【絶対NG】SESの「二重派遣」とは?知らないうちに加担しないための自衛策を元エンジニアが解説

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【この記事はこんな方に向けて書いています】

  • 「自分の所属はA社のはずなのに、B社の人として現場で働いている…」という状況に疑問を感じているエンジニアの方
  • SES業界の「商流」や「多重下請け構造」の裏側を知りたい方
  • 自分の給料が不当に”中抜き”されていないか不安な方
  • 違法行為に巻き込まれず、健全な環境でエンジニアとして成長したいと考えている方

「A社と派遣契約を結んで客先常駐しているはずなのに、なぜか現場ではB社の社員から仕事の指示を受けている」「自分の会社の営業担当のほかに、もう一人、知らない会社の営業担当が打ち合わせに同席してくる」…もし、あなたの働く現場でこんな奇妙なことが起きているとしたら、それは「二重派遣」という、極めて悪質な違法行為の真っ只中にいるサインかもしれません。これは、あなたの大切な給料が幾重にもわたって不当に搾取され、万が一トラブルが起きた時に誰も責任を取ってくれないという、エンジニアを極度の危険に晒す罠です。私が見聞きしてきた業界の裏話や具体的な事例を交えながら、この「二重派遣」という闇深い仕組みと、その罠から自分の身を守るための具体的な自衛策を、あなたの味方として徹底的に解説します。


結論から言うと「二重派遣」は100%アウトな違法行為です

まず、言葉を濁さずにはっきりと言います。「二重派遣」は、議論の余地なく100%違法です。これは労働者派遣法で明確に禁止されており、「知らなかった」「業界の慣習だった」という言い訳は一切通用しません。

では、その「二重派遣」とは具体的にどんな状態を指すのでしょうか。

簡単に言うと、派遣会社(A社)から派遣先(B社)に派遣されたあなたを、その派遣先(B社)が、あなたの同意なく勝手に別の会社(C社)に「又貸し」して、C社の指揮命令の下で働かせることです。

なぜ、これが法律で厳しく禁止されているのか?理由は主に2つあり、どちらも働くエンジニアの権利を根底から脅かす、非常に深刻なものです。

  1. 労働者の賃金が不当に搾取される(中抜き地獄) 間に介在する会社が増えれば増えるほど、その会社は自社の利益(マージン)を上乗せします。本来、あなたが現場で生み出している価値の多くが、実際に働いてもいない中間業者によって吸い上げられ、あなたの手元に届く給料はどんどん少なくなっていきます。
  2. 責任の所在が完全に崩壊する もしあなたが現場で過労によって倒れたり、大きなミスをして損害を与えてしまったりした場合、誰が責任を取るのでしょうか?あなたを雇用しているA社?あなたを又貸ししたB社?それとも、実際にあなたに指示を出していたC社?責任の所在が極めて曖昧になり、結果として最も立場の弱いあなたが、誰からも保護されずに見捨てられてしまう危険性が非常に高いのです。

このように、二重派遣はエンジニアの生活と安全を脅かす、絶対に許されない行為なのです。


なぜ「二重派遣」という魔物が生まれるのか?IT業界の深い闇

「そんな悪質な違法行為が、なぜ今もなくならないの?」と不思議に思いますよね。その背景には、日本のIT業界が長年抱え込んできた「深刻な人手不足」「根深い多重下請け構造」という、2つの大きな問題が横たわっています。

大手Slerなどが大規模なシステム開発案件を受注すると、よくあるピラミッド型の構造が生まれます。

[元請け企業(大手Slerなど)] 「大型案件を受注したけど、開発するエンジニアが全然足りない!協力会社さん、スキルに合う優秀な人材をすぐに集めてください!」

[二次請け企業] 「元請けさんから無茶な要求が来た…。ウチにもそんな都合のいいスキルを持ったエンジニアはいない。そうだ、昔から付き合いのあるA社(派遣会社)に頼んで、A社の派遣社員を『うちの社員』ということにして、三次請けのB社(実際の現場)に送り込んでしまおう!」

[三次請け企業(あなたが実際に働く現場)] 「二次請けさんから来たエンジニアの方ですね。お待ちしていました。では、早速ですがこちらのタスクをお願いします」

この流れの中で、何が起きているかお分かりでしょうか。

あなたはA社から派遣されているにもかかわらず、実際には二次請け企業を素通りし、三次請けであるB社の指揮命令下で働くことになります。あなたの雇用主はA社、そして指揮命令者はB社。その間に、本来は何の権限もないはずの二次請け企業が介在し、あなたの人件費からマージンだけを抜き取っていく。これが、二重派遣という魔物が生まれる典型的なカラクリです。

経済産業省の調査などを見ても、日本のIT市場規模は拡大を続けていますが、同時にIT人材の不足は2030年には最大で約79万人に達すると予測されています。この「人が欲しい企業」と「人を供給して儲けたい企業」の思惑が複雑に絡み合い、コンプライアンス意識が欠如した結果、法律の網の目をかいくぐるような二重派遣が後を絶たないのです。


【実例】これってヤバい?二重派遣の危険信号5パターン

二重派遣は、巧妙に隠蔽されていることが多く、エンジニア自身がその違法性に気づかないまま働かされているケースも少なくありません。しかし、その歪んだ契約関係は、必ず現場での「不自然さ」として表に出てきます。

以下に挙げるのは、私自身が経験したり、同僚から相談されたりした、典型的な二重派遣の危険信号です。もし一つでも当てはまるなら、あなたの現場はかなり危険な状態かもしれません。

