
【この記事はこんな方に向けて書いています】
- 毎日会社に行くのが辛く、漠然と「辞めたい」と考えている方
- 今の仕事への不満から、隣の芝生が青く見えて仕方がない方
- 転職を繰り返しているが、一向にキャリアが好転しないと感じている方
- 「キャリアアップ」という言葉に踊らされ、焦りを感じている方
- 自分の市場価値に自信が持てず、次の一歩をどう踏み出せばいいか分からない方
毎日お疲れ様です。満員電車に揺られ、上司の理不尽な指示に耐え、終わらない仕事に追われる日々。「もう、こんな会社辞めてやる!」そう心の中で叫んだこと、一度や二度ではないかもしれませんね。SNSを開けば、フリーランスで自由な生活を送る元同僚や、華やかな業界へ転職して成功した友人の姿が目に飛び込んでくる。それに比べて自分は…と、焦りや劣等感を感じるのも無理はないでしょう。
しかし、その「辞めたい」という感情に任せて、安易に退職届を出す前に、少しだけ立ち止まって考えてみてほしいのです。その決断は、本当にあなたの未来のためになるのでしょうか?もしかしたら、それは輝かしい未来への一歩ではなく、自らキャリアをドブに捨てる行為、つまり「キャリア放棄」と同じことなのかもしれないとしたら…?
今日は、あえて厳しい言葉を選んで、この現実をあなたに突きつけたいと思います。これは綺麗事ではありません。会社という戦場で生き抜き、自分の価値を高めていくための、極めて現実的な戦略の話です。耳の痛い話も多いでしょうが、最後まで聞けば、今のあなたがいる場所の見え方が、少し変わるはずです。
なぜ安易な退職が「キャリア放棄」だと言えるのか?
さて、いきなり過激なことを言いましたが、なぜ私が安易な退職を「キャリア放棄」とまで断じるのか。その理由からお話しします。多くの人は、「キャリア」という言葉を、単なる職務経歴、つまりどの会社に何年いました、という記録のように捉えています。しかし、それはキャリアの表面的な側面に過ぎません。
本当の意味でのキャリアとは、あなたがその場所で築き上げた「専門性」と「信頼」の積み重ね、そのものです。専門性とは、単なるスキルではありません。その会社の文化や人間関係、仕事の進め方といった、言語化しにくい「暗黙知」も含めて、あなたがどれだけ深く業務を理解し、価値を発揮できるかということです。そして信頼とは、あなたという人間が、困難な状況でも仕事をやり遂げる、仲間を裏切らない、という実績によって得られる、お金では買えない資産です。
安易な退職、特に1年や2年といった短期間での離職は、この専門性と信頼の蓄積を、自らリセットする行為に他なりません。考えてみてください。ようやく仕事の流れを覚え、周囲との関係性も出来てきて、「これから」という段階で投げ出してしまう。次の会社に行けば、またゼロからのスタートです。新しい環境、新しい人間関係、新しい仕事のルール。それらを覚え直している間に、時間はあっという間に過ぎていきます。これを繰り返していては、いつまで経っても専門性は深まらず、どこに行っても「浅くて広い」だけの、替えの効く人材で終わってしまいます。
企業側の視点に立ってみましょう。採用担当者は、あなたの履歴書を見て何を思うでしょうか。短期離職を繰り返す人物を見て、「うちの会社でも、何か気に入らないことがあればすぐに辞めてしまうだろうな」「ストレス耐性が低いのかもしれない」「スキルが定着していないだろう」と判断するのは、ごく自然なことです。実際に、ある転職サービス会社の調査によれば、採用担当者の約7割が「1年未満の離職経験」をネガティブに捉えるというデータもあります。口では「多様な経験」と聞こえの良いことを言うかもしれませんが、本音では、腰を据えて会社に貢献してくれる人材を求めているのです。
「でも、自分は成長できる環境を求めているんだ」と反論したくなるかもしれません。その気持ちは分かります。しかし、成長とは、誰かが用意してくれるものではありません。目の前の仕事に主体的に向き合い、課題を見つけ、解決策を考え、周囲を巻き込んで実行する、そのプロセスの中にこそ、本当の成長があるのです。不満がある環境だからこそ、それを改善しようと試行錯誤すること自体が、あなたを何倍も強く、たくましくするのです。その機会を自ら放棄することは、成長の機会を捨てているのと同じこと。だからこそ、私は安易な退職を「キャリア放棄」と呼ぶのです。
「隣の芝生は青い」症候群、あなたもかかっていませんか?
