エンジニアの成長を阻む営業、放置が会社を滅ぼす理由

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【この記事はこんな方に向けて書いています】

  • 優秀なエンジニアのはずなのに、なぜか自社の開発チームの生産性が低いと悩む経営者・マネージャーの方
  • 営業が持ってくる無茶な案件に疲弊し、自身の成長を感じられずにいるエンジニアの方
  • 営業と開発の間に深い溝があり、会社の将来に不安を感じている方
  • 組織の問題を、感情論ではなく、構造的に理解し、本質的な解決策を導きたい方

「我が社の競争力の源泉は、優秀なエンジニア組織だ。彼らの成長のため、最新のPCを支給し、研修制度を充実させ、フリードリンクも完備した」 多くの経営者が、このようにエンジニアの「働く環境」の整備に力を注ぎます。しかし、もし私が「エンジニアの成長を本当に願うなら、まず最初にすべきは、成果の出ない営業担当者を組織から外すことです」と進言したら、あなたはどう思いますか?

これは、決して過激な意見や、単なる精神論ではありません。 例えるなら、あなたの会社は「最高の料理人(エンジニア)を揃えた、三ツ星レストラン」です。しかし、そのレストランのウェイター(営業)が、お客様の注文をろくに聞かず、「メニューにない料理でも、全部できます!」とその場で約束し、アレルギー情報(重要な制約条件)も厨房に伝えず、無理な提供時間(納期)を勝手に請け負っていたとしたら、どうなるでしょうか。

厨房では、本来創るべき創造的な料理(製品開発)を中断し、その場しのぎの、質の低い料理(技術的負債)を作ることに、全リソースを奪われます。結果、お客様は不満を抱き、料理人たちは疲弊し、新しいレシピを学ぶ(成長する)時間も気力も失い、店の評判は地に落ちていく。

この記事では、なぜ「目的を欠いた営業活動」が、エンジニアの成長を阻害し、ひいては会社全体の未来を蝕んでいくのか、その「負のスパイラル」の構造を、コンサルタントの視点で徹底的に解剖します。そして、その連鎖を断ち切り、営業と開発が共に成長するための、具体的で本質的な解決策を提示します。

問題の構造:なぜ「営業」が「エンジニア」の成長を止めるのか?

問題の本質は、営業部門が、会社というシステムにおける「情報の入り口」であるという点にあります。顧客の課題やニーズという「原材料」を、市場から仕入れてくるのが営業の役割です。もし、この原材料の質が悪ければ、どれだけ優秀なエンジニア(料理人)がいても、決して良い製品(料理)を生み出すことはできません。

質の低い営業活動は、以下の「負のスパイラル」を生み出し、組織全体を機能不全に陥らせます。

  1. 質の低い受注: 営業が、顧客の課題を深く理解しないまま、「できます」「やります」で安易に案件を受注する。
  2. エンジニアの疲弊: エンジニアは、曖昧な要件と非現実的な納期の中で、その場しのぎの「ツギハギだらけの改修」を強いられる。
  3. 製品価値の低下: 新規開発や本質的な改善が後回しになり、製品は「技術的負債」の塊と化す。イノベーションが止まり、製品の競争力が低下する。
  4. 成長機会の枯渇: エンジニアは、新しい技術を学んだり、設計を見直したりする時間を奪われ、成長実感を得られずにバーンアウト(燃え尽き症候群)する。優秀なエンジニアほど、この環境に見切りをつけて退職していく。
  5. 業績の悪化: 製品の魅力が低下し、顧客離れが加速。業績が悪化する。
  6. さらなる質の低い受注: 焦った営業は、「どんな案件でもいいから取ってこい」というプレッシャーから、さらに無茶な案件に飛びつき、スパイラルは加速する。

組織を蝕む「質の低い営業」がもたらす3つの毒

この負のスパイラルの中で、具体的にエンジニア組織に注入される「毒」は、大きく3つに分類できます。

毒1:「できます」が生む、技術的負債という毒

これは、営業担当者が技術的な実現性や工数を全く考慮せず、顧客に「できます」と約束してしまうことで発生します。

  • 典型的なセリフ: 「細かいことは、あとでエンジニアに相談しますので、まずはご契約を!」
  • エンジニアへの影響: 約束を守るため、エンジニアは本来あるべき美しい設計を諦め、無理やりなコードの「ツギハギ」で機能を実装します。このその場しのぎの対応が「技術的負債」となり、将来の開発に重くのしかかります。技術的負債が溜まったシステムは、少しの改修にも膨大な時間がかかり、頻繁にバグを発生させる、まさに「呪われた遺産」となるのです。 ある調査では、エンジニアは労働時間の約40%を、この技術的負債の対応に費やしているというデータもあります。これでは、新しい価値を生み出すための開発に時間を使えるはずがありません。

