「御用聞き営業」から、価値を提供する「提案型営業」へ進化したい方

「〇〇と申します。弊社のサービスについて、一度ご挨拶だけでもと思いまして。来週あたり、とりあえず30分ほどお時間をいただけませんでしょうか?

この、あまりにも聞き慣れた営業のアプローチ。あなたも、良かれと思って使ってはいませんか? しかし、この言葉を聞いた瞬間、多忙なビジネスパーソン、特に決裁権を持つ「できる人」の心の中では、静かに、しかし確実に、あなたへの評価が下がり、電話やメールを閉じる準備が始まっているとしたら…。

これは、決して大げさな話ではありません。 なぜなら、「とりあえず顔合わせで」という一見丁寧な依頼は、相手の視点に立つと、極めて非効率で、無礼で、そして何より価値のない「時間泥棒」の提案に他ならないからです。

この記事では、なぜその旧時代的なアプローチが、現代のビジネスシーンで全く通用しないのか、その構造的な問題をコンサルタントの視点で徹底的に解剖します。そして、あなたの営業活動を「とりあえず」のレベルから、相手が「ぜひ会いたい」と前のめりになる**「仮説提案型」**へと進化させるための、具体的で論理的なフレームワークを提示します。

なぜそのアポイントは、99%無駄に終わるのか?顧客が犯される「3つの大罪」

「とりあえず顔合わせ」を依頼することが、なぜそこまで問題なのでしょうか。それは、あなたが無意識のうちに、相手に対して以下の**「3つの大罪」**を犯しているからです。

大罪1:顧客の「時間」を奪う罪

ビジネスパーソンにとって、特に役職が上がるほど、「時間」は最も希少で、最も高価な資源です。あなたの「とりあえず」の30分は、彼らにとって決して「タダ」ではありません。

【役職別・1時間の機会損失コスト(試算)】

役職年収(例)1時間あたりの人件費コスト(概算)
一般社員500万円約3,000円
課長クラス800万円約5,000円
部長クラス1,200万円約7,500円
役員クラス2,000万円約12,500円

※年間労働時間を1,600時間、社会保険料などの会社負担分を給与の1.5倍として試算

あなたが部長クラスの相手に「とりあえず」のアポイントを依頼することは、「約7,500円分の経営資源を、特に明確なリターンを約束せずに、私に投資してください」と言っているのと同じなのです。ある調査では、企業のマネージャーは1日に100通以上のメールを受け取ると言われています。彼らが、この無数の情報の中から、リターンの見えない投資案件(あなたのアポイント)を、一体なぜ選ぶ必要があるのでしょうか。

大罪2:プロ意識を欠く罪

「とりあえず顔合わせで」という言葉の裏側には、「あなたの会社のことをまだ何も調べていません。あなたのビジネスの課題も分かりません。だから、私に勉強させてください」という、甘えの構造が透けて見えます。

例えるなら、これは「患者のカルテも読まずに、『とりあえず診察室に来てください。来てから、どこが悪いか教えてください』と言っている医者」のようなものです。プロフェッショナルとして、本来営業側が事前に済ませておくべき「仮説構築」という努力を放棄し、その負担を顧客に押し付けているのです。

できるビジネスパーソンほど、相手がどれだけ準備をしてきたかを瞬時に見抜きます。準備不足は、相手への敬意の欠如と見なされ、その時点で、あなたはビジネスパートナーの候補から外されてしまいます。

大罪3:価値を提供しない罪

これが最も本質的な問題です。その「顔合わせ」の30分間で、相手は一体何を得られるのでしょうか? あなたの会社のパンフレットに書いてあるような自己紹介を聞かされるだけだとしたら、それは相手にとって、ウェブサイトを3分間見れば済む話です。

あなたにとっては、「アポイント獲得」というKPIを達成できる、価値ある30分かもしれません。しかし、相手にとっては、自分たちの課題解決に一歩も近づかない、全く価値のない30分です。 この価値の非対称性に気づかず、自分の都合だけで相手の時間を要求する行為は、ビジネスにおいて最も避けられるべき、一方的なコミュニケーションなのです。

