
【この記事はこんな方に向けて書いています】
- SaaSや毎月課金など、サブスクリプション型のサービスを提供している経営者さま
- 顧客の解約率(チャーンレート)の高さが、事業成長の足かせになっていると感じる責任者さま
- 顧客満足度をもっと高めて、LTV(顧客生涯価値)を向上させたいと考えている方
- 「カスタマーサポート」と「カスタマーサクセス」の違いが、実はよく分かっていない方
- 「売って終わり」のビジネスモデルから脱却し、顧客と共に成長していきたいと本気で願う方
せっかく多大なコストと労力をかけて新しいお客様を獲得しても、数ヶ月後には次々と解約されてしまう…。まるで、穴の開いたバケツに必死で水を注ぎ続けているような、そんな徒労感を覚えていませんか?特にSaaSやサブスクリプション型のビジネスにおいて、この「顧客の解約(チャーン)」は、事業の成長を蝕む最も深刻な問題です。 今回ご紹介するプロジェクト管理ツールを提供するA社も、かつては高い解約率に苦しんでいました。しかし、「カスタマーサクセス」という新しい考え方を導入したことで、わずか1年で解約率を半減させ、安定した収益基盤を築くことに成功したのです。この記事では、守りの「サポート」から攻めの「サクセス」へと転換し、顧客からの「ありがとう」を劇的に増やしたA社の舞台裏を、余すところなくお伝えします。
そのバケツ、穴が開いていませんか?新規顧客獲得の裏で起きていること
サブスクリプションビジネスは、よく「バケツ」に例えられます。 マーケティング部門や営業部門が、一生懸命バケツに水(=新規顧客)を注ぎ込む。しかし、そのバケツの底に穴(=解約)が開いていたらどうなるでしょうか?いくら水を注いでも、水はどんどん流れ出てしまい、バケツの水位(=売上)は一向に上がりません。
ビジネスの世界には「1:5の法則」という有名な法則があります。これは、「新規顧客を獲得するコストは、既存顧客を維持するコストの5倍かかる」というものです。 つまり、バケツの穴を塞ぐ(=解約率を下げる)努力は、新しい水を注ぐ努力の5倍も効率が良い、と言えるのです。
それなのに、多くの企業が、穴の存在に気づきながらも、より多くの水を注ぐこと(=新規顧客獲得)ばかりに目を向けてしまっています。その結果、獲得と解約のいたちごっこが続き、事業はいつまで経っても安定しないのです。
「使い方が分からない…」静かな解約が止まらなかったA社の苦悩
ここで、今回の主役であるA社の話をご紹介します。 A社は、中小企業向けに高機能なプロジェクト管理ツールをSaaS形式で提供していました。製品には自信があり、新規契約も順調に伸びていました。しかし、その裏側で、経営陣は深刻な問題に頭を抱えていました。
【カスタマーサクセス導入前のA社の課題】
- 危険水域の高い解約率: 月次の解約率(チャーンレート)は4.8%。これは、1年間で顧客の半分以上が入れ替わってしまう計算です。売上は伸びているように見えて、その実態は自転車操業そのものでした。
- 受け身で疲弊するサポート体制: カスタマーサポート部門はありましたが、その役割は顧客から問い合わせが来て初めて動く、完全に「受け身」のスタイルでした。「ログインできません」「このバグ、いつ直りますか?」といったクレーム対応に追われ、スタッフは常に疲弊していました。
- 価値を実感する前の離脱: 契約直後のお客様が、多機能であるがゆえのツールの初期設定や操作方法でつまずき、本来の価値を実感する前に「なんだか難しくて使えないや」と、利用を諦めてしまうケースが非常に多かったのです。
- 声なき解約者たち: 何より問題だったのは、ほとんどのお客様が、何の不満も言わずに静かにサービスを解約していくことでした。A社は、なぜお客様が去ってしまったのか、その本当の理由を掴めていませんでした。
このままでは、いずれ事業は立ち行かなくなる。強い危機感を抱いたA社は、顧客との向き合い方を根本から見直す決断を下します。
カスタマーサポートとの決定的な違い。「攻め」の顧客支援とは?
