
【この記事はこんな方に向けて書いています】
✅ 過去に高額な費用をかけてERPを導入したが、全く使われずに終わった苦い経験のある経営者の方
✅ 「ERP」という言葉を聞くだけで、社内にアレルギー反応が起きてしまう状況に悩んでいる方
✅ システム刷新の必要性は感じているが、また失敗するのではないかと、次の一歩を踏み出せずにいる担当者の方
✅ 「自社の業務は特殊だから」という理由で、システムのカスタマイズを繰り返してきたが、限界を感じている方
✅ IT導入を、単なるシステム刷新ではなく、全社的な「業務改革」のきっかけにしたいと考えている方
ERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)は、導入に成功すれば、企業の経営情報を一元化し、業務効率を劇的に向上させる強力な経営ツールです。しかし、その輝かしい未来を夢見て巨額の投資を行ったにもかかわらず、そのプロジェクトが失敗に終わるケースは、残念ながら後を絶ちません。
ある調査では、ERP導入プロジェクトの実に75%が、計画通りに進まず「失敗」に終わっているという衝撃的なデータもあります。「高額な費用をかけたのに、現場は相変わらずExcelで仕事をしている」「操作が複雑で、誰も使いたがらない」…。そんな“動かないコンピュータ”が、あなたの会社の片隅で静かに眠ってはいないでしょうか?
なぜ、これほど多くのERPプロジェクトは失敗してしまうのでしょうか。その根本原因は、システムの機能や性能にあるのではありません。失敗の本質は、IT導入の「進め方」そのものにあります。
この記事では、一度目のERP導入で壮絶な失敗を経験し、「二度とERPはごめんだ」という深いトラウマを抱えていたI社が、ITコンサルタントとタッグを組み、IT導入の前に「業務改革」から着手するという全く新しいアプローチで、いかにして2度目の正直を成功させたのか。そのV字回復の軌跡を、具体的にお伝えします。
なぜ高額な投資が「使われないシステム」に化けてしまうのか?
失敗したERPプロジェクトには、驚くほど共通した特徴があります。それは、「今の業務のやり方を変えずに、新しいシステムを無理やり合わせようとする」という、致命的な過ちです。
会社の歴史の中で作られてきた、複雑で、時に非効率な業務フロー。その一つひとつを「うちの会社のやり方は特殊だから」と聖域化し、システム側をカスタマイズで対応しようとすると、プロジェクトは必ずと言っていいほど、以下の“死の谷”に転がり落ちていきます。
典型的な失敗パターン | その先にある悲惨な結末 |
現行業務を絶対視し、システムを合わせる | ・カスタマイズ費用が雪だるま式に膨れ上がる。<br>・システムの構造が複雑化し、バグが多発。誰も全体を理解できなくなる。 |
現場の抵抗を恐れ、業務改革を避ける | ・新システムは「今のやり方と違うから使いにくい」と敬遠される。<br>・結局、今まで通りのExcelや紙の帳票が生き残り、二重入力の手間だけが増える。 |
導入目的が「システム刷新」になっている | ・「何のために導入するのか」という目的意識が希薄。<br>・プロジェクトがIT部門任せになり、経営や現場が他人事になってしまう。 |
これは例えるなら、最新式の調理器具が揃ったシステムキッチンを導入したのに、長年使い慣れた七輪と炭火をキッチンに持ち込んで、無理やり料理を続けようとするようなものです。結果として、キッチンは煤(すす)で汚れ、最新の機能は全く活かされません。問題はキッチンではなく、料理の「やり方」を変えようとしなかったことにあるのです。
【事例】「二度とERPはごめんだ」トラウマを抱えたI社の再挑戦
I社は、成長著しい専門商社です。しかしその裏側で、10年以上前に導入した販売・在庫管理システムは限界を迎え、ビジネスの成長の足かせとなっていました。
蘇る、5年前の悪夢
I社の経営陣やベテラン社員の脳裏には、5年前に頓挫したERP導入プロジェクトの、 painfulな記憶が焼き付いていました。当時、数千万円を投じてERPパッケージを導入。しかし、「現場のやり方を変えるな」という号令のもと、ベンダーに次々と追加のカスタマイズを要求。その結果、プロジェクトは泥沼化し、予算は大幅に超過。1年半かけて出来上がったシステムは、あまりに複雑で動作が遅く、現場から総スカンを食らい、本格稼働を前に“お蔵入り”となったのです。
「ERP」という言葉は、社内でタブーとなりました。
しかし、もう限界だった
それでも、事業は成長します。古いシステムでは、正確な在庫数がリアルタイムで把握できず、販売機会の損失が多発。月次の決算は、経理部が10日以上も残業して、ようやく締められるという状態でした。 「このままでは、会社が潰れる…」。強い危機感を抱いたI社長は、不退転の決意で、システムの全面刷新を再び決断します。
「だが、同じ過ちを繰り返すわけにはいかない」。 I社長は、前回の失敗を徹底的に分析しました。そして、一つの結論にたどり着きます。「我々が失敗したのは、システム選びではない。会社の“仕事のやり方”そのものを変えようとしなかったからだ」。
この反省から、I社はシステムベンダーを探す前に、まず「業務改革」のパートナーとして、我々ITコンサルタントに声をかけたのです。
IT導入の前に、メスを入れた「業務プロセス」という心臓部
I社からの依頼を受け、私たちが最初に行ったのは、ERPの製品カタログをめくることではありませんでした。それは、I社の「業務プロセス」という心臓部に、メスを入れることでした。
ステップ1:聖域なき「現状業務」の見える化 まず、営業、購買、物流、経理といった全部門の担当者を集め、ワークショップを何度も開催。「受注から請求まで」の業務の流れを、一つひとつ付箋に書き出し、壁一面に貼り出していきました。
