
【この記事はこんな方に向けて書いています】
- 展示会などで獲得した見込み客(リード)を、十分にフォローしきれていないと感じる方
- 営業担当者が、本来集中すべき「質の高い商談」以外の業務に追われている経営者さま
- 営業の訪問コストや移動時間の多さに、非効率だと課題を感じているマネージャーさま
- 「インサイドセールス」という言葉は知っているが、自社でどう始めればいいか分からない方
- 営業部門とマーケティング部門の間に壁があり、連携がうまくいっていないと感じる方
展示会で交換した大量の名刺の山。ウェブサイトからの資料請求リスト。これらは、未来の売上につながるはずの「宝の山」です。しかし、あなたの会社では、その宝の山が、日々の業務に追われる営業担当者の机の引き出しや、パソコンのフォルダの奥深くで、ただの「紙切れ」や「データ」になって眠ってしまっていませんか? 今回ご紹介するBtoBソフトウェア企業のA社も、かつてはそうでした。せっかく獲得した見込み客を放置してしまい、大きな機会損失を生んでいたのです。しかし、彼らは「インサイドセールス」という新しい営業の仕組みを導入することで、この状況を劇的に改善。たった1年でリードからの商談化率を2.5倍に引き上げることに成功しました。この記事では、A社がどのようにしてゼロからインサイドセールスチームを立ち上げ、営業組織全体の生産性を向上させたのか、その全貌を具体的にお伝えします。
その名刺の山、宝の山ですか?それとも、ただの紙切れですか?
マーケティング活動で獲得した見込み客(リード)。その一つひとつが、未来のお客様になる可能性を秘めています。しかし、その可能性の芽は、時間と共に急速に萎んでいってしまいます。
アメリカのある調査会社が発表した有名なデータがあります。それは、「問い合わせのあったリードに対して、5分以内に連絡した場合と、30分後に連絡した場合とでは、その後の商談につながる確率が21倍も違う」という衝撃的な事実です。
考えてみれば当然のことかもしれません。お客様が資料をダウンロードしたり、問い合わせをしたりした瞬間が、最も興味・関心が高まっている「ゴールデンタイム」です。その熱が冷めないうちにアプローチできれば、話はスムーズに進みます。 しかし、営業担当者が他の商談や移動で手一杯で、連絡が1日後、3日後、あるいは1週間後になってしまったら…?お客様はとっくに興味を失っているか、もっと対応の早い競合他社の話を聞いていることでしょう。
せっかくコストと労力をかけて集めたリードを、ただ「対応が遅い」という理由だけで失ってしまう。これほど大きな機会損失はありません。
「全員野球」の限界。疲弊する営業現場と取りこぼされるリードたち
ここで、今回の主役であるA社の以前の状況についてお話ししましょう。 A社は、中小企業向けの会計ソフトをSaaS形式で開発・販売しています。営業担当者は10名。全員が新規開拓から既存顧客のフォローまで、すべてを担当する「全員野球」スタイルでした。
一見、効率的に見えますが、その裏側では深刻な問題がいくつも発生していました。
【インサイドセールス導入前のA社の課題】
- 放置される“塩漬けリード”: マーケティングチームがウェブセミナーなどで毎月100件以上のリードを獲得しても、営業担当者は目の前の商談や既存顧客の対応で手一杯。すぐにフォローできるのは、そのうちの2割程度。残りの8割は、誰にも連絡されないまま“塩漬け”状態になっていました。
- 移動時間ばかりの非効率な訪問: 営業担当者は、まだ製品に少し興味を持っただけ、という温度感の低いお客様に対しても、律儀に片道1時間かけて訪問していました。結果、1日に訪問できるのは2〜3件が限界。移動時間ばかりがかさみ、肝心の提案準備がおろそかになりがちでした。
- スキルに依存した提案の質: 営業担当者個人のスキルや経験によって、お客様から引き出せる課題の深さがバラバラ。そのため、提案の質にも大きなムラがあり、受注率が安定しませんでした。
- 部門間の断絶と対立: マーケティングチームは「なぜ、せっかく獲得したリードをフォローしてくれないんだ!」と不満を募らせ、営業チームは「そもそも、マーケが送ってくるリードの質が低いんだ!」と反論。お互いを非難し合うだけで、何の解決策も生まれない状態でした。
このままでは、いくらマーケティングに投資しても、ザルのようにリードがこぼれ落ちていくだけ。A社は、この非効率な「全員野球」から脱却する必要に迫られていました。
A社が導入した「営業の分業制」。インサイドセールスとは何か?
