
【この記事はこんな方に向けて書いています】
✅ 新しいシステム導入のため、ITベンダーの選定を任されている担当者の方
✅ RFP(提案依頼書)を作成する必要があるが、何を書けばいいのか分からず困っている方
✅ 過去にベンダー選定で失敗し、「今度こそは…」とプレッシャーを感じている方
✅ 複数のベンダーから提案を受けたものの、内容がバラバラで、まともな比較ができずに悩んでいる経営者の方
✅ プロジェクトの成功確率を、最初の段階で最大限に高めたいと考えている方
「新しいシステムを導入して、業務を劇的に改善するぞ!」 そんな輝かしい未来を思い描き、ITプロジェクトはスタートします。しかし、そのうちの少なからぬプロジェクトが、いつの間にか「こんなはずではなかった…」という残念な結果に終わってしまうのは、なぜでしょうか?
その原因は様々ですが、実はプロジェクトの成否の8割は、開発が始まる前の、たった一つのドキュメントの質で決まっていると言っても過言ではありません。それが、「RFP(Request for Proposal:提案依頼書)」です。
RFPとは、システム開発を依頼したいベンダーに対して、自社の要望を伝え、最適な提案をしてもらうための「招待状」のようなもの。この招待状の内容が曖昧だと、的外れな提案ばかりが集まり、最高のパートナーを見つけることはできません。
この記事では、過去のシステム導入の失敗に苦しみ、ベンダー選定に大きな不安を抱えていた製造業F社が、ITコンサルタントと二人三脚で「勝てるRFP」を作成したことで、いかにして最高のパートナーと出会い、プロジェクトを成功へと導いたのか。その具体的な事例を通じて、あなたの会社のベンダー選定を成功させるための重要なヒントをお届けします。
なぜ「伝わらないRFP」がプロジェクトを失敗に導くのか?
「システム導入を検討している企業の、約半数がRFPの作成経験がない、または作成していても内容に自信がない」。これは、私たちが日々のコンサルティング活動の中で感じている実感値です。多くの場合、RFPは単なる「欲しい機能のリスト」になってしまっています。
このような「伝わらないRFP」は、ベンダーとの不幸なすれ違いを生む最大の原因となります。
残念なRFPの典型例 | それが引き起こす悲劇 |
背景や目的が書かれていない | ベンダーは課題を理解できず、的外れな機能ばかりを提案してくる。 |
専門用語で書かれた機能要求の羅列 | 提案が技術論に偏り、本当にビジネスに貢献するかが分からない。 |
予算や納期が非現実的 | 優秀で誠実なベンダーほど、早々に見切りをつけて提案を辞退してしまう。 |
評価基準が不明確 | 担当者の好みや、営業担当の印象だけでベンダーを選んでしまい、後で後悔する。 |
これは例えるなら、建築家に「とにかく良い感じの建物を建ててください」とお願いするようなものです。それが一戸建てなのか、オフィスビルなのか、美術館なのかも伝えずに、最高の設計図が出てくるはずがありませんよね。結果として、ベンダーは「御社が欲しいのは、たぶんこういうものでしょう?」という“当てずっぽう”の提案をせざるを得なくなり、その中から選んだ時点で、プロジェクトの失敗は約束されてしまうのです。
【事例】過去の失敗を繰り返す寸前だった、F社のベンダー選定
F社は、高い技術力を持つ部品メーカーです。事業の根幹である生産管理システムの老朽化が深刻で、5年越しの懸案だったシステム刷新プロジェクトをついに立ち上げました。
担当者の脳裏をよぎる、過去のトラウマ
プロジェクトマネージャーに任命されたのは、製造部のエースであるFさん。しかし、彼の表情は晴れませんでした。実はF社には、数年前に販売管理システムの導入で大失敗した苦い経験があったのです。
当時、わずか数ページの簡単な要求書をITベンダーに渡し、言われるがままに契約。しかし、導入されたシステムは現場の特殊な業務フローに対応できず、結局ほとんど使われないまま「負の遺産」となっていました。「あの失敗は、最初のベンダー選びのボタンを掛け違えたことが原因だ」。Fさんはそう分析していました。
「今度こそは失敗できない」
そのプレッシャーから、Fさんは一人で分厚いRFPの作成に取り掛かりました。何冊も専門書を読み、インターネットでテンプレートを探し、1ヶ月以上かけて渾身のRFPを書き上げました。しかし、完成したドラフトを前に、Fさんは新たな不安に襲われます。
「たしかに機能要求は細かく書いた。でも、これだけで本当にウチの課題を理解してくれるだろうか…?結局、前回の失敗と同じで、ただの機能リストになっているだけじゃないか…?」
自分一人では、何が正解なのか分からない。このまま進めて、また失敗したらどうしよう。その強い危機感が、F社を外部の専門家であるITコンサルの活用へと向かわせたのです。
「勝てるRFP」作成を支援したコンサルの3つのステップ
Fさんから相談を受けた私たちは、RFPを「作成する」ことではなく、「プロジェクトを成功に導くための戦略を練る」という視点から、Fさんと共に「勝てるRFP」作りをスタートしました。
ステップ1:「What(何が欲しいか)」の前に「Why(なぜ欲しいか)」を深掘りする 私たちは、Fさんが作成した機能リストを一旦横に置いてもらいました。そして、製造現場の担当者、品質管理のリーダー、経営企画の役員まで、10名以上の関係者にヒアリングを行いました。
そこで私たちが問い続けたのは、「What(何が欲しいか)」ではなく、「Why(なぜ、それが欲しいのか)」です。 「なぜ、リアルタイムでの進捗管理が必要なのですか?」 「その情報が見えると、お客様への提供価値はどう変わるのですか?」 「なぜ、今のシステムではそれが実現できないのですか?」