あなたが「会社を辞めたい」と思う根本的な原因は何でしょうか。長時間労働?低い給料?それとも、人間関係でしょうか。もちろん、それらは深刻な問題です。しかし、一度冷静になって考えてみてほしいのです。その不満は、本当に「転職」でしか解決できないのでしょうか。
現代は、SNSなどを通じて、他人の成功が可視化されやすい時代です。同世代が活躍している姿、自由な働き方を謳歌しているインフルエンサー。そういった情報に日常的に触れていると、まるで自分のいる場所だけが、色褪せた世界のように感じてしまうことがあります。いわゆる「隣の芝生は青い」症候群です。
「あの会社なら、もっとやりがいのある仕事ができるはずだ」 「フリーランスになれば、面倒な人間関係から解放されるに違いない」 「もっと給料の高い会社に行けば、幸せになれるはずだ」
こうした期待を胸に、多くの人が転職市場に足を踏み入れます。しかし、現実はそれほど甘くはありません。厚生労働省が発表している雇用動向調査の結果を見ても、転職者が前職を辞めた理由の上位には、常に「労働条件」「仕事内容」「賃金」「人間関係」が並びます。これは何を意味するか。つまり、どの会社に行ったとしても、多かれ少なかれ、同じような問題は存在するということです。
人間関係のない職場などありません。むしろ、新しい環境では、あなたがゼロから信頼を勝ち取らなければならず、既存のコミュニティに入っていく労力は計り知れません。給料が上がったとしても、それに見合う、あるいはそれ以上の成果を求められ、プレッシャーは増大するでしょう。やりがいを求めて転職したはずが、任されたのは雑用ばかり、というケースも少なくありません。
問題は、会社という「場所」にあるのではなく、あなた自身の「物事の捉え方」や「働きかけ」にあるのかもしれない。そう考えたことはありますか?例えば、上司との関係に悩んでいるなら、コミュニケーションの取り方を変える努力をしてみましたか?仕事がつまらないと感じるなら、その中で面白さを見出す工夫や、改善提案をしてみたでしょうか?
もちろん、全ての責任をあなたに押し付けるつもりはありません。しかし、環境のせいにして思考を停止し、「ここではないどこか」に安易な救いを求める姿勢こそが、あなたのキャリアを停滞させる元凶なのです。隣の芝生が青く見えるのは、あなたが自分の庭の手入れを怠っているからかもしれない。まずは、今の場所でできることを、本当にやり尽くしたのか。自分の胸に、もう一度問いかけてみてください。
あなたが失う「見えない資産」の正体
会社を辞める時、多くの人が失うものとして意識するのは、給料や役職、福利厚生といった目に見えるものばかりです。しかし、本当に手痛い損失は、これまであなたが時間をかけて築き上げてきた「見えない資産」を失うことにあるのです。
この「見えない資産」とは、一体何でしょうか。
一つは、先ほども触れた「社内での信頼」です。例えば、あなたが何か新しい企画を立ち上げたいと思った時を想像してください。今の会社であれば、「〇〇さんが言うなら、一度話を聞いてみようか」「彼が困っているなら、少し無理してでも協力してやろう」と、手を差し伸べてくれる同僚や他部署の協力者がいるはずです。これは、あなたが日々の仕事を通じて、誠実な態度で成果を出し、人間関係を構築してきたからこそ得られた、貴重な資産です。転職すれば、この資産は一夜にしてゼロになります。新しい職場で、あなたのことを誰も知らない状況から、再びこの信頼を一つひとつ積み上げていくのは、並大抵のことではありません。
二つ目は、「暗黙知」です。これは、マニュアルには書かれていない、その会社特有の仕事の進め方や力学、キーパーソンは誰か、といったノウハウのことです。この暗黙知をどれだけ持っているかが、仕事のスピードと質を大きく左右します。転職者は、まずこの暗黙知をキャッチアップすることから始めなければならず、最初の数ヶ月、あるいは一年は、本来の実力を発揮できずに苦しむことも少なくありません。その間にも、社歴の長いライバルたちは、どんどん先へ進んでいきます。
そして三つ目は、「失敗できる権利」です。え、と思われるかもしれませんが、これも立派な資産です。ある程度の期間在籍し、会社に貢献してきたあなたには、多少の失敗は許される空気があったはずです。「今回は仕方ないな、次頑張れよ」と。しかし、転職者、特に高い給料で迎えられた中途採用者には、失敗は許されません。即戦力として期待されている以上、早々に成果を出すことが求められます。常に結果を出さなければならないというプレッシャーの中で、思い切ったチャレンジはしづらくなるでしょう。