この状況を打破するため、A社が下した決断が「インサイドセールス」部門の立ち上げでした。
インサイドセールスとは、電話やメール、ウェブ会議システムなどを活用し、社内(インサイド)にいながら営業活動を行う役割、またはその組織のことです。 重要なのは、これが単なる「テレアポ部隊」ではない、ということです。インサイドセールスは、訪問営業を行う「フィールドセールス」と役割を分担し、営業プロセス全体を効率化する「司令塔」の役割を担います。
A社が構築した、新しい営業プロセスを見てみましょう。
【Before:一人の営業が全部やる】 リード獲得 → 営業担当者が電話 → アポイント → 訪問 → 提案 → 受注
【After:役割を分担する】 リード獲得 → 【インサイドセールス】が電話・メールで関係構築&課題ヒアリング → 質の高い商談(アポイント)を創出 → 【フィールドセールス】が訪問 → 提案 → 受注
このように、インサイドセールスが、マーケティング部門が獲得したすべてのリードに素早くアプローチし、お客様の課題や検討状況をじっくりとヒアリング。そして、見込み度が高まった「今すぐ客」だけを、満を持してフィールドセールスにパスするのです。 これにより、フィールドセールスは、移動時間や見込みの薄い顧客への対応から解放され、最も得意とする「提案・クロージング」というコア業務に100%集中できるようになります。
未経験者2名からスタート。商談化率2.5倍を達成した立ち上げの4ステップ
A社は、営業経験の浅い若手社員2名を抜擢し、インサイドセールス部門を立ち上げました。彼らが、ゼロからチームを軌道に乗せるまでに行った、具体的な4つのステップをご紹介します。
ステップ1:役割分担と「質の高い商談」の定義づけ
まず最初に行ったのは、インサイドセールス(IS)とフィールドセールス(FS)の間の、明確なルール作りです。 特に重要だったのが、「どんな状態になったら、ISからFSへリードをパスするのか」という共通の定義を決めたことでした。
A社では、BtoB営業でよく使われる「BANT条件」というフレームワークを参考に、以下のように定義しました。
- B (Budget): 予算が確保されているか
- A (Authority): 決裁権を持っているか
- N (Needs): 明確な課題・ニーズがあるか
- T (Timeframe): 具体的な導入時期が決まっているか
このうち、「少なくともN(ニーズ)と、他のどれか1つ以上が明確になっていること」を、FSへパスする条件と定めたのです。 この定義があることで、ISはゴールを意識してヒアリングができ、FSは質の低いアポイントに時間を奪われることがなくなりました。
ステップ2:ツールの導入と、顧客情報の「見える化」
次に、勘や経験に頼らない、データに基づいたアプローチを実現するため、SFA(営業支援ツール)やMA(マーケティングオートメーション)といったITツールを本格的に活用し始めました。 これにより、お客様が「どのページを閲覧したか」「どのメールを開封したか」といった行動履歴や、過去のやり取りがすべて記録され、一元管理できるようになりました。 インサイドセールスは、これらの情報を“カルテ”のように事前に確認することで、「〇〇の資料をダウンロードいただきありがとうございます。特に、△△の機能にご興味がおありですか?」といった、お客様の状況に合わせた的確なアプローチが可能になったのです。
ステップ3:「売らない」会話を重視したトークスクリプトの作成
インサイドセールスの目的は、商品を売り込むことではありません。お客様の課題を深く理解し、信頼関係を築くことです。 そのため、A社では「会計ソフトいかがですか?」といったプロダクトアウトなトークを一切やめました。 代わりに、お客様のビジネス課題に寄り添う「相談相手」になることを目指したトークスクリプトを構築しました。
【トークスクリプトのポイント】