  1. あなたの知らない「営業担当」が登場する あなたを雇用しているA社の営業担当とは別に、なぜかB社の営業担当者を名乗る人物が、クライアントとの面談や月次の定例会に当然のように同席してくる。そして、あなたを「弊社の優秀なエンジニアです」と紹介する。
  2. 「現場用の名刺」を使うよう指示される 入社時に渡された自社(A社)の名刺とは別に、「現場ではこちらの名刺を使ってください」と、B社のロゴが入った名刺を渡される。これは、あなたの所属を偽るための、極めて悪質な手口です。
  3. 勤怠報告や業務報告のフローが異常に複雑 勤怠時間を、実際に働いているC社のシステムに入力し、さらにそれをB社指定のExcelフォーマットに転記し、最後に自社(A社)の勤怠システムにも入力する…といった、意味の分からない多重報告を強いられる。
  4. 契約書上の「派遣先」と「指揮命令者」が別人 雇用契約書や就業条件明示書に記載されている「派遣先企業」はB社なのに、日々の業務であなたに指示を出しているチームリーダーはC社のプロパー社員である。これは、契約と実態が完全に乖離している証拠です。
  5. 現場の人があなたの所属会社を勘違いしている 現場の同僚や上司との会話の中で、彼らがあなたのことをB社の社員だと完全に思い込んでいることが判明する。「あれ、A社から来てるんじゃなかったでしたっけ?」と聞いた途端、B社の営業担当が慌てて割って入って話を逸らそうとする。

これらのサインは、あなたというエンジニアが、まるでモノのように知らない会社の間で「又貸し」されていることを示す、動かぬ証拠なのです。


二重派遣がエンジニアのキャリアを破壊する、たった1つの深刻な理由

二重派遣の最大の問題は、違法性や搾取構造だけではありません。それは、あなたのエンジニアとしての市場価値が、誰からも正当に評価されなくなるという、キャリアにおける致命的な問題を引き起こすことにあります。

考えてみてください。

又貸ししているB社にとって、あなたは「一時的に他社から借りてきた助っ人」に過ぎません。あなたの5年後、10年後のキャリアプランを真剣に考え、スキルアップのための投資をしようなどとは、微塵も思っていません。契約期間が終われば、それまでの関係です。

一方で、あなたの本当の雇用主であるA社は、間にB社が入っているため、あなたが現場でどんな技術を使い、どんな貢献をし、どんな評価を受けているのかを正確に把握することができません。そのため、あなたの頑張りを正しく評価し、昇給や昇進に反映させたり、次のキャリアステップを一緒に考えたりすることが極めて困難になります。

その結果、あなたはどうなるでしょうか?

B社からもA社からもキャリアを放置され、誰からも正当な評価を受けることなく、ただ目の前の作業をこなすだけの「都合のいい労働力」として、時間だけが過ぎていく…。これが、二重派遣がエンジニアのキャリアを静かに、しかし確実に破壊していく恐ろしいメカニズムなのです。


今すぐできる!悪質な二重派遣から自分の身を守るためのアクションリスト

もし、この記事を読んで「自分の現場がまさにそうだ…」と青ざめたとしても、決して泣き寝入りする必要はありません。あなたには、自分自身の権利とキャリアを守るための具体的な対抗手段があります。

  1. 【契約前】「商流」を臆せずに確認する これからSES企業に入ろうとしている、あるいは新しいプロジェクトの面談を受けようとしているなら、必ず「今回のプロジェクトの商流(契約関係)について教えていただけますか?」と質問しましょう。エンドクライアントとあなたの会社の間に、何社介在しているのかを明確にすることが重要です。この質問を濁したり、不機嫌になったりするような会社は、その時点で危険信号です。
  2. 【就業中】契約書を武器として再確認する 手元にある雇用契約書や就業条件明示書をもう一度、じっくりと読み返してください。そこに記載されている「派遣先企業名」「就業場所」「指揮命令者」と、現在のあなたの働き方の実態が一致しているかを確認します。もし食い違いがあれば、それが違法性を指摘するための強力な武器になります。
  3. 【異常察知後】冷静に、そして徹底的に証拠を集める 前の章で挙げた「危険信号」に気づいたら、冷静に証拠集めを始めましょう。あなたをB社の社員として紹介しているメール、渡された偽りの名刺、複雑な勤怠報告の指示書など、客観的な証拠をすべて記録・保管してください。
  4. 【相談】一人で戦わず、然るべき場所に助けを求める 証拠が揃ったら、まずは自社(A社)のコンプライアンス部門や、信頼できる上司に相談しましょう。もし会社が組織ぐるみで隠蔽しようとするなら、ためらわずに外部機関の力を借りてください。労働局の「総合労働相談コーナー」は、無料で匿名でも相談に乗ってくれます。
  5. 【最終手段】違法な会社からは、一刻も早く脱出する 忘れないでください。二重派遣という違法行為に平気で手を染めるような会社は、そもそもあなたのキャリアを預けるに値しません。相談や対処と並行して、すぐに転職活動を始めましょう。あなたを守ってくれない会社に、あなたが義理立てする必要など全くないのです。

まとめ:健全なSES企業を見極め、搾取されないエンジニアになろう

二重派遣は、SES業界の多重下請け構造という闇が生み出した、エンジニアの尊厳と未来を奪う、絶対に許されない違法行為です。

しかし、その一方で、エンジニアのキャリアを真剣に考え、クリーンな契約で成長の機会を提供してくれる、健全なSES企業もたくさん存在します。

大切なのは、私たちエンジニア自身が正しい知識を身につけ、目先の仕事内容だけでなく、「契約の透明性」という視点を持って、働く会社やプロジェクトを厳しく見極めることです。

この記事が、あなたが悪質な罠を回避し、搾取されることなく、一人のプロフェッショナルとして正当に評価される環境で働くための一助となることを、心から願っています。

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