これらの「見えない資産」は、あなたが会社にいる間は当たり前のように感じて、その価値に気づきにくいものです。しかし、一度外に出て初めて、そのありがたみと、失ったものの大きさを痛感することになるのです。安易な退職は、これらの貴重な資産を、一時的な感情と引き換えに投げ捨てる行為だということを、決して忘れないでください。
「キャリアアップのための転職」という幻想
「今の会社にいても成長できないから、キャリアアップのために転職するんです」
これは、退職者が決まって口にする、魔法の言葉です。聞こえは非常にポジティブですし、前向きな決断のように思えます。しかし、私はこの言葉にこそ、大きな罠が潜んでいると考えています。
まず問いたいのは、あなたの言う「キャリアアップ」とは、具体的に何なのか、ということです。年収が上がることですか?役職がつくことですか?それとも、より大きな裁量権を持つことでしょうか?この定義が曖昧なまま、「キャリアアップ」という言葉に酔いしれていませんか?
例えば、年収が50万円上がったとしましょう。しかし、その分、残業時間は大幅に増え、プライベートの時間は削られ、心身ともに疲弊してしまったとしたら。それは本当に「アップ」したと言えるのでしょうか。肩書きが主任から係長になったとしても、任される仕事が今までと変わらない、むしろ管理業務が増えて現場のスキルが錆びついていくとしたら、それはキャリアの向上に繋がっているのでしょうか。
転職サービスdodaの調査によれば、転職で年収が上がった人は全体の約6割。しかし、そのうち「100万円以上アップ」したのはわずか1割程度です。多くの人は、微増か横ばい、あるいはダウンしているのが現実です。年収アップを主目的にした転職が、いかに再現性の低いギャンブルであるかが分かります。
本当のキャリアアップとは、今の環境で、今の仕事を通じて、あなた自身の「価値」を高めることです。誰が見ても「この仕事は〇〇さんにしか頼めない」と言われるような圧倒的な専門性を身につけること。困難なプロジェクトを成功に導き、周囲からの絶対的な信頼を勝ち取ること。それこそが、揺るぎないキャリアの土台となります。
もし、今の会社でそうした成果を出せていないのであれば、それは環境のせいではなく、あなた自身の問題である可能性が高い。厳しい言い方ですが、今の場所でエースになれない人間が、別の場所に行ったからといって、急にエースになれるわけがないのです。
「キャリアアップのための転職」を考える前に、まずは「今の会社でキャリアアップする」ことを考えてください。今の会社のリソースを、人脈を、知名度を、徹底的に使い倒して、自分の市場価値を高めるのです。会社を踏み台にして、自分の専門性を磨き上げる。それくらいの気概を持って仕事に取り組んで初めて、本質的なキャリアアップへの道が見えてくるはずです。その結果として、社内でより重要なポジションを任されるかもしれないし、あるいは、圧倒的な実績を引っさげて、より良い条件で他社から声がかかるかもしれません。順番を間違えてはいけないのです。
では、どうすればいいのか?会社を辞めずにキャリアを築く生存戦略
ここまで、会社を安易に辞めることのリスクについて、厳しくお話ししてきました。では、不満を抱えたまま、ただ我慢し続けろと言うのか。もちろん、そんなことはありません。むしろ、その不満や危機感をエネルギーに変えて、今の場所で賢く、したたかに立ち回るべきなのです。ここでは、会社を辞めずに自分のキャリアを築いていくための、具体的な生存戦略をお伝えします。
まずやるべきは、「社内での価値向上」です。これは、受け身で仕事をするのをやめ、能動的に自分の価値を高めにいく、ということです。例えば、今の部署の仕事にマンネリを感じているなら、積極的に社内公募制度を利用したり、上司に異動希望を伝えたりしてみましょう。すぐに希望が通らなかったとしても、その意思表示をすること自体が重要です。あなたのキャリアプランを会社に認知させ、チャンスが来た時に声をかけてもらいやすくなります。