A社が新たに取り入れたのが、「カスタマーサクセス」という考え方でした。 これは、従来の「カスタマーサポート」とは似て非なる、全く新しい概念です。
「カスタマーサポート」の役割が、お客様が抱える問題を解決する「守り(受動的)」の活動だとすれば、「カスタマーサクセス」の役割は、お客様がビジネスで成功するために、先回りして支援する「攻め(能動的)」の活動です。
両者の違いを、下の表で見てみましょう。
項目 | カスタマーサポート(守りの姿勢) | カスタマーサクセス(攻めの姿勢) |
ミッション | 問題解決(マイナスをゼロに戻す) | 成功支援(ゼロをプラスに導く) |
アプローチ | 受動的(問い合わせを待つ) | 能動的(課題を予測し、働きかける) |
主なKPI | 応答時間、解決率、顧客満足度 | 解約率、LTV、活用度(オンボーディング完了率など) |
目指すゴール | お客様が「満足」すること | お客様が「成功」すること |
Google スプレッドシートにエクスポート
つまり、カスタマーサクセスが目指すのは、「お客様が、A社のツールを使って、プロジェクトを成功させる」という、お客様自身のビジネスゴールを達成させることです。 お客様が成功すれば、A社のツールを使い続けるのは当然ですし、もっと便利な上位プランにアップグレードしてくれるかもしれません。お客様の成功が、結果として自社の成功(=売上拡大、LTV向上)に繋がる。このWin-Winの関係を能動的に築き上げていくのが、カスタマーサクセスの本質です。
解約率半減を実現した、A社のカスタマーサクセス3つの打ち手
A社は、新たに「カスタマーサクセス部」を立ち上げ、具体的なアクションを開始しました。彼らが実践した、解約率を劇的に改善させた3つの打ち手をご紹介します。
打ち手1:【導入期】最初の90日間に全集中!「成功体験」を最速で届ける
A社は、解約するお客様のデータを分析し、「契約後3ヶ月(90日)以内にツールの活用が進まなかったお客様の解約率が、突出して高い」という事実を発見しました。 そこで、この「魔の90日間」を乗り越えさせるための「オンボーディング(導入支援)プログラム」をスタートさせました。
- キックオフミーティングの実施: 契約後、必ず1時間のオンラインミーティングを実施。お客様がツール導入で「何を達成したいのか」というゴールを具体的に設定し、共有しました。
- 伴走型のサポート: 専任の担当者が、お客様が「最初のプロジェクトをツール上で完了させる」までを徹底的にサポート。週に一度の進捗確認コールや、操作方法のレクチャーを行いました。
このプログラムの目的は、お客様に「このツールを使えば、本当に仕事が楽になるんだ!」という最初の成功体験を、できるだけ早く味わってもらうこと。この小さな成功が、その後のツール定着に絶大な効果を発揮したのです。
打ち手2:【活用期】データで「つまずきの兆候」を早期発見し、先回りする
オンボーディングを終えたお客様を、決して放置はしません。A社は、顧客のツール利用状況(最終ログイン日、主要機能の利用率など)をデータで常にモニタリングする仕組みを構築しました。
そして、「過去2週間ログインがない」「プロジェクト管理機能が全く使われていない」といった、利用が停滞しているお客様を「解約の兆候(アラート)」として自動で検知できるようにしたのです。
アラートが検知されたお客様には、カスタマーサクセスの担当者がすかさず電話やメールで連絡します。 「最近、ツールの動きが鈍化しているようですが、何かお困りごとはございませんか?」 「実は、〇〇様のような業種のお客様には、こんな便利な使い方があるのですが、一度ご説明いたしましょうか?」
問題が大きくなる前に、悩みの芽を摘み取る。このプロアクティブ(能動的)な働きかけが、声なき解約者(サイレントクレーマー)を大幅に減らしました。
打ち手3:【拡大期】顧客の状態を「ヘルススコア」で可視化し、次の提案へ
さらにA社は、顧客の状態をより客観的に把握するため、「ヘルススコア」という指標を導入しました。これは、ツールの利用状況やサポートへの問い合わせ履歴など、様々なデータを元に、お客様の「健康状態」を点数化するものです。
- 緑信号(健康): ツールを深く使いこなし、成果を出しているお客様。→ さらなる成功を支援するため、上位プランやオプション機能のアップセル・クロスセルを提案。
- 黄信号(注意): 利用が停滞気味、または一部の機能しか使えていないお客様。→ 活用方法の勉強会や、個別相談会を案内。
- 赤信号(不健康): 長期間ログインがなく、解約リスクが非常に高いお客様。→ マネージャーレベルが直接連絡し、ヒアリングと改善策を提案。
このヘルススコアによって、限られたリソースを、どのお客様に、どのように投下すべきかが明確になり、より効果的・効率的なアプローチが可能になったのです。
「ありがとう」の声が急増。数字で見る、A社に起きた劇的な変化
この一連のカスタマーサクセス活動を1年間続けた結果、A社のビジネス指標は劇的に改善しました。
指標 | Before (CS導入前) | After (CS導入後) | 変化 |
月次解約率(チャーンレート) | 4.8% | 2.1% | 半減以下に改善! |
LTV(顧客生涯価値) | 100 (基準値) | 180 (基準値) | 1.8倍に向上 |
アップセル/クロスセルによる売上 | 対前年比 100% | 対前年比 250% | 2.5倍に増加 |
NPS®(顧客推奨度) | -15 | +20 | 大幅に改善 |
解約率が半分以下になったことで、売上は雪だるま式に積み上がるようになり、安定した経営基盤が築かれました。 しかし、何よりも大きな変化は、社内の雰囲気でした。以前はクレーム対応に疲弊していたサポート窓口に、「〇〇さんのおかげで、大変だったプロジェクトが無事に終わりました。本当にありがとう!」といった、お客様からの感謝の声が届くようになったのです。社員のモチベーションは、大きく向上しました。
顧客の成功なくして、自社の成長なし。次はあなたの会社の番です
A社の事例が教えてくれるのは、サブスクリプションビジネスにおいて、「契約はゴールではなく、スタートに過ぎない」という真実です。お客様との関係は、契約してからが本当の始まりなのです。
顧客の成功に本気でコミットし、伴走する。その姿勢こそが、お客様からの信頼を勝ち取り、解約率を下げ、LTVを高める唯一の方法です。
「そうは言っても、何から手をつければいいのか分からない」 「自社に、カスタマーサクセスを担えるような人材がいない」
もし、あなたがそう感じているなら、まずは小さな一歩から始めてみませんか? 勇気を出して、過去3ヶ月で解約してしまったお客様、数社に電話をかけてみてください。そして、ただ一言、「今後のサービス改善のため、もし差し支えなければ、解約された本当の理由をお聞かせいただけませんか?」と尋ねてみるのです。 きっと、そこにはあなたの会社がこれから進むべき道を照らす、貴重なヒントが隠されているはずです。
もし、自社だけでは難しい、何から手をつけるべきか整理したい、と感じたら、ぜひ一度私たちにご相談ください。私たちは、あなたの会社のサービスや顧客の特性に合わせた「勝てるカスタマーサクセス戦略」の立案から、組織作り、日々の活動の仕組み化まで、成功に向けて伴走します。
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