クライアントの「すごいWebサイト作って」は罠?!本当の課題を引き出し、信頼されるパートナーになる思考術

この記事は約8分で読めます。

【この記事はこんな方に向けて書いています】

  • クライアントの要望通りに作ったのに、なぜか満足度が低い経験がある方
  • 「本当はもっと良い方法があるのに…」と思いつつ、意見を言えずにいる方
  • 単なる「御用聞き」「作業者」から、頼られる「ビジネスパートナー」へとステップアップしたい方
  • Webデザイナー、ディレクター、マーケター、コンサルタントなど、クライアントワークに携わる全ての方
  • 上流工程に関わり、プロジェクトの成功確率を本質的に高めたい方

「とにかく、かっこよくて、すごいWebサイトを作ってください!」

クライアントから、こんな風に依頼された経験はありませんか? あなたは、持てる技術とセンスを総動員して、言われた通り、いや、それ以上にかっこいいWebサイトを納品した。クライアントも、その場では「おお、すごい!」と喜んでくれた。

しかし、数ヶ月後。 そのWebサイトからのお問い合わせは一向に増えず、売上も変わらない。結果として、クライアントの満足度は徐々に下がり、次の契約には繋がらなかった…。

これは、クライアントワークに携わる多くの人が一度は経験する、苦い現実ではないでしょうか。 この問題の根っこにあるのは、クライアントの「作ってほしいもの(Want)」と、事業を成功させるために本当に「作るべきもの(Need)」の間に、大きなギャップが存在する、という事実です。

この記事では、なぜこのギャップが生まれてしまうのか、その根本原因を解き明かします。そして、単なる「御用聞き」で終わるのではなく、クライアントの真の課題を引き出し、最適な解決策を提案することで、唯一無二の「信頼されるパートナー」になるための、具体的な思考法とコミュニケーション術を徹底解説していきます。

この記事を読み終える頃には、あなたはクライアントの言葉の裏にある本質的なニーズを掴み、自信を持ってより良い提案ができるようになっているはずです。


なぜクライアントの「Want」と、本来の「Need」は食い違うのか?

まず、大前提として、これはクライアントが悪いわけではありません。むしろ、このギャップが生まれるのには、構造的な理由があるのです。

理由1:クライアントは「自分の事業」のプロ。でも「あなたの専門分野」のプロではない

クライアントは、自身の業界や商品、顧客については誰よりも詳しい専門家です。しかし、Webデザインやマーケティング、システム開発といった、あなたの専門分野については、必ずしも詳しいわけではありません。

そのため、「売上を上げたい(本来のNeed)」という課題に対して、自身の限られた知識の中から、「イケてるWebサイトがあれば、売上が上がるに違いない」という、安易な「解決策(Want)」に飛びついてしまうのです。 これは、体調が悪い時に、自己判断で「とりあえず風邪薬を飲んでおこう」と考えるのに似ています。本当の原因は別のところにあるかもしれないのに、手っ取り早い解決策に頼ってしまうのです。

理由2:「誰かが言っていたから」という、ふんわりした要望

「社長が、競合のA社のサイトみたいにしろと言っていて…」 「最近、動画が流行っているらしいから、うちも動画を作りたい」

このように、クライアントの要望が、社内の鶴の一声や、世の中のトレンドといった、深く分析されていない情報に基づいているケースは非常に多いです。 この場合、クライアント自身も「なぜそれが必要なのか」を深く理解していないため、言われた通りに作っても、ビジネス上の成果には結びつきにくいのです。

理由3:プロジェクト失敗の根本原因は「要件の曖昧さ」にある

これは、データも示している事実です。プロジェクトマネジメントの世界では、プロジェクトが失敗する最大の原因の一つが「要件定義の曖昧さ」であると長年言われ続けています。 例えば、ITプロジェクトに関する調査を行うStandish Groupの「CHAOSレポート」では、プロジェクトが成功するための重要な要因として、常に「明確なビジネス目標」や「ユーザーの参画」が上位に挙げられています。

つまり、「すごいWebサイトを作って」という曖昧な要望のままプロジェクトを進めることは、統計的に見ても、失敗への道を突き進んでいることに他ならないのです。 私たちの仕事は、この曖昧な「Want」を、成功に繋がる明確な「Need」へと翻訳することから始まります。


「御用聞き」を卒業!クライアントを導くための4ステップ実践ガイド

では、具体的にどうすれば、クライアントの要望の裏にある「本当の課題」を引き出し、より良い提案に繋げることができるのでしょうか。ここでは、明日から使える4つのステップを紹介します。

ステップ1:徹底的に「聞く」。「Why」を5回繰り返し、本当の目的を探る

クライアントが「〇〇を作ってほしい」と言ってきた時、すぐに「分かりました!」と答えてはいけません。あなたの仕事は、まず優秀なインタビュアーになることです。

ここで有効なのが、トヨタ生産方式で有名な「なぜなぜ5回」というフレームワークです。

クライアント:「かっこいいWebサイトを作りたいんです」
あなた:「承知しました。なぜ、かっこいいWebサイトが必要だとお考えですか?」

クライアント:「うーん、会社のイメージを良くしたいんですよね」
あなた:「なるほど、イメージアップですね。なぜ、今、会社のイメージを良くする必要があるのでしょうか?」