また、誰もやりたがらないような、困難なプロジェクトに自ら手を挙げるのも有効です。火中の栗を拾う行為は、短期的には大変ですが、それを乗り越えた時のリターンは計り知れません。成功すればもちろん大きな実績になりますし、たとえ失敗したとしても、その挑戦する姿勢は必ず誰かが見ています。その経験は、あなたの血肉となり、他の誰にも真似できない強みになるでしょう。
そして最も重要なのが、目の前の仕事で圧倒的な成果を出すことです。当たり前のことですが、これが全ての基本です。誰よりも早く、誰よりも質の高いアウトプットを出し続ける。そうすれば、自然と発言力は増し、仕事のやり方についてもある程度の裁量が認められるようになります。「〇〇さんの言うことなら間違いない」という信頼を勝ち取れば、理不尽な要求をされることも減り、仕事は格段に進めやすくなるはずです。
次に、こうした社内での活動と並行して、「客観的な市場価値の把握」も行いましょう。これは、会社を辞めるためではありません。自分の立ち位置を正確に知るためです。転職エージェントに登録して、キャリアカウンセリングを受けてみるのが手っ取り早いでしょう。あなたの経歴やスキルが、市場でどの程度の価値があるのか、どんな企業から需要があるのかをプロの視点から教えてもらえます。そこで高い評価を得られれば自信になりますし、もし厳しい評価をされたなら、今の会社で何を補うべきかが明確になります。自分の値段を知らずに、商品を売ろうとする商人がいないのと同じです。
今の会社は、あなたを成長させるための最高のトレーニングジムです。給料をもらいながら、様々な設備(リソース)やトレーナー(上司・同僚)を使って、自分を鍛え上げることができる。そう発想を転換してみてください。会社に不満を言うだけの消費者から、会社を利用し尽くして成長する生産者へ。その意識改革こそが、最強のキャリア生存戦略なのです。
それでも辞めるべき時もある。その見極め方とは
さて、ここまで一貫して「安易に辞めるな」と主張してきましたが、もちろん、例外はあります。どのような状況であっても、絶対に会社にしがみつけと言っているわけではありません。中には、一刻も早くその場から離れるべき「辞めるべき時」というものが、確かに存在します。これは、感情的な「逃げ」ではなく、自分の未来を守るための「戦略的撤退」です。その見極め方を、最後にお話しします。
第一に、そして最も重要なのが、あなたの「心と体の健康」が脅かされている場合です。過労で倒れそうだ、毎朝吐き気がする、夜眠れない、といった状態は、極めて危険なサインです。キャリアがどうこう言う前に、あなたが健康でなければ、何も始まりません。心や体を壊してまで、続ける価値のある仕事など、この世に一つもありません。専門家の助けを借りることも含め、即座にその環境から離れることを最優先に考えてください。これは議論の余地のない、絶対的な基準です。
第二に、「会社の事業そのものに、明らかに将来性がない」と確信できる場合です。業界全体が縮小傾向にあり、自社のビジネスモデルも時代遅れ。何度改善提案をしても経営陣は聞く耳を持たず、茹でガエルのようにゆっくりと沈んでいくのが目に見えている。こうした状況では、あなたがいくら個人で努力しても、限界があります。沈みゆく船と運命を共にする必要はありません。会社の将来性を見極め、見切りをつけることも、重要なキャリア判断の一つです。
第三に、「ハラスメントやコンプライアンス違反が横行している」場合です。違法な長時間労働の強制、いじめやパワハラの黙認、不正行為への加担の強要など、人として、社会人として、許容できないことがまかり通っている会社からは、即刻離れるべきです。あなたの倫理観や尊厳を傷つけてまで、所属する意味はありません。
これらのケースは、もはや「キャリア放棄」ではなく、自分自身を守るための「危機回避」であり、「戦略的撤退」です。大切なのは、一時的な感情や人間関係の好き嫌いで判断するのではなく、客観的な事実に基づいて、冷静に見極めることです。その決断が、感情的な「逃げ」なのか、それとも未来への合理的な「選択」なのか。その違いを、あなたはもう理解できるはずです。
自分のキャリアの舵取りは、最終的にはあなた自身にしかできません。今日の話が、その羅針盤の針を、少しでも正しい方向に向けるきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。



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