「会うのが目的」から「課題解決が目的」へ。仮説提案型アプローチとは

では、どうすれば相手の心を動かし、「ぜひ会いたい」と思わせることができるのでしょうか。 その答えが、「仮説提案型アプローチ」です。これは、あなたが医者として、事前に公開情報(決算資料、プレスリリース、中期経営計画、業界ニュースなど)というカルテを読み込み、「御社は、もしかして〇〇という課題(病)を抱えていませんか?」という仮説を立ててから、アプローチする手法です。

このアプローチは、以下の3つのステップで構成されます。

  1. 徹底的なリサーチと仮説構築: 相手企業の公開情報を徹底的に読み込み、「彼らが今、何に困っているか」について、自分なりの仮説を立てる。
  2. 価値(Value)の提示: その仮説に基づき、「もし、この課題を解決できれば、御社には〇〇というメリットがあります。弊社のサービスは、その解決に貢献できます」という価値を提示する。
  3. 具体的な議題(Agenda)の設定: 「その具体的な解決策について、〇〇業界の成功事例を交えながら、30分でご提案させていただけますでしょうか」と、相手にとって有益な情報が得られることを約束した、明確な議題を設定する。

【アプローチのBefore / After】

旧来のアプローチ(とりあえず顔合わせ)仮説提案型アプローチ
件名株式会社〇〇・△△よりご挨拶【〇〇業界の事例共有】貴社の「△△」という課題解決のご提案
冒頭突然のご連絡失礼いたします。私、株式会社〇〇の△△と申します。弊社のサービスについて、一度ご挨拶をさせて頂きたく…いつも貴社のプレスリリースを拝見しております。特に、中期経営計画における「〇〇分野への進出」という戦略に感銘を受けました。
本題つきましては、来週あたり、30分ほどお時間を頂戴し、弊社のサービス概要をご説明させていただけますでしょうか。その戦略推進にあたり、多くの企業様が直面する「△△」という課題に対し、弊社は〇〇業界のA社様において、□□という手法でコストを30%削減した実績がございます。
依頼ご多忙の折とは存じますが、ご検討のほど、よろしくお願い申し上げます。つきましては、A社様の事例を基にした、貴社向けの具体的な課題解決策について、来週30分ほどお時間を頂き、ご提案させて頂けないでしょうか。


後者の提案であれば、相手は「ただの売り込み」ではなく、「自社の課題解決に繋がるかもしれない、有益な情報交換の場」として、あなたとの面談を前向きに検討するでしょう。

明日からあなたのアポイントが変わる、具体的なアクションプラン

この「仮説提案型アプローチ」を、明日から実践するための、具体的な準備リストです。アポイントを依頼する前に、必ず以下の項目をチェックしてください。

  1. 【リサーチ】 相手企業のウェブサイト、最新の決算資料、プレスリリースに目を通したか?
  2. 【仮説構築】 その情報から、相手が抱えていそうな経営上・事業上の課題を、一言で表現できるか?(例:「新規顧客の獲得に苦戦しているのではないか」)
  3. 【価値提示】 自社のサービスが、その課題を解決することで、相手にどんなメリット(売上向上、コスト削減など)をもたらせるかを、数字で示せるか?
  4. 【議題設定】 30分の面談で、相手が「聞いてよかった」と思える、具体的な情報(事例、データ、解決策のヒント)を提供できる準備はできているか?

この4つの問いに、すべて自信を持って「YES」と答えられるのであれば、あなたのアポイント依頼の成功率は、劇的に向上するはずです。

最後に:あなたは、時間泥棒か、価値提供者か

「とりあえず顔合わせで」という言葉は、思考を巡らせることをやめ、準備という努力を放棄した、営業側の都合でしかありません。それは、相手の貴重な時間を奪う「時間泥棒」の所業です。

これからの時代に求められる営業とは、単なる「プロダクトの売り手」ではありません。顧客がまだ気づいていない課題を提示し、その解決への道筋を共に照らす、信頼される「ビジネスパートナー」です。

そして、そのパートナーシップの第一歩は、あなたが相手に送る、たった一通のメール、一本の電話から始まります。 その最初の一手が、相手の時間を奪うだけのノイズで終わるのか、それとも、相手の未来を拓くための、価値あるシグナルとなるのか。 その選択権は、あなたの手の中にあります。


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