「価格」でしか勝負できなかった町工場が、ブランディングで高付加価値企業へ生まれ変わった話

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【この記事はこんな方に向けて書いています】

  • 毎年のように取引先からコストダウンを要求され、利益がどんどん圧迫されている経営者さま
  • 「うちみたいな下請けは、安くないと仕事が来ない」という考えから抜け出せずにいる方
  • 高い技術力があるのに、その価値をうまく言語化して、お客様に伝えられていないと感じる方
  • 価格競争から脱却し、「あなたにお願いしたい」と指名される会社になりたいと本気で願う方
  • 「ブランディング」に興味はあるが、うちみたいな町工場には無縁な話だと思っている方

「技術には、どこにも負けない自信がある。なのに、なぜいつも最後は価格の話になってしまうんだろう…」。そう感じている町工場の経営者さまは、決して少なくないはずです。どれだけ良いものを作っても、お客様にその価値が正しく伝わっていなければ、容赦ない価格競争の波に飲み込まれてしまう。これは、今の時代の厳しい現実です。 しかし、もし「価格」という土俵から降りて、自社の「価値」で選ばれる会社になれるとしたら…? 今回ご紹介するのは、かつては絶え間ない価格競争に疲弊していた、従業員15名の精密部品メーカーA社です。彼らが、自社の本当の強みを見つけ出し、それを伝える「ブランディング」に取り組んだことで、利益率を4倍に改善させ、顧客から「高くても、あなたにお願いしたい」と指名される高付加価値企業へと生まれ変わった、感動の逆転劇です。

その技術、安売りしていませんか?“良いもの=高く売れる”ではない時代の現実

日本のものづくりを支える、中小製造業、いわゆる「町工場」。その技術力の高さは、世界に誇るべきものです。しかし、その素晴らしい技術が、正当な価格で評価されているかというと、残念ながら多くのケースで「NO」と言わざるを得ません。

「良いものを作ってさえいれば、いつか誰かが見つけてくれる」 「うちの技術は、見れば分かる」

こうした職人気質な考え方は、もはや過去のものとなりつつあります。インターネットの普及により、顧客は国内外問わず、無数の選択肢の中から取引先を選べるようになりました。製品やサービスの機能的な差が小さくなる「コモディティ化」の波は、製造業にも確実に押し寄せています。 その結果、何が起きるか。お客様は、各社の違いが分からないため、結局「一番安いところ」を選ぶしかありません。こうして、多くの町工場が、望まぬ「価格競争」という消耗戦に巻き込まれていくのです。

「また見積もりで負けた…」利益なき繁忙に疲弊していたA社の過去

ここで、今回の主役であるA社の、数年前の姿をご紹介しましょう。 A社は、精密な金属加工を得意とする、従業員15名の小さな町工場です。腕利きの職人が揃い、μm(マイクロメートル)単位の超高精度な加工も可能でした。

しかし、その実態は「利益なき繁忙」に苦しんでいました。

【ブランディング前のA社が抱えていた課題】

  • 終わりのない価格競争: 新規の引き合いは、ほぼ100%が複数の会社に同じ図面を送る「相見積もり」。たとえ技術的に難しい案件であっても、最後の決め手は価格でした。結果、受注できても利益はごくわずか、という仕事ばかりが増えていきました。
  • 便利な「何でも屋」状態: 「とにかく仕事を断らない」がモットー。自動車部品から医療機器、おもちゃの部品まで、どんな業界のどんな依頼でも受けていました。その結果、「A社さんって、結局何が得意なの?」と聞かれても、社長自身も明確に答えられない状態に。
  • 宝の持ち腐れ状態の技術力: ウェブサイトは古く、更新もされていない「あるだけ」の状態。職人たちの神業のような技術力も、その凄さが伝わるような写真や動画は一つもありませんでした。営業も口頭で「うちは精度、すごいですよ」と言うだけで、その価値を証明するものがなかったのです。
  • 社内に漂う諦めムード: 「どうせ、また最後は値段でしょ…」。どれだけ頑張って良いものを作っても、正当に評価されない状況に、社員たちの士気は下がる一方。特に若手社員は、将来への不安からか、定着率が低いことも悩みでした。

まさに、価格競争のスパイラルから抜け出せない、典型的な下請け町工場だったのです。

A社が気づいたたった一つのこと。「私たちは部品ではなく“未来”を創っていた」

そんな八方塞がりの状況に、転機が訪れます。ある日、懇意にしていた取引先の開発担当者から、こんな言葉をかけられました。 「A社さんの試作品があったから、うちの新製品開発、半年も前倒しできたんですよ。本当にありがとう」 この一言に、A社の社長はハッとさせられました。「我々は、ただの金属の塊を削っているのではない。お客様の“未来の製品”が、一日でも早く世に出る手助けをしているんだ。それこそが、我々の本当の価値じゃないか?」

この気づきをきっかけに、A社は外部の専門家も交え、自社の存在価値を根本から見つめ直す「ブランディング」に挑戦することを決意します。

多くの人が誤解していますが、ブランディングとは、単にロゴマークを新しくしたり、ウェブサイトをオシャレにしたりすることではありません。ブランディングの本質は、「自分たちは、何者で、顧客に対して何を約束できるのか」という、自社の揺るぎない「軸」を定義し、それをあらゆる活動を通じて伝え続けることです。

