
【この記事はこんな方に向けて書いています】
- 30代後半になり、同期が管理職に昇進していく中で、キャリアに焦りを感じている方
- プレイヤーとしては一流だと自負しているが、なぜか昇進の声がかからない方
- この先のキャリアパスが見えず、漠然とした不安を抱えている方
- 管理職に求められる本当の役割と、昇進する人の思考法を論理的に理解したい方
30代後半。豊富な経験とスキルを兼ね備え、現場では「エース」として頼られる存在。あなたは、間違いなく会社の成長を支える、重要なプレイヤーの一人でしょう。 しかし、ふと周りを見渡した時、かつては同じラインにいたはずの同期が、次々と「課長」「マネージャー」という新しいステージに進んでいる。それに引き換え、自分は…。
もし、あなたがこのような状況にあるのなら、それはキャリアにおける、極めて重要な「分岐点」に立っているサインです。厚生労働省の調査によれば、日本企業で「課長」に昇進する平均年齢は30代後半から40代前半に集中しており、この時期の過ごし方が、その後のキャリアを大きく左右します。
では、同じように優秀なはずのプレイヤーの間で、なぜこの「管理職の壁」が生まれるのでしょうか。 それは、例えるなら、「名プレイヤー」と「名監督」の違いに似ています。 個人の力でスーパーゴールを決める(個人の業績を上げる)のが「名プレイヤー」。 チーム全体を勝利に導く戦略を立て、選手を育成するのが「名監督」。
30代後半で昇進の壁にぶつかる人の多くは、いつまでも「名プレイヤー」であろうとし続けるのです。彼らは、より多くの、より華麗なゴールを決めることこそが、監督への道だと信じています。しかし、経営陣が探しているのは、次のスーパーゴールを決めてくれる選手ではなく、チームを次のレベルへと引き上げてくれる、新しい「監督」なのです。
この記事では、あなたが「永遠の名プレイヤー」で終わらないために、管理職になれない人に共通する「3つの思考の壁」を、コンサルタントの視点で徹底的に分析します。そして、その壁を乗り越え、自らを「監督候補」へと変えるための、具体的なアクションプランを提示します。
大前提:管理職とは「役割」ではなく「OS」の入れ替えである
3つの共通点を解説する前に、まず、このキャリアの移行期における、最も重要な大前提を理解する必要があります。 それは、プレイヤーから管理職への変化は、単なる「役割(Role)」の変更ではなく、思考の根本である「OS(オペレーティング・システム)」を、全く新しいものに入れ替えるほどの、劇的な変化であるということです。
- プレイヤー用OS: 自分のパフォーマンスを最大化することを目的に設計されている。KPIは「個人の成果」。
- 管理職用OS: チームのパフォーマンスを最大化することを目的に設計されている。KPIは「チームの成果」。
これまで、あなたがプレイヤーとして成功するために磨き上げてきたスキル(例えば、誰よりも速くタスクをこなす、一人で難題を解決する)は、管理職用OSの上では、時としてバグ(不具合)を引き起こすことさえあるのです。このOSの入れ替えに成功するかどうかが、昇進の分かれ道となります。
管理職になれない人に共通する「3つの思考の壁」
では、OSの入れ替えを阻む「思考の壁」とは、具体的に何なのでしょうか。
共通点1:いつまでも「エースプレイヤー」でいようとする
これは、最も多くの優秀なプレイヤーが陥る罠です。
- 思考パターン: 「自分がやった方が、速くて、質も高い」「部下に任せると、結局手直しが必要になるから二度手間だ」。このように考え、重要な仕事や難しい仕事を、すべて自分で抱え込んでしまいます。その結果、チームのヒーローとして、一時的な賞賛を浴びるかもしれません。
- 経営陣からの見え方: しかし、経営陣の目には、その姿は全く違って映っています。「彼は、チームのアウトプットをスケール(拡大)させることができない」「彼がボトルネックになって、チーム全体の成長が止まっている」「彼が休んだら、このチームは機能しないのか?」。 管理職に求められるのは、自分がいなくても、チームが成果を出し続けられる「仕組み」を作ることです。自分がスーパーゴールを決めることではありません。部下にパスを出し、シュートを打たせ、成功体験を積ませることで、チーム全体の得点力を向上させることなのです。
共通点2:視野が「自分のチーム」で止まっている
プレイヤーとして優秀な人は、自分のチームの目標達成に対する意識は非常に高いものがあります。しかし、その視野がチームの内側だけで完結してしまっているケースが散見されます。
