
【この記事はこんな方に向けて書いています】
- SESの「中抜き」という言葉に、不信感や不安を抱いているエンジニアの方
- これからIT業界を目指し、SES企業への就職・転職を考えている方
- SESのビジネスモデルを正しく理解し、自分のキャリアに活かしたい方
- 「SESって搾取されるんでしょ?」という周りの声に、うまく説明できずモヤモヤしている方
「SESって、クライアントからの高い単価のほとんどを会社に中抜きされて、エンジニアには少ししか給料が支払われないビジネスでしょ?」
IT業界にいると、一度はこんな言葉を耳にしますよね。まるで自分が不当に搾取されているかのような響きがあり、良い気持ちはしないはずです。
でも、安心してください。結論から言えば、SESは『中抜き』を目的としたビジネスモデルではありません。
この「中抜き」という誤解は、SESの契約形態や、会社がエンジニアのために負担しているコストが見えにくいことから生まれています。この記事では、なぜSESが「中抜き」ではないのか、その理由をビジネスの仕組みや具体的なデータ、図解を交えながら、誰にでも分かりやすく徹底的に解説します。
この記事を読み終える頃には、「なるほど、単価と給与の差額にはそういう理由があったのか!」と心のモヤモヤが晴れ、SESという働き方を正しく理解し、キャリアを築くための強力な選択肢として捉え直せるようになっているでしょう。
結論:SESは「中抜き」ではなく、エンジニアの価値を最大化するビジネスパートナー
まず大前提として、SES(システムエンジニアリングサービス)は、違法なピンハネや、単なる人材紹介とは全く異なります。
SES企業は、エンジニアに「安定した雇用」と「多様なキャリアの機会」を提供し、クライアント企業に「必要な技術力」を柔軟に提供します。この両者のニーズを繋ぎ、IT業界全体を支える重要な役割を担っている、極めて合理的なビジネスモデルなのです。
よくある誤解は、「クライアントが支払う月額80万円の単価のうち、自分の給料は30万円。差額の50万円は全部会社の儲けだ!」というものです。しかし、これはお金の流れの表面しか見ていないために起こる、大きな勘違いです。
例えるなら、プロのスポーツ選手とエージェントの関係に似ています。選手は最高のパフォーマンスをすることに集中し、エージェントは選手の代わりにチームとの契約交渉、メディア対応、スポンサー探しなどを行いますよね。そして、契約金の中からエージェントに手数料を支払います。これを「エージェントが中抜きしている!」と批判する人はいないはずです。
SES企業も同じです。エンジニアが開発業務に集中できるよう、営業活動から契約、労務管理、キャリア支援まで、あらゆる面でサポートしています。その対価として、クライアントからの単価とエンジニアへの給与の間に「差額(マージン)」が生まれるのは、ビジネスとして当然の仕組みなのです。
単価と給与の差額の正体は?SES企業の「マージン」を徹底解剖!
では、その「差額」、つまりSES企業のマージン(経費や利益)は、一体何に使われているのでしょうか?その内訳を知れば、「中抜き」という言葉がいかに実態と離れているかが分かります。
クライアントが支払う単価を100%とした場合、その使い道は概ね以下のようになっています。この割合は会社の制度(還元率)によって変動しますが、一般的なモデルとして見ていきましょう。
【図解:SES単価(100%)の使い道モデル】
項目 | 割合(目安) | 内容 |
エンジニアの給与・賞与 | 約50%~70% | あなたに直接支払われるお金です。いわゆる「還元率」と呼ばれる部分です。 |
社会保険料(会社負担分) | 約15% | 健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険など。法律に基づき、会社が給与とは別にあなたの分を負担しています。 |
会社の運営経費 | 約10%~20% | 営業担当や管理部門の人件費、オフィスの家賃、採用広告費、交通費や福利厚生費など、事業を継続するための費用です。 |
待機時の給与保証費用 | 変動 | 案件と案件の間に発生する「待機期間」中も、会社はあなたに給与を支払います。そのための費用です。 |
教育研修費用 | 変動 | スキルアップのための研修や、資格取得支援制度などに使われる費用です。 |
会社の営業利益 | 約5%~10% | すべてのコストを支払った後に残る、会社の純粋な利益です。 |
どうでしょうか?
