
【この記事はこんな方に向けて書いています】
・スタートアップのCFOや経営幹部として、財務管理の基礎を固めたい方
・バランスシート(B/S)とキャッシュフロー計算書(C/F)を連動させて資金繰りを最適化したい方
・財務モデルの精度を上げて、投資家や銀行への説明をスムーズに行いたい方
「売上が伸びてもキャッシュ残高が増えない…」「年度末に資金ショートしそうでヒヤヒヤする…」――そんな悩みを抱えるスタートアップは少なくありません。数字上の利益(P/L)と実際の資金変動(C/F)は、B/Sの仕組みを介してつながっています。本記事では「なぜ利益が現金にならないのか」「B/Sの勘定科目がどのようにC/Fに影響するのか」を、具体的な数値例を用いて徹底解説。CFO経験者のノウハウを踏まえた“つなぎ方”のコツまでお伝えします!
1.まずは財務三表の関係をおさらい
- P/L(損益計算書):期間中の売上・費用・利益を示す
- B/S(貸借対照表):期末時点の資産・負債・純資産を示す
- C/F(キャッシュフロー計算書):期間中の現金の増減を示す
P/Lの最終損益(当期純利益)はB/Sの純資産を増減させますが、現金残高はC/Fのキャッシュ残高が示すため、両者は直接リンクしません。そこでC/F計算書では、P/Lの「利益」を「営業活動」「投資活動」「財務活動」の3区分に分け、B/Sの増減科目を使って調整します。
2.C/F計算書の3区分とB/S科目のつながり
(1)営業活動によるキャッシュフロー
P/L上の当期純利益をスタート地点に、B/S上の勘定科目変動で“実際の手許現金”に近づけます。
- 加算項目:減価償却費+800万円、引当金増減▲100万円
- 運転資本変動:売掛金増加▲1,200万円、買掛金増加+700万円、棚卸資産増加▲500万円
営業CF=当期純利益(+500万円)+減価償却費(+800) ▲売掛金増加(▲1,200)+買掛金増加(+700)▲棚卸増加(▲500)▲引当金増減(▲100) =+200万円営業CF = 当期純利益(+500万円)+減価償却費(+800) ▲ 売掛金増加(▲1,200)+ 買掛金増加(+700)▲ 棚卸増加(▲500)▲ 引当金増減(▲100) =+200万円 営業CF=当期純利益(+500万円)+減価償却費(+800) ▲売掛金増加(▲1,200)+買掛金増加(+700)▲棚卸増加(▲500)▲引当金増減(▲100) =+200万円
営業CFがプラス200万円なら「利益は出ているが、売掛の回収や在庫増で手元現金は200万円しか増えていない」という実態が把握できます。
(2)投資活動によるキャッシュフロー
設備投資や有価証券取得など、固定資産・金融資産のB/S科目増減が反映されます。
- 例:機械設備購入▲1,000万円、有価証券売却+300万円
投資CF=▲700万円投資CF = ▲700万円投資CF=▲700万円
(3)財務活動によるキャッシュフロー
借入金・社債・株式発行など、資本・負債の増減を示します。
- 例:増資による資本金+1,500万円、借入金返済▲200万円
財務CF=+1,300万円財務CF = +1,300万円財務CF=+1,300万円
3.B/SとC/Fの「科目リンク表」
C/F区分 | B/S増加科目 | キャッシュ影響 |
営業CF | 売掛金↑、在庫↑ | 手元現金↓ |
買掛金↑、前受金↑ | 手元現金↑ | |
減価償却費↑ | ノンキャッシュ→加算 | |
投資CF | 有形固定資産↑ | 手元現金↓ |
有価証券↑ | 手元現金↓(取得時) | |
有価証券↓ | 手元現金↑(売却時) | |
財務CF | 資本金↑、長期借入↑ | 手元現金↑ |
借入金↓、配当金↓ | 手元現金↓ |
これをもとにP/Lの数字とB/Sの増減を組み合わせると、C/Fの各区分が“どうしてその数字になるのか”が即理解できます。
4.実践例:スタートアップの資金繰りモデル
前提
- 当期純利益:▲100万円(赤字)
- 減価償却費:300万円
- 売掛金増加:▲500万円
- 買掛金増加:200万円
- 棚卸資産増加:▲150万円
- 設備投資:▲800万円
- 増資:+1,200万円
計算
- 営業CF
−100+300−500+200−150=−250万円-100 + 300 – 500 + 200 – 150 = -250万円−100+300−500+200−150=−250万円
- 投資CF
−800万円-800万円−800万円
- 財務CF
+1,200万円+1,200万円+1,200万円
- トータルCF
−250−800+1,200=+150万円-250 – 800 + 1,200 = +150万円−250−800+1,200=+150万円
結果、赤字でも財務CF+増資があるため、手元現金は150万円増となり、資金繰りはショートせずに乗り切れるモデルです。
5.CFO視点のチェックリスト
- 営業CFが継続してマイナスになっていないか
→営業赤字が続く場合、根本施策の見直し必須。 - 設備投資・M&Aによる投資CFの負担
→キャッシュバッファ(3ヶ月分固定費)を確保。 - 財務CFの返済スケジュール管理
→借入金返済期にキャッシュが枯渇しないか試算。 - B/S主要項目の推移グラフ化
→売掛回転日数、棚卸回転日数、支払回転日数を月次で可視化。 - ストレステスト
→売上10%減、設備故障などのシナリオでCFへの影響をシミュレーション。
キャッシュは会社を動かす血液。P/Lだけでなく、B/SとC/Fを“つなぐ”財務モデルを扱えるCFOは、資金繰りの荒波を乗り越える強力な舵取り役になります。ぜひ本記事を参考に、B/S科目とC/F区分を自在につなぎ、スタートアップの財務基盤を盤石にしてくださいね!
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