クライアント:「実は、採用活動で苦戦していて。学生からの応募が少ないんです」
あなた:「採用ですか!なぜ、応募が少ない原因が、Webサイトのイメージにあるとお考えですか?」

クライアント:「説明会で、学生から『Webサイトが古くて、事業内容がよく分からなかった』という声があったんです」
あなた:「そういうことだったのですね。では、なぜ事業内容が分かりにくい状態になっているのでしょうか?」

クライアント:「確かに…。今のサイトは、我々が提供しているサービスの価値や、働くことの魅力が全然伝わっていない構成になっていますね」

いかがでしょうか。 最初の「かっこいいサイトが欲しい」という要望(Want)が、5回の「なぜ」を繰り返すことで、「採用候補者に、サービスの価値と働く魅力を伝え、応募数を増やしたい(本当のNeed)」という、具体的で本質的な目的にたどり着きました。 ここまで掘り下げられて初めて、本当に作るべきものの姿が見えてきます。

ステップ2:「構造化」して、課題の全体像を「見える化」する

本当の目的が見えたら、次にその課題を構造化し、クライアントと「問題の地図」を共有します。

  • あるべき姿(To Be):採用候補者がサイトを見て魅力を感じ、月30件の応募がある状態。
  • 現状(As Is):サイトが古く分かりにくく、月の応募が5件しかない状態。
  • 問題(Problem):このギャップを生んでいる原因は何か?
    • サービスの価値が伝わらないコンテンツ
    • 社員の魅力が伝わらないコンテンツ
    • そもそもサイトへのアクセス数が少ない
    • 応募フォームが使いにくい

このように、漠然とした問題を具体的な要素に分解・整理することで、クライアントも「なるほど、問題はデザインのかっこよさだけじゃなくて、コンテンツや集客にもあるんだな」と、冷静に全体像を把握することができます。

ステップ3:「複数の選択肢」を提示し、クライアントに選ばせる

課題が明確になったら、いよいよ解決策の提案です。ここで重要なのは、いきなり自分の考え(正論)だけをぶつけないことです。

  • A案(クライアントの初期要望に近い案):Webサイトを全面的にリニューアルする。
    • メリット:デザインが一新され、企業のイメージが向上する。
    • デメリット:コストと時間がかかる。コンテンツが伴わないと効果は薄い。
    • 想定コスト:300万円
    • 期待される効果:イメージ向上による応募意欲の微増
  • B案(あなたの最適だと思う案):既存サイトの改修+コンテンツ強化+Web広告
    • メリット:低コストかつ短期間で、課題に直接アプローチできる。効果測定がしやすい。
    • デメリット:デザインの抜本的な変更はできない。
    • 想定コスト:150万円
    • 期待される効果:応募数2倍以上

このように、複数の選択肢を、メリット・デメリット、コスト、期待効果と共に提示するのです。 これにより、あなたはクライアントの意見を尊重しつつ、より専門的な視点から最適な道を照らしだすことができます。クライアントは「自分の意見を無視された」と感じることなく、主体的に、そして納得感を持って、より良い選択をすることができるのです。

ステップ4:「成果」を約束し、「パートナー」として伴走する

最終的に提案を通すためには、「これを作れば、こんなに良いことがあります」という未来を、具体的に見せてあげることが重要です。 「B案を採用いただければ、まず社員インタビューのコンテンツを作成し、それを元に採用ターゲットに響くWeb広告を運用します。3ヶ月後には、応募数を現在の3倍である月15件にすることを目指しましょう。」 このように、具体的なアクションプランと、測定可能な目標(KPI)をセットで提示することで、提案の説得力は飛躍的に高まります。

そして、「作りっぱなし」ではなく、「一緒にこの目標を追いかけましょう」という姿勢を見せること。これにより、あなたは単なる「業者」から、クライアントの事業成功にコミットする、かけがえのない「パートナー」へと昇華できるのです。


まとめ:「御用聞き」から、クライアントの未来を創る「パートナー」へ

クライアントの「作ってほしいもの」と、本当に「作るべきもの」が違う。この問題は、クライアントワークにおける永遠のテーマかもしれません。

しかし、このギャップは、あなたが単なる作業者で終わるか、それとも信頼されるプロフェッショナルになれるかの、大きな分かれ道でもあります。

  • クライアントの言葉を鵜呑みにせず、「なぜ?」を繰り返して本当の目的を探る。
  • 課題を構造化し、問題の地図を共有する。
  • 複数の選択肢を提示し、クライアント自身に納得して選んでもらう。
  • 成果を約束し、その達成まで一緒に走り抜ける。

これらのステップは、一見、遠回りに見えるかもしれません。しかし、この丁寧なコミュニケーションこそが、プロジェクトを成功に導き、クライアントとの長期的な信頼関係を築くための、唯一にして最短の道なのです。

私たちの本当の仕事は、言われたものを作ることではありません。クライアント自身も気づいていない課題を発見し、その未来をより良い方向へと導くこと。その意識を持った時、あなたの仕事はもっとクリエイティブで、やりがいに満ちたものになるはずです。

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