- 思考パターン: 自分のチームのKPI達成や、業務効率化が最優先。他部署との連携や、会社全体の戦略といった、より大きな視点が欠けています。自分のチームにとっては「最適」な行動が、隣の部署にとっては「迷惑」になっていたり、会社全体の方向性とはズレていたりすることに気づけません。
- 経営陣からの見え方: 管理職とは、会社の経営戦略を、現場の戦術へと翻訳し、実行する役割を担います。そのためには、常に経営者と同じ視点で、会社全体を俯瞰している必要があります。
プレイヤーの視点 | 管理職に求められる視点 | |
関心事 | 担当業務、チームの目標達成 | 全社の経営戦略、他部署との連携 |
時間軸 | 今月、今四半期 | 来年度、3年後 |
見る方向 | 内向き(チーム内部) | 外向き(顧客、市場、競合)、上向き(経営方針) |
評価される行動 | 担当業務で高い成果を出す | 担当領域を超えて、会社全体の利益に貢献する |
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自分のチームのことしか語れない人材を、会社全体の舵取りを任せる管理職に任命することは、経営陣にとってあまりにもリスクが高い判断なのです。
共通点3:過去の成功体験に固執する
10年、15年とキャリアを積んできたあなたには、数多くの成功体験があるはずです。その経験は、あなたの血肉であり、自信の源でしょう。しかし、その輝かしい過去が、未来への扉を閉ざす「重石」になってしまうことがあります。
- 思考パターン: 新しい方針やツールが導入される際に、「昔は、このやり方でうまくいっていた」「私の経験上、それはうまくいかない」と、無意識に抵抗してしまう。自分の成功パターンが、唯一の正解だと信じて疑いません。
- 経営陣からの見え方: ビジネス環境が目まぐるしく変化する現代において、管理職に求められる最も重要な役割の一つは、チームを率いて「変化」に対応し、未来を創り出すことです。過去のやり方を守る「番人」ではありません。 変化に対して抵抗する姿は、経営陣の目に「学習意欲がない」「新しい環境に適応できない」と映ってしまいます。彼らが探しているのは、過去の地図を頼りに歩き続けるベテランではなく、未知の荒野を切り拓くための、新しい地図をチームと共に描けるリーダーなのです。
「監督候補」になるための3つの思考転換
では、どうすればこれらの壁を乗り越え、経営陣の目に「次の監督候補」として映るようになるのでしょうか。そのために今日から実践すべき、3つの思考転換を提案します。
1. 自分のKPIを「個人」から「チーム」へ
自分の仕事の評価基準を、「自分がどれだけ成果を出したか」から、「自分がチームメンバーに、どれだけ成果を出させることができたか」へと、意識的に切り替えましょう。具体的には、後輩の相談に積極的に乗り、自分のノウハウを惜しみなく共有し、彼らの成功を自分の成功として喜ぶ。その姿勢が、あなたのリーダーシップの第一歩です。
2. 視点を「1段上」と「横」へ
日々の業務を行う際に、常に「もし自分が、今の上司だったらどう判断するか?」「この仕事は、隣の部署や、会社全体の目標にどう繋がっているのか?」と、一つ上の視点、そして横の視点で物事を考える癖をつけましょう。会社のIR情報や中期経営計画に目を通すことも、視野を広げる上で非常に有効です。
3. 口癖を「昔は…」から「未来は…」へ
会議や議論の場で、「私の経験では…」と過去を語るのではなく、「今後、市場がこう変化することを見据えると、私たちは…」と、未来を語ることを意識しましょう。新しい取り組みに対しては、まず肯定的に受け止め、その成功確率を高めるための建設的な意見を述べる。その姿勢が、あなたを「未来を創る側」の人間として印象付けます。
最後に:最高のプレイヤーの、その先へ
30代後半という時期は、キャリアにおける「第二の思春期」のようなものかもしれません。プレイヤーとしての自分に別れを告げ、新しい自分へと脱皮しなければならない、痛みを伴う時期です。
しかし、その壁を乗り越えた先には、一人のエースとしてゴールを決める喜びとは、また質の違う、より大きく、より持続的な充実感が待っています。それは、チームを育て、勝利へと導き、自分がいなくても回り続ける「遺産(レガシー)」を創り出すという、監督だけが味わえる喜びです。
昇進の打診は、ある日突然やってくるものではありません。あなたが「監督」としての振る舞いを始めたその日から、経営陣は、あなたの変化に気づき、静かに評価をしているのです。 最高のプレイヤーの、その先へ。あなたの新しいゲームは、もう始まっています。
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