「差額」の大部分は、あなたの雇用を守るための社会保険料や、あなたをサポートしてくれる営業担当や管理部門のスタッフの人件費、そして会社の未来への投資などに使われていることが分かります。
特に重要なのが、社会保険料です。これは給与の約15%にもなる大きな金額で、会社が全額負担しています。もしあなたが個人で働くフリーランスなら、これをすべて自分で支払わなければなりません。
つまり、単価と給与の差額は、決して不当に搾取されているわけではなく、あなたがエンジニアとして安心して働き、成長し続けるための「必要経費」なのです。
あなたが知らないだけかも?SES企業が提供する5つの重要なバリュー
マージンの内訳が分かったところで、今度はもっと具体的に、SES企業があなたにどんな価値(バリュー)を提供してくれているのかを深掘りしていきましょう。フリーランスエンジニアと比較すると、そのありがたみがよく分かります。
1. 自分で仕事を探さなくていい「最強の営業力」
フリーランスエンジニアが最も苦労するのが「営業活動」です。自分で人脈を作り、ポートフォリオを整備し、企業に売り込みをかけ、単価交渉をし、契約書を交わす…これらすべてを開発業務と並行して行うのは至難の業です。
SES企業に所属していれば、この営業活動をすべて代行してくれます。あなたのスキルやキャリアプランに合った案件を、会社の持つ幅広いネットワークの中から見つけ出し、最適な条件で参画できるよう交渉までしてくれるのです。あなたは、面談で自分のスキルをアピールすることに集中するだけでOK。これは、計り知れない価値だと言えるでしょう。
2. 案件がなくても給料がもらえる「雇用の安定性」
IT業界のプロジェクトには必ず終わりがあります。フリーランスの場合、プロジェクトが終了すれば、次の案件が見つかるまで収入はゼロになります。この「収入が途絶えるリスク」は、常に大きな不安要素です。
一方、SESの正社員であれば、万が一案件が途切れても、「待機期間」として会社から給与が支払われます。このセーフティーネットがあるおかげで、あなたは安心して次のプロジェクトに備えたり、スキルアップのための学習に時間を使ったりすることができます。この安定感こそ、SES最大のメリットと言っても過言ではありません。
3. 市場価値を高める「キャリア形成のサポート」
「このままで、将来もエンジニアとして活躍し続けられるだろうか?」 多くのエンジニアが抱えるこの悩みに対しても、SES企業は心強い味方になります。
営業担当や専門のキャリアアドバイザーが、あなたのスキルセットや将来の目標をヒアリングし、「次はこんな技術が身につく案件に挑戦してみませんか?」「この資格を取れば、もっと単価の高い案件を狙えますよ」といったように、市場の動向を踏まえた具体的なキャリアパスを提案してくれます。
会社によっては、資格取得費用を全額補助してくれたり、最新技術の研修を無料で受けられたりする制度も充実しています。一人で悩むことなく、プロと一緒にキャリア戦略を練られるのは大きな強みです。
4. 面倒な手続き一切不要!「事務作業の完全代行」
フリーランスになると、クライアントへの請求書発行、入金確認、そして年に一度の確定申告など、煩雑な事務作業が山積みになります。これらは意外と時間と手間がかかり、開発に集中する時間を奪ってしまいます。
SES企業に所属していれば、こうした面倒な事務作業はすべて会社の経理や総務部門がやってくれます。あなたは毎月、決められた日に自動的に給与が振り込まれるのを待つだけ。エンジニアが本来の業務である「ものづくり」に100%集中できる環境を提供してくれるのも、企業の重要な役割なのです。
5. 言いにくいことも代わりに交渉!「現場トラブルの緩衝材」
客先常駐という働き方では、クライアントとの間で認識の齟齬が生まれたり、過度な残業を求められたりといったトラブルが発生することもあります。そんな時、個人でクライアントに直接意見を言うのは、なかなか勇気がいるものです。
SES企業は、そんな時のための「交渉代理人」です。あなたが抱えている問題や懸念を営業担当に伝えれば、あなたとクライアントの間に入り、角が立たないように調整・交渉を行ってくれます。エンジニアを守り、働きやすい環境を維持するという重要な役割を担っているのです。
なぜSESは「中抜き」と批判されやすいのか?その根深い理由
これだけの価値を提供しているにもかかわらず、なぜSESは「中抜き」と批判されてしまうのでしょうか。
その最大の原因は、IT業界特有の「多重下請け構造」にあります。
大手SIerが元請けとして受注した大規模なプロジェクトが、2次請け、3次請け、4次請け…と、複数の会社を経由して発注されていくことがあります。この過程で、各社がそれぞれマージンを取るため、商流が深くなればなるほど、末端で働くエンジニアの単価は低くなってしまうのです。
これは、SESというビジネスモデル自体が悪いわけではなく、日本のIT業界が長年抱えてきた構造的な問題です。エンジニアが自分の単価を知らされず、不当に低い給与で働かされているケースも、残念ながら一部の悪質な企業によって引き起こされています。
こうした一部の事例が、「SES = 中抜き・搾取」というネガティブなイメージを業界全体に広めてしまったのです。
まとめ:SESは「中抜き」ではない。賢く活用してキャリアを加速させよう
今回は、「SESは中抜き」という意見は誤解である、ということを様々な角度から解説してきました。
最後に、重要なポイントを振り返りましょう。
- SESは「中抜き」ではなく、エンジニアに安定と成長機会を提供し、その対価として正当なマージンを得るビジネスモデルである。
- 単価と給与の差額は、社会保険料、営業・管理コスト、待機時の給与保証など、エンジニアを支えるための必要経費に使われている。
- SES企業は、営業代行、雇用の安定、キャリア支援など、フリーランスにはない多くの価値を提供してくれる、エンジニアのビジネスパートナーである。
- 問題なのはSESモデルそのものではなく、一部の悪質な企業や、深い多重下請け構造である。
「中抜き」という言葉のイメージだけで、SESを敬遠してしまうのは非常にもったいないことです。その仕組みを正しく理解し、還元率が高く、サポート体制が手厚い「優良なSES企業」をパートナーとして選ぶことができれば、SESはあなたのエンジニアとしてのキャリアを飛躍的に加速させる、最高のプラットフォームになり得ます。
この記事が、あなたのSESに対する見方を変え、より良いキャリアを築くための一助となれば幸いです。
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