A社は、徹底的な自己分析と顧客へのヒアリングを重ね、自社のブランド価値を再定義しました。

【A社の価値の再定義】

  • Before: 「我々は、高品質な精密金属加工を提供するプロ集団です」 (→ “自分たちが何をしているか”を語っている)
  • After: 「我々は、試作品開発のスピードを2倍にし、お客様の“未来の製品”を世界最速で形にする開発パートナーです」 (→ “お客様にどんな未来を提供できるか”を語っている)

この視点の転換こそが、A社が「価格」の土俵から「価値」の土俵へとステップアップする、すべての始まりでした。

“ただの町工場”から脱却。価値をカタチにした3つのステップ

再定義したブランドという「魂」を、どうやってお客様に伝えていくか。A社は、具体的な3つのステップで、その価値を「カタチ」にしていきました。

ステップ1:強みを棚卸し、「戦う場所」を選択し集中する

まず、過去5年間の受注データをすべて洗い出し、「どの業界の」「どんなお客様の」「どんな案件」が、最も利益率が高く、かつお客様から感謝されていたのかを徹底的に分析しました。 その結果、A社の本当の強みは、「医療機器や航空宇宙分野で求められる、開発リードタイムの短い、超高精度な試作品」にあることがデータとして明確になったのです。 A社は、勇気を持って「何でも屋」をやめることを決断。この得意領域に、経営資源を集中させるという「選択と集中」を行いました。

ステップ2:ブランドを体現する「コミュニケーションツール」を刷新する

次に、新しいブランドの“顔”となる、ウェブサイトや会社案内などを一新しました。目指したのは、単なる情報伝達ツールではなく、ブランドの世界観が伝わる「体験ツール」です。

  • ウェブサイトの刷新: トップページには、もはや自社の製品写真を載せるのをやめました。代わりに、「開発期間を半分にしたいと思いませんか?」「製品の軽量化で、あと一歩が超えられずにいませんか?」といった、お客様が抱える“課題”を大きく掲載。そして、その課題をA社がどう解決したかという「顧客事例」を、担当者の顔写真付きで豊富に紹介しました。
  • “物語”としての会社案内: 技術や設備のスペックを羅列した会社案内を廃止。代わりに、A社がお客様と共に、数々の困難を乗り越えて未来の製品を創り上げてきた「開発ストーリー」をまとめた、一冊のブックレットを制作しました。

ステップ3:価格表のない「価値提案型」の営業へ転換する

最も大きな変革は、営業スタイルでした。A社は、安易に見積もりを提示するのをやめました。 その代わりに、まずはお客様の開発課題や、その製品が世に出ることでどんな未来が実現するのかを、1時間以上かけて徹底的にヒアリング。そして、「A社の技術を使えば、お客様のビジネスはこう変わります」という、付加価値を具体的に提示する「価値提案」に切り替えたのです。

例えば、「この部品の精度をあと2μm高めることで、最終製品の性能が5%向上し、市場での競争力が格段に上がります。そのための投資だとお考えください」といったように、価格の背景にある「価値」を、自信を持って伝えるようにしました。

「高くても、Aさんにお願いしたい」。指名される会社になって起きたこと

このブランディングへの取り組みを2年間続けた結果、A社には奇跡のような変化が訪れました。

指標Before (ブランディング前)After (ブランディング後)
営業利益率疲弊していた 5%高収益体質の 20%
平均受注単価100 (基準値)250 (2.5倍)
問い合わせに占める「技術相談」の割合相見積もりが8割だったのが…7割が技術相談や開発依頼に
3年以内の若手社員離職率25%5%まで劇的に改善

Google スプレッドシートにエクスポート

「相見積もりなので、一番安いところにお願いします」と言われ続けていたのが、嘘のようでした。「この難しい開発は、A社さんにしか頼めない」「価格は少々高くても構わないので、ぜひA社さんの力をお借りしたい」。そう言ってくれるお客様が、次々と現れるようになったのです。 価格競争から完全に脱却したことで、営業利益率は4倍に改善。社員たちは、自分たちの仕事がお客様の未来を創っているという誇りを持ち、活き活きと働くようになりました。その結果、若手社員の定着率も大幅に向上。採用面接では、「A社の開発ストーリーに感動しました」という、熱意ある学生からの応募が来るようになったのです。

あなたの会社にしか語れない“物語”が、最高の武器になる

A社の事例は、決して多額の広告宣伝費をかけた特殊な話ではありません。彼らがやったことは、自社の中に眠っていた「本当の価値」という“物語”を見つけ出し、それを未来のお客様に伝わる言葉とデザインで、誠実に語り始めたこと。ただ、それだけです。

あなたの会社にも、必ず、あなたにしか語れない“物語”が眠っています。

  • 創業以来、ずっとこだわり続けてきたことは何ですか?
  • 過去に、お客様と一緒に乗り越えた、一番大変だった仕事は何ですか?
  • そして、その仕事を通して、お客様にどんな未来を届けられましたか?

「自社のこととなると、強みなんて当たり前すぎて分からない」 「その“物語”を、どうやって見つけ出し、伝えればいいのか…」

もし、あなたがそう感じているのなら、ぜひ一度、私たちにご相談ください。 私たちは、単にロゴやウェブサイトをデザインする会社ではありません。あなたの会社の心臓部まで深く入り込み、社員の皆さまも気づいていない「本当の価値」という原石を一緒に見つけ出し、それを磨き上げ、未来のお客様の心に届ける“最高の物語”を紡ぎ出す、ブランディングの専門家です。

価格競争という消耗戦から抜け出し、自社の価値で選ばれる会社へ。その変革の旅を、私たちと一緒に始めませんか?

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