- 仮説の提示: 「多くの経理ご担当者様が、月末の請求書処理に3日以上かかっていると伺いますが、御社ではいかがですか?」
- 共感と深掘り: 「それは大変ですね。具体的に、どの作業に一番お時間がかかっているのでしょうか?」
- 情報提供: 「もしよろしければ、その作業時間を半分に削減した他社様の事例資料をお送りしましょうか?」
このように、あくまでお客様の課題解決を主軸に会話を進めることで、自然と信頼関係が生まれ、お客様の方から「もっと詳しく話を聞きたい」と言ってもらえる確率が格段に上がりました。
ステップ4:KPI設定と、データに基づいた改善サイクルの確立
A社は、インサイドセールスのKPI(重要業績評価指標)を、単なる「アポイントの件数」にはしませんでした。 「定義を満たした有効商談の件数」と、その商談が「どれだけ受注に繋がったか(受注率)」を最も重要なKPIとして設定したのです。これにより、ISはアポイントの「量」だけでなく、「質」を常に追求するようになりました。
さらに、毎週インサイドセールスとフィールドセールスが合同でミーティングを実施。「先週パスした商談の質はどうだったか」「どんな情報が事前にあれば、もっと良い提案ができたか」といったフィードバックを、データに基づいて行いました。この地道な改善サイクルを回し続けたことが、チーム全体の成果を最大化させる原動力となったのです。
営業の訪問は3割減、受注額は30%増。会社全体に起きた嬉しい変化
この「営業の分業制」を導入してから1年後、A社の営業組織には、驚くべき変化が起きていました。
指標 | Before (IS導入前) | After (IS導入後) | 変化 |
リードからの商談化率 | 10% | 25% | 2.5倍 |
営業1人あたりの月間訪問件数 | 20件 | 14件 | 30%削減 |
商談からの受注率 | 20% | 35% | 1.75倍 |
会社全体の受注額 | 100 (基準値) | 130 (基準値) | 30%増加 |
最大の成果は、リードを獲得してから、質の高い商談につながる確率が2.5倍に向上したことです。 これにより、フィールドセールスは無駄な訪問を3割も削減できたにもかかわらず、商談の質が上がったことで受注率は1.75倍に向上。結果として、会社全体の受注額は30%も増加したのです。 何より大きな変化は、部門間の対立がなくなり、マーケティング→インサイドセールス→フィールドセールスが、常にお客様の情報を共有し、連携して一つの目標に向かうという、強力なチームワークが生まれたことでした。
「全員で訪問」の時代は終わった。次は、あなたの会社が賢く勝つ番です
A社の事例は、インサイドセールスが、リソースの限られた中小企業にこそ有効な戦略であることを示しています。気合と根性で闇雲に訪問する時代は、もう終わりました。これからは、テクノロジーとデータを活用し、役割分担をすることで、賢く成果を出す時代です。
「うちの会社でも、インサイドセールスを始められるだろうか?」 「何から手をつければいいのか、具体的に知りたい」
もし、あなたがそう感じているなら、まずは自社の現状を把握することから始めてみませんか? 過去1ヶ月で獲得したリード(展示会の名刺や、ウェブサイトからの資料請求など)のリストを取り出し、その一件一件が、その後どうなったかを追跡してみてください。おそらく、その多くが誰にもフォローされないまま放置されているという現実に、愕然とするはずです。
もし、あなたの会社が非効率な営業活動から脱却し、データに基づいて賢く成果を出す「新しい営業の形」を本気で作りたいと考えているなら、ぜひ一度私たちにご相談ください。私たちは、インサイドセールス部門の立ち上げ計画から、ツールの選定、トークスクリプトの構築、人材育成まで、あなたの会社の「営業改革」を成功に導くためのあらゆる支援を提供します。
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