その結果、可視化されたのは、これまで誰も全体像を把握していなかった、驚くほど非効率で、複雑怪奇な業務フローでした。
- 謎のルール: 特定のベテラン社員しか知らない、マニュアル化されていない承認プロセスが多数存在。
- 無駄な作業: 同じデータを、営業はExcelに、物流は別のAccessに、経理は会計ソフトに、と3回も転記していた。
- 情報の断絶: 在庫のデータが部署ごとにバラバラで、営業担当が顧客に「在庫あります」と答えたのに、物流倉庫には物がなかった、という事態が頻発。
この「現状の見える化」こそが、改革の第一歩でした。自分たちの仕事のやり方に、いかに無駄や矛盾が多いかを、社員一人ひとりが自分事として認識した瞬間でした。
ステップ2:あるべき「理想の業務フロー」の設計 次に、そのカオスな業務フローを前に、私たちは問いかけました。「本来、どうあるべきでしょうか?」。 ここで重要なのは、「今のやり方」を一旦すべて忘れ、ゼロベースで理想の姿を描くことです。「この承認は本当に必要か?」「この転記作業はなくせないか?」。私たちは、I社のメンバーと共に、徹底的に議論を重ねました。
私たちが羅針盤としたのは、「システムに仕事を合わせる」のではなく、「世の中の優れた企業のやり方(ベストプラクティス)に、自分たちの仕事を合わせにいく」という考え方です。最新のERPには、そうした世界中の優良企業のノウハウが、標準機能として組み込まれているからです。
数ヶ月の議論の末、部門間の壁を取り払い、情報がスムーズに流れる、シンプルで美しい「理想の業務フロー(To-Beモデル)」が完成しました。
ステップ3:業務とシステムの「Fit & Gap」分析 そして、この「理想の業務フロー」という“物差し”を持って、初めて、私たちはERPの製品選定に着手しました。複数のベンダーに、この理想の業務フローを見せ、「御社のシステムの標準機能で、どこまで実現(Fit)できますか?」「どうしても合わない部分(Gap)はどこですか?」と問いかけたのです。
このアプローチにより、カスタマイズを最小限に抑え、I社の新しい業務フローに最もフィットするERPを、客観的かつ論理的に選定することができました。
会社が変わったから、システムが活きた。本当のDXの実現
業務改革を先行させたI社の2度目のERPプロジェクトは、驚くほどスムーズに進みました。なぜなら、導入プロセスは、既に合意形成された新しい業務フローを、システムに設定していく作業が中心だったからです。現場からの抵抗もほとんどありませんでした。彼ら自身が、その新しい業務フローの設計者だったからです。
そして1年後、新しいERPは無事に本稼働を迎え、I社に劇的な変化をもたらしました。
- 月次決算の早期化: これまで10営業日かかっていた月次決算が、3営業日で完了。
- 在庫精度の向上: リアルタイムで正確な在庫が把握できるようになり、在庫精度は85%から99.8%へと飛躍的に向上。欠品による機会損失が激減。
- ITコストの削減: カスタマイズを最小限に抑えた結果、プロジェクトの総費用は、失敗した前回の60%で済んだ。
- 組織文化の変革: 最も大きな成果は、部門間の壁が壊れ、全社で同じデータを見て対話する文化が生まれたことでした。I社は、単なるシステム刷新ではなく、本当の意味でのデジタルトランスフォーメーション(DX)を成し遂げたのです。
「二度と失敗しない」ためのERP導入、3つの鉄則
I社のV字回復の物語は、私たちにERP導入を成功させるための、揺るぎない3つの鉄則を教えてくれます。
- 鉄則1:業務改革が8割、IT導入が2割と心得る ERPプロジェクトは、ITプロジェクトではありません。会社の仕事のやり方を根底から変える「業務改革プロジェクト」です。この覚悟を、経営トップが持つことが全ての始まりです。
- 鉄則2:自社の業務を、システムの標準機能に合わせにいく勇気を持つ 「自社のやり方は特殊」という思い込みは、多くの場合、ただの“慣れ”です。世の中のベストプラクティスが詰まったERPの標準機能に業務を合わせることで、低コスト・短納期、そして高品質なシステム導入が実現します。
- 鉄則3:IT部門に丸投げせず、経営と現場が主役になる システムの導入・運用はIT部門の仕事ですが、プロジェクトのオーナーは、あくまで経営と、システムを使う現場の皆さんです。全社を巻き込み、自分たちの手で未来の仕事のやり方を作るという当事者意識が、プロジェクトの成否を分けます。
そのERP導入、始める前に「立ち止まる勇気」を
もし、あなたの会社が過去のERP導入の失敗に悩み、次の一歩をためらっているとしたら。その慎重さは、決して間違いではありません。
同じ過ちを繰り返さないために、最も重要なこと。それは、システム製品の比較検討を始める前に、一度ぐっと立ち止まり、「自分たちの仕事のやり方そのもの」に、正面から向き合う勇気を持つことです。
「過去の失敗の原因を、客観的に分析してほしい」 「何から手をつければいいのか、一緒に考えてほしい」
私たちは、いきなりシステムの導入ありきで話を進めることはありません。まずは、あなたの会社が抱える課題と、過去のプロジェクトの painfulな経験を、じっくりとお聞かせください。そして、なぜ失敗したのかを共に分析し、今度こそ成功するための最適なロードマップを描くお手伝いをします。
再び失敗しないために。その確かな一歩を、私たちと一緒に踏み出しませんか?
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