この「Why」の深掘りを通じて、F社の本当の課題が浮き彫りになりました。彼らが本当に欲しかったのは「新しい生産管理システム」というモノではなく、「製造リードタイムを20%短縮し、顧客満足度を高める」という“コト(成果)”だったのです。この本質的な目的をRFPの冒頭で熱く語ることで、ベンダーの当事者意識を格段に引き出すことができます。
ステップ2:ベンダーが「最高の提案」をしたくなる構成を作る 次に、その目的を達成するためのストーリーが伝わるよう、RFPの構成を再設計しました。
- はじめに(プロジェクトの背景と目的): なぜこのプロジェクトをやるのか、という“想い”を伝える最重要パート。
- 現状の業務とシステムの課題: 何に困っているのかを具体的に図なども交えて解説。
- 新システムへの要求事項:
- 機能要件: 必要な機能をリストアップ。
- 非機能要件: セキュリティ、性能、可用性など、見落とされがちだが重要な要件を明記。
- 提案依頼事項と選定プロセス: 何を提案してほしいか、どのような流れで選ぶかを明確に提示。
この構成に沿って内容を整理することで、ベンダーは「F社が何に困り、どこへ向かおうとしているのか」を深く理解し、単なる機能の紹介ではなく、「そのゴールを達成するために、私たちならこう貢献できます」という、一歩踏み込んだ提案ができるようになります。
ステップ3:評価基準を「見える化」し、公平な選定を可能にする 最後に、最も重要な「ベンダーを評価する軸」を、RFPを送付する“前”に作成しました。 「価格が安いから」「営業担当の感じがいいから」といった曖昧な理由で選んでしまうのが、失敗の典型パターンです。そうならないために、評価項目と、それぞれの重要度(配点)を事前に決めておくのです。
評価大項目 | 評価小項目 | 配点 |
課題理解度(30点) | ・RFPに書かれたビジネス課題を正しく理解しているか | 15 |
・潜在的なリスクや課題を指摘できているか | 15 | |
提案内容(40点) | ・機能要件を過不足なく満たしているか | 20 |
・プロジェクトの推進体制や手法は適切か | 10 | |
・導入後のサポート体制は手厚いか | 10 | |
コスト(20点) | ・初期導入費用と、運用費用の合計額は妥当か | 20 |
企業信頼性(10点) | ・類似業界での実績は豊富か | 10 |
この評価シートがあることで、各社の提案を客観的かつ公平に比較検討できるようになります。これにより、Fさんは安心して選定プロセスに臨むことができました。
「伝わるRFP」が引き寄せた、最高のパートナー
こうして完成した、F社の想いと戦略が詰まったRFP。それを受け取ったベンダーからの反応は、Fさんの想像を絶するものでした。
以前の失敗時に受け取った提案書は、自社製品のカタログを切り貼りしたようなものばかりでした。しかし、今回は全く違いました。どのベンダーも、F社のビジネス課題に正面から向き合い、「リードタイムを20%短縮するために、このような機能と導入プロセスはいかがでしょうか」という、具体的な解決策を提示してきたのです。中には、F社が気づいていなかった業務上のリスクを指摘し、その対策まで提案してくれたベンダーもいました。
事前に作成した評価シートに基づき、F社は全会一致で最適な一社を選定。Fさんは、選定後のキックオフミーティングで、確かな手応えを感じていました。 「以前は『システムを買う』という感覚だった。でも今回は違う。『一緒に課題を解決してくれるパートナーを選ぶ』ことができた。このチームなら、絶対に成功できる」
良いベンダー提案を引き出す「勝てるRFP」3つの急所
F社の事例は、RFPの質がベンダー提案の質を、ひいてはプロジェクトの成否を左右することを明確に示しています。「勝てるRFP」を作成するために、押さえるべき急所は3つです。
- ストーリーを語る: 単なる機能のリストではなく、「私たちは何に悩み(背景)、どこへ向かいたいのか(目的)」というストーリーを伝えましょう。あなたの会社のファンになってもらうくらいの熱量が、ベンダーの本気を引き出します。
- 「How」を問う: 「何ができますか(What)」だけでなく、「それを、どのような体制・手法で実現するのですか(How)」を問いましょう。プロジェクト推進力こそ、ベンダーの真の実力です。
- 公平さを示す: 明確な評価基準があることを伝え、誠実で公平なパートナーであることを示しましょう。真に実力のあるプロフェッショナルなベンダーほど、そうした企業と仕事をしたいと考えるものです。
プロジェクトの成否は、最初の「一通」で決まるかもしれません
ここまで読んでいただき、「良いRFPの重要性は分かった。でも、これを自社だけで作るのは、正直かなり大変そうだ…」と感じた方も多いのではないでしょうか。
その通りです。質の高いRFPの作成には、専門的な知識と、そして何より多くの時間と労力が必要です。日々の業務に追われる担当者の方が、一人で抱え込むには、あまりにも重いタスクです。
しかし、RFP作成というプロジェクトの最上流工程に少しだけ投資をすることが、結果的に、後工程で発生する莫大な手戻りコストや、プロジェクト失敗という最悪の事態を防ぐ、最も確実な保険になります。
もしあなたが、これからベンダー選定を始める、あるいはRFPの作成で悩んでいるのであれば、一度私たちに相談してみませんか? 私たちは、あなたの会社のビジネスを深く理解し、その想いをベンダーに届けるための「最高の招待状」作りを、伴走者としてお手伝いします。
コメント