毒2:「とりあえず」が生む、製品コンセプト崩壊という毒

これは、明確な戦略なく、目先の売上のために、顧客の言いなりで「とりあえず」機能追加を繰り返すことで発生します。

  • 典型的なセリフ: 「A社がこの機能がないと契約しないと言っているので、とりあえず付けられませんか?」
  • エンジニアへの影響: 本来の製品が目指していたはずの、シンプルで美しいコンセプトは失われ、特定の顧客のためだけの機能が、無秩序に継ぎ足されていきます。その結果、製品は誰にとっても使いづらい、複雑怪奇な「キメラ」と化します。 エンジニアは、「自分たちは、一体何を作っているのだろうか」という目的意識を見失い、プロダクトへの愛情も薄れていきます。一貫性のない製品開発は、エンジニアのモチベーションを最も効果的に削ぐ毒の一つです。

毒3:「納期優先」が生む、エンジニアの成長機会枯渇という毒

これは、顧客の無理な要求を、営業がそのまま受け入れてしまうことで発生します。

  • 典型的なセリフ: 「お客様がこの日までに絶対に必要だと。なんとかしてください!」
  • エンジニアへの影響: 常に火事場の対応を強いられ、新しい技術を学んだり、既存のコードをより良くする「リファクタリング」を行ったりといった、未来への投資活動の時間が完全に奪われます。 エンジニアの成長とは、まさにこの「未来への投資」の時間の中でこそ生まれるものです。常に目先の消火活動に追われる消防士が、新しい消火技術を学ぶ訓練ができないのと同じように、エンジニアはただ疲弊し、スキルは陳腐化し、市場価値は下がり続けます。

「解雇」の前に、経営者が今すぐやるべきこと

では、本当に営業担当者を全員解雇すべきなのでしょうか。 コンサルタントとしての答えは「No」です。問題の本質は、個人の資質以上に、質の低い営業活動を許してしまっている「会社の仕組み」にあるからです。

エンジニアの成長を本当に願うなら、経営者は今すぐ、以下の3つの「仕組み」の改革に着手すべきです。

1. 営業と開発の「ルール」を再定義する 営業が、エンジニアの合意なしに、顧客と技術的な約束や納期を交わすことを、ルールとして明確に禁止します。受注前の「技術レビュー」を必須のプロセスとし、営業とエンジニアが、顧客の課題と、それに対する実現可能な解決策を、共に検討する場を設けるのです。

2. 営業の「評価制度」を変える 営業の評価指標を、短期的な「受注金額」から、より長期的で、質の高い指標へとシフトさせます。 例えば、「受注した案件の利益率」「納品後の顧客満足度」「大型案件へのアップセル率」といった指標を、評価の大きなウェイトを占めるように変更します。これにより、営業は「安くても、無理な案件でも、とりあえず受注する」というインセンティブを失い、「会社と顧客が、長期的にWin-Winになる案件」を厳選するようになります。

3. 「共通言語」と「敬意」の文化を育む 営業とエンジニア、双方の歩み寄りも不可欠です。営業は、自社製品の技術的な基礎や、開発プロセスの流れを学ぶべきです。エンジニアは、自社のビジネスモデルや、顧客がなぜその機能を欲しているのか、そのビジネス上の背景を学ぶべきです。 互いの仕事への理解と敬意が生まれた時、初めて両者は、顧客の課題解決という共通の目的に向かう、真の「パートナー」となることができるのです。

最後に:最高の料理は、最高の食材から

あなたの会社のエンジニアは、素晴らしい可能性を秘めた、一流の料理人たちです。 彼らの成長を心から願うのであれば、彼らに最高の調理器具を与える前に、まず、最高の「食材(質の高い案件)」を届ける仕組みを整えてください。

最高の食材とは、顧客の課題が明確で、技術的な挑戦のしがいがあり、そして何より、エンジニアが「これを解決したい」と心から思えるような案件です。そして、そのような食材を市場から見つけ出し、厨房に届けるのが、本来あるべきプロフェッショナルな営業の姿です。

エンジニアの成長は、研修ルームではなく、彼らが日々向き合う「課題の質」によって決まります。 そして、その課題の質を決めているのは、あなたの会社の「営業」なのです。


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